18世紀の贅沢な室内装飾に不可欠なメルシエとは?
PARIS DECO
有名なディドロ編纂の『百科全書』で、“何も製造しないが、あらゆる品を売る商人”と定義されているメルシエなる商人たち。確かにその仕事内容は輸入業、卸問屋、デザイナー、デコレーターといった幅広いもので、このメルシエたちの活躍のおかげで、18世紀のフランスにおける贅沢な室内装飾が作り上げられていたのだ。
華麗な18世紀の室内装飾。こうした品々を扱っていたのがメルシエ商たちだ。©B.Soligny & R.Chipault
マレの小さなコニャック=ジェイ美術館で開催されている『リュクスの製造、18世紀のパリのメルシエ商たち』展で、こうした商人たちの仕事が紹介されている。小間物商を意味するメルシエではあるが、その扱う分野は幅広く、金襴緞子、タピスリー、ジュエリー、家具用布地、宗教用具、ファッション小物など約20に細分化される。さらにメルシエたちは絵画、家具といった内装に必要とされる他分野にも手を広げ、当時の貴族たちの室内装飾への要望に対応していたのだ。そのために彼らは地元の職人やアーティストと密に仕事をするだけでなく、特別な品や技術を求めて海外にもネットワークを広げていた。
フランス人たちにもメルシエが何なのかがあまり知られていないことから、会場はまず彼らの仕事についての解説から始まる。そして、18世紀にパワフルに活動をした10名の人気のメルシエ商の仕事を紹介。成功の秘訣は彼らの趣味のよさであることが見て取れる。
展示作品の数はさほど多くないが、魅力的な展示空間が作り上げられている。©B.Soligny & R.Chipault
王立ヴァンセーヌ製造所による陶製飾り。1753年にポンパドゥール夫人にメルシエのラザール・ドゥヴォーが販売した。©MAD,Paris
壁掛け燭台セット。王室の家具を担当していたメルシエのドミニク・ダゲールによって、マルリー城の王妃マリー・アントワネットの第2事務室のために1789年に販売された。©RMN-GP(Château de Versailles et Trianon)
1790〜1800年ごろのマジック・ランプ。ウェッジウッドの陶板がはめこまれている。個人所蔵品。photo:DR.
ひも飾り(1750〜1790年頃)はメルシエの扱い商品の一部である。©Palais Balliera/Roger-viollet
大理石と果樹によるコーナー家具。トマ・ジョアキム・エベールがショワジー城のブルー・ルームのために1743年に販売した。©RMN-GP(Musée du Louvre)
18世紀にあって、早くも宣伝広告のアイデアを実践していたメルシエ商。看板、ショップカード、カタログ……フランソワ・ブーシェやアントワーヌ・ヴァトーといった著名なフランス画家もこうした仕事に関わっていたそうだ。たとえば、パリで人気を集めていた主に絵画を扱う画商のようなメルシエ商ジェルサンが店に掲げていた看板は、仲良しのヴァトーが描いたものだった。これが有名な『ジェルサンの看板』(1720年)というタイトルの作品だ。展覧会ではこの作品をベースにし、ジェルサンの店内を会場で再現して見せている。
ヴァトーの『ジェルサンの看板』をもとに、美しいドレスの顧客、販売済みの絵画を梱包する従業員など店内の様子を再現。©B.Soligny & R.Chipault
Musée Cognacq-Jay
8, rue Elsévir
75004 Paris
tel:01 40 27 07 21
開)10:00〜18:00
休)月
料金:8ユーロ
www.museecognacqjay.paris.fr
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。