ピカソ美術館のD・ジャコメッティの家具と新しいベンチ。

PARIS DECO

1歳上の兄アルベルトの影に隠れている感のある、彫刻家ディエゴ・ジャコメッティ(1902〜1985)。映画『ジャコメッティ 最後の肖像』を見た人は、俳優のアーミー・ハマーにばかり注目していたのでなければ、アルベルトとアトリエを共にし、兄を常にサポートする優しい弟がいたことに気がついただろう。

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「ピカソ美術館のディエゴ・ジャコメッティ」展より、ディエゴがデザインした家具の展示。

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アトリエで作業するディエゴ。兄アルベルトの生前は、パリ14区のイポリット=マンドロン通り46番地のアトリエで共に仕事をしていた。

石膏の彫刻で彼が世間に名を知られるようになったのは、1950年代のこと。その後、彼は画商のマーグ家やメセナのノアイユ家といった裕福な客たちのための家具を多く手がけている。動物や植物といった自然界からの題材を詩情豊かに家具に取り入れ、空想の世界を展開。ある芸術史家はそんな彼を「職人詩人」と形容した。

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フクロウや葉、人の顔などのモチーフをあしらい、ディエゴの家具はエジプトやエトルリアのアートを思わせる。

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ピカソ美術館のためにクリエイトした、8本枝のサスペンションの石膏模型。

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ディエゴのポエティックなディテールの数々。

1985年に亡くなった彼にとって、開館を前にしたパリのピカソ美術館からの注文が最後の仕事となった。美術館の初代館長ドミニク・ボゾが、17世紀のクラシックな建築物と、ピカソの作品との架け橋となる家具を作れるのはディエゴ・ジャコメッティしかいない、と彼を指名したのだ。椅子、ランプ、ベンチなど50点近くの家具を、美術館内の配置場所に応じて完成させたディエゴ。あいにくなことに、彼は美術館のオープンの数ヶ月前に亡くなったそうだ。

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展示コースは、ディエゴが美術館から依頼を受け、1983年から85年にかけての作業工程をわかりやすく説明。

展覧会では写真、模型なども展示して、これら50点の家具についてディエゴのアトリエでの構想から完成に至るまでを紹介している。これらを見た後、7月29日までピカソの「ゲルニカ」展を開催している館内を、ディエゴの仕事に気をつけながら回ってみよう。

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ディエゴの作品を求め、館内では上を見上げて歩こう。

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鳥かご型のランプ。

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152cm長さのベンチ。ブロンズでとても重い。

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ブロンズの椅子。これは彼が1955年にデザインしたものである。

なお「ピカソ美術館のディエゴ・ジャコメッティ」展では、後半が美術館のためにデザインされた新しい椅子をテーマにしている。2009年から14年にかけての改装工事により、美術館は新しい照明器具や会場構成の変更に合わせて簡単に移動できる家具などが必要になった。それで館内のさまざまなスペースに適応できる新しいベンチを、ECAL(ローザンヌ州立美術学校)に依頼。採用されたのは、イザベル・ボードラズ(1989年生まれ)のデザインだ。「広いスペースで滑稽にみえるような小さなベンチでもなく、小さなスペースで場所を占める大きなベンチでもない」という大小両方のスペースに置ける、というポイントが彼女にとっての挑戦となった。その結果、組み合わせ可能な木製ベンチのデザインへと至ったのだが、興味深いのは彼女が組み合わせ部分を隠そうとするのではなく、ビジュアル的に強く、椅子の細い板のリズムをあえて崩すことにした、ということだ。それによってベンチに強い個性が生まれている。

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2つのベンチの組み合わせ例。軽いので移動は簡単だが、くの字に曲げないと外れない堅牢な組み合わせとなっている。生産はTectonaに任された。

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すでに美術館内で使用されているので、早速座ってみよう。

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ECALの生徒と卒業生9名のグループが、ヨーロッパ中の50近い美術館を訪問し、美術館の椅子について行った調査結果も同会場に展示されている。ミラノのプラダ財団美術館のレム・コールハウスの椅子(2015年)、ベルンのパウル・クレー・センターのレンゾ・ピアノの椅子(2004年)、ロンドンのテート・モダンのヘルツォーク&ド・ムーロンのベンチ(2000年)……。

「Diego Giacometti au musée Picasso」展
会期:開催中〜2018年11月4日
会場:Musée Picasso
5, rue de Thorigny 75003 Paris
開)10:30〜18:00(学童休暇時期および週末 9:30〜)
休)月
料金:12.50ユーロ
www.museepicassoparis.fr/en/diego-giacometti
大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。

realization et photos:Mariko OMURA

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