12月に『ラ・バヤデール』。やっとオペラ座でバレエ!

パリとバレエとオペラ座と。

オペラ・バスティーユにて、12月4日から2021年1月2日まで16公演の予定が発表されていますが、最新情報はオペラ座のサイトにてご確認ください。
www.operadeparis.fr

パリ・オペラ座バレエ団の新シーズン2020-21は本来なら9月22日のガラで華やかに開幕するはずだったのだが……。ダンサーたちがソーシャルディスタンスを守って仕事をするのが難しい、正常な状態で劇場が観客を受け入れられない、といった状況から公演の行われない期間を利用して、来年6月に予定されていた劇場の改修工事がこの夏から行われることになった。

工事終了後のバレエ公演の正式再開は12月10日、オペラ・バスティーユでの『ラ・バヤデール』だ。公演は2021年1月2日まで続く。この作品が最後に踊られたのは2015年11〜12月に遡る。この時は主人公のニキヤ役はたとえばドロテ・ジルベール、アマンディーヌ・アルビッソン、ミリアム・ウルド=ブラーム。ソロル役はマチアス・エイマン、ユーゴ・マルシャンほか、そしてガムザッティ役はヴァレンティーヌ・コラサント、マリオン・バルボー、オニール八菜といった顔ぶれだった。今季はどのような配役となるだろう。その前の公演は2012年。3月22日に映画館で生中継があったのだが、当日大きなアクシデントが! 怪我などからガムザッティ役を踊れるダンサーがこの晩は誰もいないという状況に陥ったのだ。それで公演日の朝、当時の芸術監督ブリジット・ルフェーヴルは2年前にこの役を踊ったことがあるリュドミラ・パリエロに白羽の矢を立てた。19時30分に開幕するまでの限られた時間の中で慌ただしくリハーサル、衣装合わせ……そんな裏の事情など感じさせず、堂々と舞台をつとめあげた彼女。この晩、エトワールに任命された。

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写真は2012年3月の公演から。ニキヤを踊るのは、現芸術監督のオレリー・デュポン。photo : Michel Lidvac

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象に乗って登場するソロル。ジョシュア・オファルトは3月7日の公演でソロル役を踊り、エトワールに任命された。photo : Michel Lidvac

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2012年の公演ではガムザッティ役(写真)で、2015年にはニキヤ役で。どちらの役でも見応えたっぷりの演技を披露したドロテ・ジルベール。photo : Michel Lidvac

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この作品は、1877年にマリウス・プティパによってサンクトペテルブルクで創作された。その後、さまざまなバージョンが生まれていて、パリ・オペラ座で踊られるのは ルドルフ・ヌレエフによるバージョンの全幕だ。彼は1961年に所属するキーロフ・バレエ団がパリ・オペラ座に招かれた際に、彼は『ラ・バヤデール』から第3幕の’'影の王国''を踊っている。レイフ・ファインズ監督による映画『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』でもオレグ・イヴェンコ演じるヌレエフがオペラ座の舞台で青いターバンを着けて踊るシーンが再現された。この舞台は亡命直前のこと。当時、彼は1983〜89年に自分がパリ・オペラ座バレエ団の芸術監督を務めることも、そしてオペラ座のために『ラ・バヤデール』の改訂版を作るなど思いもしなかっただろう。彼のバージョンがパリ・オペラ座のレパートリーに加えられたのは1992年。その翌年の1月、54歳で彼は亡くなる。病魔と闘いながら、人生最後の作品となる『ラ・バヤデール』を完成させたのだ。彼は1981年の『ドン・キホーテ』に始まり、オペラ座バレエ団のために『白鳥の湖』『眠れる森の美女』といった古典大作の改訂版を作っているが、その中でもエキゾティックな魅力にあふれているのが『ラ・バヤデール』である。さらに第3幕でソロルの幻想の世界を描くバレエ・ブランでは、主役とコール・ド・バレエが織りなす古典バレエの真骨頂を堪能でき、美しさに酔うことができる。ほかのヌレエフ作品同様、男性ダンサーの踊りがたっぷりと盛り込まれているのは言うまでもない。

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奴隷と踊るニキヤ。ヌレエフ版の『ロミオとジュリエット』(1984年)、『白鳥の湖』(1984年)、『眠れる森の美女』(1989年)と同様に、舞台装置はエツィオ・フリジェリオ、コスチュームはフランカ・スカルチャピーノが担当。

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ラージャの豪奢な宮殿で行われる婚約の祝典。photo : Michel Lidvac

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男女とも、コール・ド・バレエが祝典では大活躍する。photo : Michel Lidvac

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舞台は古代インドのゴルコンダ王国で、タイトルのラ・バヤデールとはインドの舞姫の意味だ。主人公ニキヤは寺院の聖なる火を守る巫女。戦士ソロルは身分違いの彼女と密かに愛し合い、永遠の愛を誓っているのだが、国王ラージャに目をかけられ、娘のガムザッティを紹介される。彼女はすぐさまソロルに恋をし、彼も美しいガムザッティに惹かれ、また自分の未来を思い結婚を承諾。ニキヤに横恋慕している寺院の大僧正が国王にソロルとニキヤの関係を告げたことからガムザッティの知るところとなり、ふたりの女性の間に壮絶な争いが繰り広げられる。その後、婚約の祝宴中、ガムザッティの企てによりニキヤは毒蛇にかまれて舞いながら命を落とし……悲しみと後悔の念から、ソロルはアヘンに溺れ、幻覚の中でニキヤと再会して愛を誓うという物語である。

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第1幕、密かに愛し合うソロルとニキヤの寺院の中でのパ・ド・ドゥ。photo : Michel Lidvac

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第1幕。立場を忘れ、ニキヤに愛を告白する大僧正。彼女に拒絶されたことから、復讐の機会をうかがうことに。photo : Michel Lidvac

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ソロルに娘ガムザッティを紹介するラージャ。photo : Michel Lidvac

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ソロルにすっかり心を奪われたガムザッティ。この世に怖いものなしの高慢なプリンセスの彼女にとって、ニキヤとソロルの関係は認めがたいことだ。photo : Michel Lidvac

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第2幕。ガムザッティとソロルの婚約を祝う踊りの最中に毒蛇に咬まれるニキヤ。大僧正は彼女の心と引き換えに解毒剤を提案するが、彼女は死を選ぶ。photo : Michel Lidvac

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ニキヤを失い、後悔の念に苛まれたソロルは自室でアヘン漬けに。photo : Michel Lidvac

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第3幕、ソロルは幻覚の中でニキヤに永遠の愛を誓う。photo : Michel Lidvac

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3幕を通じて振り付け、舞台装置、衣装……見どころ満載のゴージャスな作品。名場面にあふれ、配役が誰であろうと楽しめる。たとえば超絶技巧を楽しみにするファンが待ちかねるのは、3分にも満たない場面だがブロンズ・アイドルの登場だろう。全身を金色に輝かせたダンサーは、上半身は仏像のポーズを崩さずに 跳躍、回転……と脚力を駆使して難易度の高いテクニックに挑む。2015年の公演ではフランソワ・アリュ、パブロ・ルガザ、そして最近引退したがこの役を踊りなれたエマニュエル・ティボーが配役されていた。また第3幕第2場の「影の王国」の冒頭、命を落とした舞姫たちの亡霊を踊る36名のコール・ド・バレエの女性ダンサーたちがアラベスクを繰り返しながら、坂を下りてくるシーンもファンは楽しみにしている。これは『ジゼル』の第2幕、24名のウィリたちの群舞と同じくらい幻想的で絵になる場面。振り付けたヌレエフ自身も、リハーサルの時など劇場の最上階まで行ってこのシーンを上から眺めることを好んでいたと語っているほどだ。

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『ラ・バヤデール』の有名なシーンをいくつか紹介しよう。ガムザッティから平手打ちを受け、短剣を振り上げるニキヤ。この対決シーンのおもしろさは、配役されたダンサーの組み合わせが大きく作用する。photo : Michel Lidvac

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ブロンズ・アイドル登場!(写真はエマニェル・ティボー) photo : Michel Lidvac

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バレエ団の生徒も一緒に、楽しい水瓶の踊り。photo : Michel Lidvac

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ガムザッティの指示で召し使いが忍ばせた毒蛇が潜むとは知らず、花カゴを持って踊るニキヤ。photo : Michel Lidvac

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第3幕で3段階の坂を静かに下り前進するオンブル(影)。左右の足の出し方がひとりずつ交互で、それにより上半身の向きも交互という複雑な振り付けがヌレエフらしい。photo : Michel Lidvac

昨年12月、年金改革制度反対のストゆえに1公演で終わった『ライモンダ』から1年が経て、再びオペラ・バスティーユに古典大作が戻ってくるというのはなんという朗報だろう。YouTubeにパリ・オペラ座によるビデオが2本あげられているので、12月を待ちながら作品の雰囲気に浸ってみては? なおオペラ・ガルニエの工事終了は来年1月なのだが、10月にはオーケストラ・ピットに蓋をして、その上でバレエの公演が開催されるという。こちらも詳細の発表を楽しみにしよう。

 

 

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大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon

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