B・ミルピエが創作するバレエ『ロミオとジュリエット』。

パリとバレエとオペラ座と。

シェイクスピア原作の戯曲『ロミオとジュリエット』。パリ・オペラ座で踊られるのは、ルドルフ・ヌレエフによるクラシックバレエ、そしてサシャ・ヴァルツによるコンテンポラリー版だ。このほか、レオニード・ラヴロフスキーをはじめ、ジョン・クランコ、ケネス・マクミラン、アンジュラン・プレルジョカージュなどによる振り付けでこの作品は世界中で踊られている。普遍の愛を描く不朽の名作は大勢のコレオグラファーの創作欲をかきたてるようで、来年、そのバレエ化に新たな作品がひとつ加わる。意外にも、振り付けるのはバンジャマン・ミルピエである。

190813_ballet_01.jpg

バンジャマン・ミルピエ。ヴァン クリーフ&アーペルのハイジュエリー発表会場にて。

坂茂による建築で知られるパリのラ・セーヌ・ミュージカルの舞台で、バンジャマン・ミルピエ創作による『ロミオとジュリエット』が、彼が率いるL.A. ダンス プロジェクトによって初演されるのだ。当初は2月末の予定だったが制作上の都合で時期がずれて、5月29日から6月6日の間の7回の公演が予定されている。彼の師であるジェローム・ロビンス、ジョージ・バランシンのように、ミルピエによるバレエは、物語ではなく音楽に導かれた振り付けで知られている。フィリップ・グラスやスティーヴ・ライヒなど、どちらかというとミニマルな現代音楽を使うことが多い。その彼がセルゲイ・プロコフィエフの音楽で、『ロミオとジュリエット』とは! プレルジョカージュがしたような電子音楽のミックスなどもしないで、という。どんな作品になるか、興味を抱かずにはいられない。L.A. ダンス プロジェクトを2012年から支援しているのは、ジュエラーのヴァン クリーフ&アーペル。7月初旬のパリ、ハイジュエリーの新コレクション「ロミオとジュリエット」の発表会場を訪れたバンジャマンに、話を聞くことにした。

190811-ballet-02.jpg

21世紀における不可能な愛とは?©J.Rose

「創作に『ロミオとジュリエット』を選んだのは、密接な関係があるからなんです。NYCB(ニューヨーク・シティ・バレエ団)に入団したのはジェローム・ロビンスのおかげという面もあり、そして彼の『ウエスト・サイド・ストーリー組曲』(注:『ロミオとジュリエット』をベースにしている)がNYCB で1995年に初演される際に、彼の希望で入団したての僕が配役されたんです。そのほかの彼の作品にも……。それに僕はプロコフィエフの音楽にも興味を持っていて……。だけど、それでバレエを創ることには尻ごみがあった。プロコフィエフの音楽はバレエのシーンに合わせて作曲されています。ある時代のハリウッド映画をインスパイアするけれど、ストーリーを追っている音楽なので抽象的には使えない。ダンスでストーリーを語ることを成功させるのって、簡単なことじゃない。たとえばピナ・バウシュの『オルフェとエウリディーチェ』のように僕は物事を抽象的に語るほうが好みです。ところがすでに物語を奏でているプロコフィエフの音楽を使うというのは、ストーリーを語らざるをえない。ノーチョイスだ。でも、僕はひとつ方法を見つけたんですね」

190811-ballet-03.jpg

リハーサルの映像を流したハイジュエリーの発表会場。このコレクションのためにヴァン クリーフ&アーペルがコラボレーションした漫画家ロレンツォ・マトッティによるドローイングが、カラフルに会場を飾っていた。

---fadeinpager---

バンジャマン創作の『ロミオとジュリエット』。初演は来春だが、実は一部がすでにロサンゼルス・フィルハーモニックで踊られている。

「新しいプロジェクトにはいつも時間をかけるようにしています。いまは以前よりさらに創作に時間をかけていて、このような長編作品の場合は、徐々に徐々に発展させていくんです。昨秋にロサンゼルス・フィルハーモニックでプレゼンしたのは、過渡期のバージョンです。オーケストラはプロコフィエフの『ロミオとジュリエット』を2時間15分、フルに演奏。その間に、組曲のようにいくつかのダンスの場面が展開されるという感じに、僕たちは35分だけ踊りました。次は50分の別バージョンをプレゼンすることになっています」

190811-ballet-04.jpg

190811-ballet-05.jpg

190811-ballet-06.jpg

190811-ballet-07.jpg

リハーサルより。photos : Jonathan Potter

というわけで、インターネットですでに作品のバックステージが公開されている。それによって彼が見つけた方法とは何か、を知ることができる。それは映像だ。この作品ではビデオの映像が大きな役割を担っている。バンジャマン自身がカメラを持ち、ダンサーを追いかけて撮影。その映像がダイレクトに舞台で流されている。ロミオがティバルドを殺すシーンは、なんとフィルハーモニックの事務所の中、そして教会の地下聖堂は舞台下のインダストリアルな雰囲気の空間、と思いがけない場所でストーリーが展開……ロサンゼルス・フィルハーモニックの公演について語る「ニューヨーカー」誌は、’’唖然とさせられ、きらきら輝いていて、そして同時に心がひきさかれる’’とこの作品を絶賛している。

「カメラを使うことで、人物に寄ることが可能となります。クローズアップができ、強い感動を醸し出すに至れる方法を見つけた、と思っています」

ロサンゼルスの市内で撮影した映像、そして劇場内で撮影される生映像。この二種がミックスされる。シンプルな舞台にしたい彼としては、こうしたビデオが流されるステージ上には特別な舞台装置はなしで、と考えているそうだ。

「できる限り、無駄を省いたステージにしたいんです。光の仕事でそれが可能ではないか、と思っている……まだ未定だけど」

と語りつつも、彼はUnited Visual Artists(UVA) の名を挙げた。振り付けはすでに終わっているそうで、これから初演の5月までに照明なども含め、創作を完成させてゆくのだ。L.A. ダンス プロジェクトのダンサーは12名だが、『ロミオとジュリエット』のためには20名くらいのダンサーが必要となるという。

---fadeinpager---

シェイクスピアの原作はイタリアのヴェローナが舞台で、彼の師匠による『ウエスト・サイド・ストーリー』はニューヨークが舞台である。バンジャマンは自身がよく知り親近感のある街ということから、ロサンゼルスを選んだ。ロスの街を舞台に繰り広げられる愛の物語。幕間なしの1時間30分のバレエ作品に仕上げる予定だという。

190811-ballet-08.jpg

コスチュームを担当するのは、過去に何度か仕事をしているアレッサンドロ・サルトリ。ロレンツォ・マトッティがヴァン クリーフ&アーペルのハイジュエリーコレクション「ロミオとジュリエット」のために描いたドローイングの現代的なカラーパレットにインスパイアされた衣装となる。

「この『ロミオとジュリエット』でユニークなのは、配役の組み合わせが変わることです。人種の異なる男女のカップル、女性同士のカップル、そして男性同士です。タブー、社会の規制、複雑な状況……不可能な愛。現代的な主題ですね。振り付けは3カップルについてまったく同じです」

190811-ballet-09.jpg

190811-ballet-10.jpg

バンジャマンは主人公に男女の組み合わせだけでなく、女性同士、男性同士のカップルも登場させる。人種の異なる男女のカップルについても「たとえば、白人の彼女の父親が警察官か何かだったら?」と、21世紀の世の中でも結ばれない愛は永遠のテーマとなる。

これは彼のバレエ作品としては初の悲劇となる。結ばれない愛。これについては、ミュージカル映画『カルメン』の撮影もスタートしたところだという。ジョルジュ・ビゼー作曲の歌劇にインスパイアされているが、音楽はニコラ・ブリテルがこの作品のために作曲したものを使う。この初の長編映画もロサンゼルスでの撮影だが、上映は世界各地でとのこと。また、この意欲的なバレエ『ロミオとジュリエット』にしてもパリ初演後は、日本を含めほかの国でも公演できたら、と彼は期待している。2020年、再びバンジャマン・ミルピエの名前をあちこちで見ることになりそうだ。

190811-ballet-11-2.jpg

『Roméo et Juliette』
2020年5月29、30日、6月2〜6日
La Seine Musicale, Île Seguin, 92100 Boulogne-Billancourt
料金:36ユーロ〜
www.laseinemusicale.com
大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。

RELATED CONTENTS

BRAND SPECIAL

    BRAND NEWS

      • NEW
      • WEEKLY RANKING
      SEE MORE

      RECOMMENDED

      WHAT'S NEW

      LATEST BLOG

      FIGARO Japon

      FIGARO Japon

      madameFIGARO.jpではサイトの最新情報をはじめ、雑誌「フィガロジャポン」最新号のご案内などの情報を毎月5日と20日にメールマガジンでお届けいたします。

      フィガロジャポン madame FIGARO.jp Error Page - 404

      Page Not FoundWe Couldn't Find That Page

      このページはご利用いただけません。
      リンクに問題があるか、ページが削除された可能性があります。