オペラ座のシャネル、ガラ、そしてユーゴ・マルシャン その1

クラシックとコンテンポラリー、シャネルによる衣装。

パリとバレエとオペラ座と。

パリ・オペラ座のシーズン開幕ガラは毎年9月下旬に開催されるのだが、シーズン2020-21のガラは9月27日の予定が今年の1月27日に延期された。あいにくとフランスでは劇場閉鎖が続くために例年どおり花のデコレーションに飾りたてられたオペラ・ガルニエで華やかに開催、というのは不可能に。その代わり無観客の会場で踊られた公演が、オペラ座の新しいデジタルプラットフォーム「L'Opéra chez soi」にて配信されることが決定。1月27日は限られた人が対象で、1月30日からは世界中無料で鑑賞ができることになったのだ(https://chezsoi.operadeparis.fr/ballet/videos/gala-d-ouverture)。

オペラ座バレエ団のオープニングガラのメセナはシーズン2018-19からシャネルである。ガブリエル・シャネルの時代に遡る、ダンスとシャネルの結びつき。それは1世紀を経たいまも引き継がれ、シャネルとパリ・オペラ座というふたつの伝統あるメゾンはフランス文化におけるクリエイションとエクセレンスの豊かな発展に手を取り合って貢献している。

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1924年に創作された『Le Train Bleu(青列車)』。パリでオリンピックが開催されたこの年、バレエ・リュスのセルジュ・ディアギレフはジャン・コクトーにスポーツを題材にしたバレエの台本を依頼。コスチュームはガブリエル・シャネルに任された。彼女にとって初のバレエ衣装。その機能性ゆえにオートクチュールにも取り入れたジャージーを、彼女はコスチュームにも使用した。©The Estate of Edward Steichen ADAGP Paris 2020, BnF

『グラン・パ・クラシック』、夜空に星が煌めくコスチューム。

前シーズンのオープニングガラではセルジュ・リファール創作『Variations』を踊る5名の女性ソリストのために、白いロマンティック・チュチュがヴィルジニー・ヴィアールのディレクションのもとシャネルによって製作された。メティエダールのルマリエが染めから手創りした各人各種の花が飾られた、何層もの長いチュチュ。舞台上でしなやかに踊る彼女たちをエレガンスでふんわりと包み込んでいた。

今回のガラでは、グゾフスキーの『グラン・パ・クラシック』を踊るヴァランティーヌ・コラサントとユーゴ・マルシャンという2名のエトワールのために、シャネルは衣装をデザインした。チュチュのフォルムは床に平行して平らに広がるプラトー・チュチュではなく、ほんのりとしたフェミニニティを感じさせる釣鐘的なフォルム。ナイトブルーが上品なシルクビロードのビスチェと黒いチュールにプリントを重ねたチュチュには、メゾン・ルサージュのアトリエによってスパンコール、ラインストーン、パールなどの刺繍がきらきらと施されている。ユーゴの胴衣も同様で、ふたりが踊ると、まるで夜空に星が瞬くよう。幻想的な衣装をつけたふたりは難易度の高い振り付けも優美にこなし、1949年に創作された古い作品にフレッシュな魅力を添えた。

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舞台裏のエトワールのユーゴ・マルシャン(左)とヴァランティーヌ・コラサント。photo : Olivier Saillant

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『グラン・パ・クラシック』のコスチュームにはアトリエ・ルサージュが大活躍した。photoS : Alix Marnat

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無数の星がちりばめられたチュチュ。ヴァランティーヌのヘアにもシャネルの星が輝いていた。photos : (左)Alix Marnat  (右)Oliver Saillant

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コンテンポラリー作品『Exposure』のブラック&ホワイト。

『グラン・パ・クラシック』は古典作品だが、シャネルは昨秋にはコンテンポラリー作品のコスチュームも製作している。4名の振り付け家による創作で構成された『今日のクリエーション』が昨年11月に予定されていたのだが、劇場閉鎖に伴い、これも全公演が中止されてしまった。パリ・オペラ座バレエ団のFacebookで4作品のうちの3作品が期間限定で有料配信されたものの、これはフランス国内のみ。さらに1月29日には4演目のすべてがフランスのテレビ局で放映されたのだが、依然、海外の人々は見るチャンスに恵まれずにいるのが残念だ。

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公演『今日のクリエーション』より、ラルビ・シディ・シェルカウイ振付『Exposure』のリハーサル光景。音楽はWoodkidによるライブパフォーマンスだった。photo : Julien Benhamou / Opéra national de Paris

シャネルは、この4作品中、9名のダンサーが踊るシディ・ラルビ・シェルカウイによる『Exposure』の衣装を担当した。写真家ナン・ゴールディンの言葉に触発されてシェルカウイが写真をテーマに創作した作品は、巨大なライトボックスを舞台に設置したモノクロームの世界。女性ダンサーたちは最初はシンプルな黒のボディ、途中から真っ白のシルクサテンのゆったりとしたパンツドレスへと。裾に黒い帯がとられたドレスは、身体の動きに合わせて緩やかに流れ、裾の黒い帯がグラフィックなアクセントを空間に生み出していた。ダンサーそれぞれディテールの異なるデザインだったが、どれも動きが自由で身体が快適という、創業当時からガブリエル・シャネルが 一貫して主張した新しいエレガンスが見られるコスチュームだった。

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フォトスタジオに誘われるステージ。舞台上、ダンサーのマチュー・コンタがカメラでダンサーたちを撮影し、それがモニターに映し出されるという仕掛けもあった。photos : Shelby Duncan

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ダンサーたちの動きに沿って美しく揺れるコスチューム。photo : Shelby Duncan

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プルミエール・ダンスーズのマリオン・バルボーのパンツドレスにはジャケットがセット。photos : Alix Marnat

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon

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