オペラ座ダンサー8名が踊る、今夏の豪華なグラン・ガラ。

パリとバレエとオペラ座と。

2018年1月、オペラ座の最高峰のダンサー5名を集めて東京で開催されたル・グラン・ガラ。ワグナー作曲の『トリスタンとイゾルデ』と『ヴェーゼンドンク組曲』に創作された日本初演の2作品で、バレエファンのみならず音楽ファンをも魅了した。ドロテ・ジルベール、マチュー・ガニオ、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェという素晴らしいエトワール4名とプルミエール・ダンスーズのオニール八菜という豪華なメンバーだったのだが、この5名にさらにアマンディーヌ・アルビッソン、レオノール・ボラック、オードリック・ベザールの3名が加わり、7月下旬、「ル・グラン・ガラ2019」が日本に戻ってくる。

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2月に行われた「ル・グラン・ガラ2019」のメインビジュアル撮影のひとコマ。

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グループの雰囲気は相変わらず和気藹々だ。照明の美しさで定評のある写真家ジェームス・ボルト(左から2人目)が前回同様、撮影を担当。

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世界初演『マリア・カラス〜踊る歌声〜』

現在オペラ座で活躍しているダンサーたちの中でも、極上のダンサーたちを集めたこの公演。プログラムは2種あり、Bプログラムではこのガラ参加者全員が踊るジョルジオ・マンチーニによる世界初演作が用意されている。前回はワグナーを巡る日本初演2作品だったけれど、今回、ジョルジオがフォーカスしたのは20世紀最大のディーヴァ、マリア・カラス。4月の上旬にフィレンツェをベースにするジョルジオがパリに滞在し、約3週間をかけて創作が行われた。どんな作品になるのだろうか。

ジョルジオによるとタイトルは『マリア・カラス〜踊る歌声〜』だという。彼はその理由を次のように説明する。

「ふたつあります。ひとつ目は、カラスの歌声が引き起こす感動を、動きを介してダンスに置き換えるというのがこのバレエのアイデアだからです。ふたつ目はカラスの声はとても特殊で、鋭く、重く、波打つ……と自由自在に動くんですね。つまり彼女の声そのものが踊っていたのです」

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ドロテ・ジルベールとユーゴ・マルシャン。

2年前がカラスの没後40周年で、彼はこの時にカラスの歌でバレエを! というアイデアを抱いたそうだ。今年のグラン・ガラのための新作を求められた彼は、大切に温めていた思いを実現に移すことにした。

「カラスのアリアを集中して聞き直しました。彼女の歌声を聞き、改めて強く感情を感動をかき立てられ、それで思ったのは彼女の人生を語らなければ! ということでした。彼女が必要としていた愛。愛を求め、捨てられて。父親、オナシス……カラスの人生はその連続でした。誰もが愛を必要とし、捨てられることに怯え。これはとても普遍的なテーマといえますね」

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アマンディーヌ・アルビッソンとマチュー・ガニオ。

ジョルジオはアン・エドワーズが書いた伝記を読んで、彼女の声が生むエモーションがどこから来るのかが、よくわかったという。彼の心を捉える彼女の苦痛、悲しみがこもった歌声の裏にある彼女の人生。ディーヴァへの道へとプッシュし続ける母親、そんな家庭から去っていった父……彼女は心の中で常に父を追い求めていた。最初の結婚相手もオナシスも年齢がかなり上の男性だった。昨年末に公開されたトム・ヴォルフによる映画『私は、マリア・カラス』も、カラス自身がカラスを語る作りになっていることを彼はとても評価している。

「バレエ作品には4つのパ・ド・ドゥが含まれ、各カップルがカラスの人生の断片を綴ります。生涯を通じて父親を求めていたカラスなので、僕は放棄から作品を始めることにしました。アマンディーヌとマチューで、『夢遊病の女』からのアリアを使います。ふたつ目のパ・ド・ドゥは『清教徒』で、踊るのはレオノールとジェルマン。すべてが彼女にとって良い状態で進む状態で、若さ、新鮮といった面がここでは見られます。3つ目は八菜とオードリックによる、孤独を語るパ・ド・ドゥ。アリアは『オルフェオとエウリディーチェ』から。そして最後は『トルヴァトーレ』でテーマは愛。ドロテとユーゴが踊ります」

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レオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェ。

さらにカラスの女性としての強さ、センシュアリティを表現する女性4名が踊る「カルメン」があり、ヴィスコンティ、パゾリーニといった同性愛者だがカラスを愛した劇場関係者を男性4名が「ラ・ヴァリ」からのアリアで踊る。そしてダンサー8名全員が「ノルマ」の中の有名な「カスタディーヴァ」で、フィナーレ!

素晴らしいアリアばかりなので、使う曲を選ぶのはジョルジオには難しい作業だったという。50分の作品全体を流れる音楽的リズムを考慮した結果、これらのアリアに決めたそうだ。パリでダンサーたちとの仕事を始める前に、ステップ以外、彼の頭の中には作品の骨格がすっかり完成していた。アマンディーヌ、レオノールそしてオードリックの新たに加わった3名も、すぐにジョルジオのスタイルに馴染み、創作は良い雰囲気の中でとても快調に進んだという。明るいジョルジオとの仕事は、疲れている時でもダンサーたちはモチベーションをかき立てられるといい、ジョルジオの方でも技術的に優れ、かつ美しいオペラ座のダンサーたちとの仕事は願ってもないことだ。前回のグラン・ガラ以上の信頼で結ばれた創作者とダンサーたちによる『マリア・カラス〜踊る歌声〜』。Bプログラムはこのバレエファンが見逃せない世界初演作と、ジョージ・バランシンによる『ジュエルズ』の“エメラルド”と“ダイヤモンド”が組み合わされている。これもまた日本で踊られることが珍しい作品なので、楽しみにしよう。

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オニール・八菜とオードリック・ベザール。

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撮影裏話

創作に先立って、公演のための撮影が2月後半に行われた。ガルニエ宮では『シェルカウイ、ゲッケ、リドベルグ』のトリプルビル、オペラ・バスティーユでは『白鳥の湖』の公演の真っ最中という時期、日曜を返上してガルニエ宮内のスタジオに8名のダンサー全員が集合した。照明と構図が絵画のように美しい写真で定評のあるジェームス・ボルトが今回も撮影を担当。ドロテ・ジルベールのご主人である彼なので、ダンサーたちとも日頃から仲が良く、良い雰囲気のなかで撮影は順調に進んでいく。今回、女性はチュチュ、男性は自前の黒のスーツという衣装である。

もちろんダンサー同士も全員が仲間のような関係である。たとえば誰かがチュチュの背中を留められないままでスタジオに来れば、すぐに他のダンサーが手助けをするというように。3公演の『白鳥の湖』を踊り終えたばかりのドロテは、2日後が初日というアマンディーヌ(撮影の合間、トゥシューズの準備に余念がなかったのもそれゆえ)に、音楽が聞き取りにくい部分の出に、舞台の袖からの合図を頼んでみたら、うまくいったわ、といったようなアドバイスをし……。ジェルマンたちに囲まれて、ユーゴがおどけてみせる脇では、なにやら一生懸命訴える八菜の話に仲良しの兄ふうにオードリックが耳を傾けて、といった様子。バレエのガラというと、世界各地から異なるバレエ団のダンサーが集まって開催されることが多い中、「ル・グラン・ガラ」は同じ学校でバレエを学び、同じカンパニーで毎日ともに仕事をするダンサーたちによる珍しい公演である。それゆえ公演内容は密度が高く、また、このように時間をかけて日本のための創作をするといった贅沢なプロジェクトも可能なのだ。

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ジョルジオの“ビリー・エリオット”的バレエ人生

日本でも馴染みになりつつあるジョルジオ・マンチーニの名前。モーリス・ベジャールの20世紀バレエ団のダンサーだったことはすでに紹介されていることだが、そこに至るまでがなかなかユニークな物語である。

「父がクラシック音楽の愛好家で、ロッシーニ、チャイコフスキー、ワグナー……仕事が休みの日曜は一緒によく音楽を聞いたものです。僕は音楽がかかるとそれにあわせて踊り出す、という子どもでした。“ジョルジオはいつも踊ってるのよ”と母が彼女の女友だちに話したところ、その友だちが娘をダンス教室に通わせるというので、僕もそこで習い始めることになりました。9歳か10歳の頃ですね。すると、その学校の先生が、『ジョルジオは才能があるので、ダンサーになるべきだ』と母に言いました。僕を医者にしたかった母は、とんでもない!となってしまい、最初の1年が終わったところで僕はダンスを習うことができなくなってしまいました。当時、男の子はサッカーをするもの、という時代です。ちょっとビリー・エリオットのようでしょう。踊りたいという気持ちはずっと持ち続けていて、14歳の時の学年終了のギフトに父が何が欲しいか、というので、ダンス研修をお願いしました。母は反対でしたけど、父は費用を出してくれて……。その研修の際にローマのナショナル・ダンス・アカデミーの校長が僕を見て“ローマに来なさい!”と。母の説得に3年かかって、僕は17歳になっていました。その間はダンスのレッスン本を見ながら、自分の部屋でひとりで練習してたんですよ。それでローマに行く!となった時、自宅の近くのバレエ教室で受験のための特訓をしてもらいました。ローマの学校で最終学年を終え、そこでベジャールのところのオーディションを受けて……1982年から8年、彼のところで踊りました」

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ジョルジオ・マンチーニ photo:James Bort

ジョルジオが初めてマリア・カラスを聞いたのは、偶然にもベジャールの作品『タラサ、我らの海』によってだ。入団前のことで、すぐにカラスのレコードを購入したとか。現在コレオグラファーとして活動する彼は、フィレンツェでGMバレエを組織。これは公演のたびにダンサーを集めて機能するバレエ団である。変化を好む彼は、プロジェクトごとにチームを編成する方式が気に入っているという。最近の公演は『ファンタジア』。現在、新たなプロジェクトを進行中。

ル・グラン・ガラ2019
<東京公演>
会場:文京シビックホール
7月23日(火)19時開演(Aプログラム)
7月24日(水)14時開演(Aプログラム)
7月25日(木)14時開演(Bプログラム) 19時開演(Bプログラム)
<大阪公演>
会場:フェスティバルホール
7月27日(土)17時開演(ガラ・プログラム)
www.le-grand-gala2019.jp/index.html
大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。

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