ジェルマン、ユーゴ、オニール八菜の夢のトライアングル。

パリとバレエとオペラ座と。

この連載の前回では、東京の東急シアターオーブで1月に開催される「ル・グラン・ガラ 2018」から『トリスタンとイゾルデ』を紹介した。同公演で踊られるもうひとつのバレエ『ヴェーゼンドンク歌曲集』は、このガラのために創作され、世界初演となる。配役はパリ・オペラ座のエトワールのジェルマン・ルーヴェとユーゴ・マルシャン、そしてプルミエール・ダンスーズのオニール八菜という、今後バレエ団を背負って行く20代前半の3名。若手の中で実力も人気においても、これ以上は望めない、というゴージャスな顔ぶれだ。9月に開幕したオペラ座のシーズン2017~18でも3名の活躍ぶりは顕著である。簡単に紹介しよう

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パリ・オペラ座で10月後半から11月半ばに踊られたバランシンの『アゴン』で舞台を共にしたユーゴ(左)、ジェルマン(中央右)、八菜(右)。photo:Agathe Poupeney(Opéra national de Paris)

ジェームス・ボルトが撮影し、編集した『ヴェーゼンドンク歌曲集』 のティザー。ワグナーの音楽にのせ、ダンサー3人の体が美しく絡み合う。

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ジェームス・ボルトによるティーザー用の映像撮影より。

■ ジェルマン・ルーヴェ

どことなく夢を見ているような瞳とほっそりとしたシルエットの持ち主の彼。オペラ座においてマチュー・ガニオ以来のプリンス系エトワールといっていいだろう。芸術監督に就任後、オレリー・デュポンが任命した初のエトワールがジェルマンで、配役にも恵まれている。今シーズンは開幕ガラで『ジュエルズ』のダイヤモンドを踊り、その後の公演ではエメラルドとダイヤモンドの2つに配役されていた。さらに10月後半から11月半ばまでのトリプルビル『バランシン、テシガワラ、バウシュ』では、バランシンの『アゴン』と勅使河原三郎の創作『グラン・ミロワール』。両作品を踊る晩もしばしば、その時は幕間20分の間にバランシンの白黒のシンプルな衣装を脱ぎ捨て、体と顔をカラフルに塗って『グラン・ミロワール』のステージに立つ。フォーサイスやマクレガーといったコンテンポラリー作品をすでに経験している彼だが、インプロヴィゼーションが盛り込まれたこの作品は新体験なのだろう。毎回楽しんでいる様子が見られた。12月は、レオノール・ボーラックを相手に『ドン・キホーテ』でバジリオを初役で踊る。

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『ジュエルズ/ダイヤモンド』でミリアム・ウルド=ブラムとパ・ド・ドゥ。photo:Julien Benhamou(Opéra national de Paris)

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『アゴン』のジェルマン。後方はセ・ウン ・パク(左)とオニール八菜。photo:Agathe Poupeney(Opéra national de Paris)

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勅使河原三郎の創作『グラン・ミロワール』では諏訪内晶子のヴァイオリン演奏にのせて、即興で。photo:Sébastien Mathé(Opéra national de Paris)

■ ユーゴ・マルシャン

3月のオペラ座来日公演中、『ラ・シルフィード』の主役を踊ってエトワールに任命されたユーゴ・マルシャン。彼は開幕ガラではリュドミラ・パリエロを相手に『3つのグノシエンヌ』を踊る大役を任されている。オレリー・デュポン芸術監督の彼に寄せる信頼の大きさが明快だ。そして公演『ジュエルズ』ではエメラルドは7月のNYツアーで経験ずみだが、本拠地オペラ座ではそれに加え、ダイヤモンドにも配役された。先輩エトワールのアマンディーヌ・アルビッソンを相手に、ロマンティックな煌めきを舞台狭しと放った彼。フランスの主要マスコミもそんな彼を見逃さず。10月には日刊紙Libérationの最終ページを彼の写真とインタビューが飾った。ここは「時の人」を語るページである。そして週刊誌L’Expressの10月半ばのメンズ特別号では15ページに渡るファッションページでモデルを務め、かつエトワール・ダンサーとしてインタビューページも設けられていて……もちろん表紙もユーゴという素晴らしい扱いだった。今年は夏にも来日している彼だが、1月、さらなる成長ぶりを日本のバレエファンに見せてくれるにちがいない。

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3月の来日ツアーで『ラ・シルフィード』を踊り、エトワールに任命されたユーゴ。『ジュエルズ/ダイヤモンド』では、その時のパートナー、アマンディーヌ・アルビッソンと再び。photo:Julien Benhamou(Opéra national de Paris)

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『ジュエルズ/エメラルド』にて。八菜とはこの作品のNY公演でも舞台を共にした。photo:Julien Benhamou(Opéra national de Paris)

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ミリアム・ウルド= ブラムと『アゴン』のパ・ド・ドゥ。 photo:Agathe Poupeney(Opéra national de Paris)

■ オニール八菜

母親が日本人で、8歳まで住んでいた東京でバレエを習い始めたこともあり、改めて紹介する必要がないほど彼女の日本での知名度は高い。オペラ座バレエ団の臨時雇用団員を2年勤めた後に正式団員になるや、あっという間にプルミエール・ダンスーズまで上がり、エトワール任命を待つばかりというポジションにある頼もしい彼女に、バレエファンならずとも日本中が注目してしまうのだろう。最年少のプルミエール・ダンスーズだが、今シーズンも先輩たちを差し置いての活躍が目覚ましい。開幕公演の『ジュエルズ』ではエメラルドとルビーに配役され、フランス・スタイルとアメリカ・スタイルを見事に踊り分けた。その後は『アゴン』。バランシン作品が2つ続いた後、年末はヌレエフの『ドン・キホーテ』でキュピドン、そして街の踊り子に配役されている。後者は過去にマリ=アニエス・ジロ、ローラ・エケなどが踊った役。『ヴィーゼンドンク歌曲集』のマティルデとは異なる女性像であるが、八菜がどのように大人びた女を踊るかは楽しみである。

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エメラルドの宝石のように品格のある輝きをダンスで表現した八菜。photo:Julien Beanhamou(Opéra national de Paris)

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『アゴン』では将来が楽しみなポール・マルク(スジェ)とプルミエ・ダンスールのアルチュス・ラヴォーと共に。photo Sébastien Mathé (Opéra national de Paris)

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ジェームス・ボルトがセットした美しい照明を浴びてポーズをとる八菜。この撮影当時は髪を伸ばしている最中でとても長かったが、念願のヘアドネーションを果たしたいまはシニヨンも小さくなっている。

■『ヴェーゼンドンク歌曲集』について

こうした旬のダンサー3名を『ヴェーゼンドンク歌曲集』に配役したのは、作品を創作したジョルジオ・マンチーニのアイデアである。

「八菜のことはローザンヌのコンクール以来知っています。16歳くらいだったでしょうか。彼女が優勝したときを僕は見ていて、それ以来気になっていたダンサーなんですよ。ユーゴとジェルマンは、まだ彼らがスジェだった頃に公演で見て、注目をしていました。『ヴェーゼンドンク歌曲集』に彼らはパーフェクト。素晴らしいトリオになるという確信がありました」

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ジュネーヴ・バレエ団、フィレンツェ・バレエで芸術監督を務めたジョルジオ・マンチーニ。photo:James Bort

ワグナーの大ファンだというジョルジオ。この歌曲集もよく聞いている作品のひとつで、2年前の夏に『トリスタンとイゾルデ』がイタリアのラヴェロで踊られた時は、公演のイントロとして「ヴェーゼンドンク歌曲集」から1曲を使ったそうだ。

「その時以来、これでバレエを作るのは悪くないぞ、と思っていました。というのも楽想が同じなんですね。ワグナーは『ヴェーゼンドンク歌曲集』の一部を『トリスタンとイゾルデ』に活用しているので、トリスタンを聞いているとあるところでヴェーゼンドンクの音楽が戻って来るのですよ。言い方を変えると、ワグナーは『トリスタンとイゾルデ』で、改善をしたということになります」

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撮影した映像をダンサーたちとチェックするジョルジオ。

ドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオに創作した『トリスタンとイゾルデ』が日本初演されるにあたり、それに組み合わせて、しっかりとした構成のプログラムを作る必要があった。それに最適な作品だということから、彼が心に温めていた『ヴェーゼンドンク歌曲集』の創作が実現に至ったのだ。

「亡命中だったワグナーが『トリスタンとイゾルデ』に取り掛かっている時、チューリヒに住む富豪のパトロンであるオットー・ヴェーゼンドンク氏に招かれて、作曲に専念できるようにと敷地内の別棟を彼は与えられたんですね。夫人のマティルデは詩を書きます。彼は彼女の詩に曲をつけます。こうして生まれたのが『ヴェーゼンドンク歌曲集』。ワグナーにはその時、これによって彼女を誘惑しようという気持ちがあったのでしょう。2人は違いに惹かれあい、夫は2人の恋愛に目をつぶり……三角関係ですね。しかし、ワグナーは彼女が夫と別れることは決してないと察し、ヴェーゼンドンク家を去ってゆきます」

夫人との情熱的かつ不可能な愛を経験した彼は、その後、1859年に『トリスタンとイゾルデ』を完成させた。バレエには登場しないが、イゾルデはトリスタンの伯父の妻となる女性というように、この中世の伝説もまた結ばれるはずのない男女の物語。2作品には敵わぬ愛という重なり合うものがある。

■ ジョルジオ・マンチーニの創作

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『ヴェーゼンドンク歌曲集』のためのジェームス・ボルトによるティザー撮影現場から。スローモーションフィルムのようにゆっくりとした動きで3名が腕を絡ませ、体を重ね……。

1月に世界初演されるこのバレエ作品は、どのような振付けなのだろうか。ジョルジオが考えたのは、同じガラで踊られる 『トリスタンとイゾルデ』とコントラストをなすように、ということだった。

「『ヴェーゼンドンク歌曲』は3名が絡み合う物語。男性2人の間には通い合うものがあるものの、関係は混み入っています。といっても、これは具体的にストーリーを語るバレエではありません。八菜はマティルデですが、ジェルマンはヴェーゼンドンクでもありワグナーでもあり、そしてユーゴもヴェーゼンドンクでもありワグナーでもあり、というように関係は曖昧なんです。身体と身体が接近した動きを多く取り入れていてソロあり、デュオあり、トリオあり……。僕の振り付けですから激しいものではないですが、『トリスタンとイゾルデ』のダンスが夢の中の出来事のように軽やかなのに対し、こちらはけっこうテクニック面がダンサーに要求されます。身体を強調したかったので、衣装は肌の色に近いミニマルなものにしました。そして照明、舞台装置もシンプルにする方向です」

『ヴェーゼンドンク歌曲集』は「天使」「心穏やかに!」「温室にて」「心痛」「夢」の5曲の構成。このバレエにおいてジョルジオは最後の「夢」を2回使う。最初はオーケストラでヴァイオリンがまるで女性の歌声のように。そして締めくくりの「夢」は歌で、といった演出を考えているらしい。

オペラ座バレエ団において、日頃から仲のよい3名のダンサー。息のあった素晴らしい舞台を見せてくれることだろう。愛の国イタリアで生まれ育ったジョルジオによるロマンティックでセンシュアルな振付けを、若い彼らがどのように踊るのか。これも見どころである。   

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ダンサーにポーズをつけているのはジェームス・ボルト。公演の詳細は www.tbs.co.jp/event/parisopera-gala にて。photo:Mariko OMURA

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。

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