le19Mのギャラリーで、森から始まる『変容、メゾン ミッシェルの帽子』展が開催中。

Paris

パリ19区のla Galerie du 19Mで開催中の『Métamorphoses, les chapeaux de Maison Michel』展は、完成された帽子を並べるだけの展覧会ではなく、そのサヴォワールフェール、手作業にフォーカスした展覧会である。1997年に活動が始まったシャネルのメティエダールに参加した最初のアトリエのひとつが、帽子のメゾン ミッシェルだった。90年前の1936年に、サンタンヌ通り35番地にオーギュスト・ミッシェルが創業。ここはいまでは和食店が立ち並ぶ通りだけれど、当時はヴァンドーム広場周辺にクチュールメゾンが多く集まっていたので、広場からこの通りにかけてオートクチュールに関わるサヴォワールフェールを持つアトリエが多く集まっていたのだ。たとえば造花のレジュロン、いまではle19Mに入っているプリーツのロニオン……。アトリエは建物の完成と同時にle19Mに移動し、いまもシャネルそして他のクライアントのために帽子作りを続けている。2015年からプリシラ・ロワイエがアーティスティックディレクションを担当。彼女はガリエラ美術館のディレククター、エミリー・オーマンとともに、この展覧会のキュレーションを担当した。

今年90周年を迎えた帽子のアトリエ、メゾン ミッシェル。90年間変わらぬ手仕事がいまもアトリエで行われている。photography: Alix Marnat

帽子展が森で始まる驚き

展覧会はいかに帽子が生まれるか。その工程を「始まり」「トランスフォーム」「メタモルフォーゼ」「完成」の4部構成でポエティックに紹介。そして締めくくりは、帽子が役作りにひと役買っている映画の抜粋を流す「帽子と第七芸術(映画)」だ。

創業以来メゾンが所蔵する帽子の木型は約4,000。これはメゾン ミッシェルのおおいなるインスピレーション源である。展覧会はそれらの一部を展示した森の光景からスタートする。フォルムはさまざまなれど木型の素材は帽子の型作りに最適な菩提樹だそうだ。木はフォルミエと呼ばれる木型作りの職人が帽子型に彫刻。帽子作りの最初のクリエイティブなステップだというその仕事は、le19M内のメゾン ミッシェルで家具職人のアトリエの様相を呈するスペースで職人ロレンツォ・レによって若い世代に継承されている。

帽子の木型を並べた森。現代アーティストAmaury Darrasによる木の彫刻がこの展示のために制作された。photography: Mariko Omura
菩提樹から始まる帽子作り。会場では素材、道具などを展示して工程を解説している。木のブロックは帽子1型につき2〜5個。le19M内のメゾン ミッシェルのアトリエでは木型を彫るフォルミエが若い二人にサヴォワールフェールを継承中だ。photography: Mariko Omura

帽子の2大素材であるフェルトと麦わら。フラットなこの素材が3次元のフォルムとなるには人間の手が必要だ。フェルトはスチームと熟練職人の手技で木型に合わされ、麦わらはいまや製造されていない特殊なミシンで、職人の手で加減を見ながら帯状の素材をスパイラルに縫い合わせて……。創業の時代のアトリエから現在のle19Mのアトリエで駆使されている、90年間継承されている帽子作りのサヴォワールフェールだ。技を語る展覧会である。道具などの展示に加えて、実際にアトリエで行われている各段階の手作業を映像でいいのでしっかりと見られたら、と少し残念に思わなくもない。

フェルトと麦わらという2つの素材にクローズアップ。右は麦わら用のワイスマン社のミシン。photography: Mariko Omura
Amaury Darrasによる木の彫刻のように若いアーティストたちにオーダーされた作品が、展覧会に生き生きとした魅力を与えている。左はフェルトを素材にしたDiane Gaignouxの不思議な生き物、右は麦わらをテーマにしたEmily Hurstのビデオ。photography: Mariko Omura
リボン、レースなど帽子の装飾のコーナー。photography: Mariko Omura

製造の段階ごとに職人の手仕事の大切さを見せ、そして2つのタイプの展示で完成した帽子を見せるコーナーが設けられている。ひとつは周囲の壁にアムステルダムをベースにする写真家Bastiaan Woudtのグラフィックなモノクロ写真9点を並べた会場内に、カプリーヌやビビといった14のアイコニックなフォルムの帽子の展示。そしてもうひとつは「完成」のコーナーだ。ここではメゾン ミッシェルが手がけた歴代のクリエイティブ・ディレクターたちによるシャネルのコレクションのための帽子、そしてメゾン マルジェラ、J.W.アンダーソンなど他のメゾンのための帽子も展示。メゾン ミッシェルはシャネルの傘下といえど、その職人仕事をあまねく他のメゾンにも提供しているのだ。

14のアイコニックな帽子を紹介するモノクロームの部屋。向かいの壁では、メゾンの90年の歴史を紹介している。photography: Mariko Omura
カール・ラガーフェルド時代のシャネルのための帽子を展示。photography: Mariko Omura
左:マチュー・ブレイジーによるシャネルの帽子。 右:ジョン・ガリアーノによるメゾン マルジェラのための帽子。photography: Mariko Omura

展覧会の締めくくりは映画で。椅子を並べたゆったりとしたプロジェクションルームでは、帽子が印象的な映画の抜粋を流している。スクリーンに登場する帽子はメゾン ミッシェルに限らず。たとえば『ロシュフォールの恋人たち』のカプリーヌ帽はジャン・バルテだ。la Galerie du 19Mの展覧会は入場無料。期間中、帽子作りにまつわるアトリエも開催される。

photography: Mariko Omura
監督ミシェル・ゴンドリーによるセット。20世紀初頭のメゾン ミッシェルのブティック。その窓の外の光景として流される、当時の雰囲気が再現された映像も見どころだ。photography: Mariko Omura

『Métamorphoses / Les chapeaux de Maison Michel』
開催中~12月13日
la Galerie du 19M
2, place Skanderberg
75019 Paris
開)11:00〜18:30
休)月
https://www.le19m.com/en
@le19m

大村 真理子

madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター

東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。2006年から「フィガロジャポン」パリ支局長を務めた後、フリーエディター活動を再開。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。