この展覧会で、テキスタイルを巡るアフリカの旅に出る。

PARIS DECO

アフリカの布と聞くとすぐに目に浮かぶのは、ワックスと呼ばれるプリント生地では? パリから高速地下鉄で行ける トワル・ドゥ・ジューイ美術館で10月1日に始まった『Fibres Africaines(アフリカの繊維)』展は展覧会でテキスタイルを見るより前に、まずポスターに描かれた多彩な生地のパッチワークによるアフリカの地図に心がときめく。展覧会のサブタイトルは“大陸におけるテキスタイルの遺産とサヴォワールフェール”だ。

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トワル・ドゥ・ジューイ美術館で開催の『アフリカの繊維』展のポスター。

1000年以上の歴史を持つ、アフリカ大陸におけるテキスタイル。この回顧展は、地方により民族により異なるダイナミックなモチーフ、素材、サヴォワールフェールなどに光を当てている。布に施された織り、染め、刺繍。北から南、東から西へ、他国との出合いにより多様性を増していったテキスタイルには長年の歴史や職人たちの創意が見られる。アフリカの布、とひと言でくくれない豊かさ。アフリカの若いファッションクリエイターたちは工業生産の布ではなく、あえて伝統布を用いたクリエイションを行うことで古くからの技術の価値を守ろうと努力を惜しまないそうだ。これらが未来に守られるべき貴重な財産なのだと、来場者たちも展覧会を見て納得させられる。

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展覧会では紡績、織物、プリントのための道具類も展示している。ひょうたんや木を削ったプリント用のスタンプ、レントゲンのセルロイドを利用したステンシルプレートなど興味深い。左、右:© Collection Anne Grosfilley © MTDJ/ Pauline Pirot 中:© MTDJ/ Pauline Pirot

会場構成を担当したのは、自身もアフリカで暮らしたことがあるというエレーヌ・デュブルイユ。ウディ・アレン監督の『ミッド・ナイト・イン・パリ』でアカデミー美術賞にノミネートされたセットデザイナーだ。あいにくとフランスの外出制限令に伴い、美術館は現在閉館中である。実際に会場を歩いて布から放たれる感動を得られないのがとても残念だ。 誰もいない会場に忍び込んだかのように、5つのテーマで構成される展覧会を写真で回ってみよう。

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1. 先祖の時代の土のざわめき。

土、泥、コットン、棕櫚のラフィア。古来のサヴォワールフェールを用い、自然がもたらす素材から生まれたグラフィックなテキスタイル。こうした布からは昔の時代の土のざわめきが聞こえてきそうだ。

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展覧会のスタートは、泥染など土や自然を感じさせるテキスタイルから。© MTDJ/ Pauline Pirot

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カサイのビロード/コンゴ民主共和国のショワ族のテキスタイル。ヤシの繊維で布を織るのが男性なら、それにダイナミックな幾何学模様の刺繍を施すのは女性たちだ。ビロードのような手触りを得られるように刺繍糸の輪を刈っていることから、草ビロードと呼ばれる。床に敷いたり、椅子の上に置いたり。複数を繋いで経帷子としても使用。© collection Fondation Jean-Félicien Gacha © MTDJ/ Pauline Pirot

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ボゴラン/マリのバマナ族のコットンの手織り布。植物と泥で染められている。ボゴランはもともとは戦士、狩人が身体を保護するため、また傷を隠すためのコートとして用いた布だ。 © Collection Fondation Jean-Félicien Gacha

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アドラール/モロッコのいくつかの地方で伝統行事の際に女性が頭にかぶる布はアドラールと呼ばれ、写真はその一部。ウール地にフィビュル(ブローチ)のモチーフが白糸で織り込まれている。オイルランプのモチーフにはヘナを使用。© Collection Anne Grosfilley

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2. インディゴからレインボーカラーへ。

インディゴ染めはアフリカ全土で行われていても、染料に浸ける時間などで結果は異なる。たとえばセネガルでは ミルクのブルーと呼ばれる明るいブルーがメインであるのに対し、マリで好まれるのはブラックインディゴである。自然、あるいは合成染料を用い、モチーフは絞り技法や水を通さないパラフィンの貼り付けなどで豊かに表現。ブルーのインディゴにこだわる民族もあれば、限りない色数を開発する民族もある。

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ブルーとカラフルなインディゴを展示。右手のマネキンが纏っているのがメルファだ。© MTDJ/ Pauline Pirot

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バミレケ民族のンドップ/インディゴ染めの布に幾何学モチーフ、そして ワニ、猟網、パンサーなどが描かれている。ラフィアの糸で模様の線に沿って絞った部分が白く残る方法でインディゴ染色。白は悪霊や死から守ってくれる浄化儀式に結びつく色だ。©Fondation Jean-Félicien Gacha

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メルファのディテール/モーリタニアの民族衣装でメルファと呼ばれるヴェール。写真はソニンケ民族のもので、ストライプが織り込まれてヴェールに強度が与えられている。モチーフは左右対称で、色は時代とともに鮮やかな色へと変化し、絞りだけでなく、熱いパラフィンに浸した木の判を用いるバティックの技術もプラスされるようになった。何世代にわたって女性たちに伝えられてきたサヴォワールフェールだが作業に手間暇がかかるため、近頃のメルファはアジアの合繊プリントが好まれている。©Collection Anne Gosfilley

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3. 機織り。

西アフリカでは11世紀からすでに織物の技術が開発されたことが遺跡発掘によって証明されている。その昔、足を開いて行う作業なので女性には慎みがないとされ、女性は糸を紡ぎ、機織りは農閑期に男性が行っていた。その後縦型織り機が生まれ、女性たちも織るように。1970年代には妊婦でも作業できる織り機がブルキナファソで開発されてから、織物が女性の職業として成立。会場では縦型、横型、水平とタイプの異なる織り機によるカラフルなモチーフの布を展示している。

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ケント/男性が体に巻きつける布で、写真はトーゴとガーナにまたがるエヴェ民族のもの。水平式の手織り機が用いられている。複数のアトリエが競い合う結果、テクニックもバラエティも実に豊かだ。©Collection Anne Grosfilley

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会場には人類学者のAnne Grosfilleyが所蔵する複数のケントが展示されている。カラフルなケントは室内装飾にも用いられるそうだ。©MTDJ/ Pauline Pirot

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4. 権力の印とシンボル。

展覧会の中で、最もカラフルで華やぎのあるテーマだろう。民族によっては、ビーズ刺繍や糸刺繍、あるいはプリントが権力を象徴している。

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展示光景。

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カメルーンのバミレケ民族に伝わるビーズ刺繍のサヴォワールフェールが凝縮された儀式用のチュニック。 © Collection Fondation Jean-Félicien Gacha

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儀式の際にチュニックとともに着用される象のマスクとそのディテール。© Collection Fondation Jean-Félicien Gacha

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バーニュ/写真はマリのプール民族のパーニュ(腰布)。生命を授ける力に結びつく布として、子どもを持つ女性たちが纏っている。宗教派遣団が20世紀初頭に西アフリカで若い女性たちに厚手の木綿に施す線刺繍を指導し、その後、時の経過とともに独自のステッチ、スタイルへと発展。こうした刺繍は家族内、近隣者たちの間で伝えられているが、手間のわりには工賃が低く、若い世代からは敬遠されているそうだ。© collection Anne Gosfilley

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ガーナのアディンクラ/アカン民族が用いる模様付きの布。模様にはことわざや寓意がこめられている。たとえば中央の模様はGye Nyame(神以外の人を恐れる必要はない/神こそが偉大)を意味する。©Anne Grosfilley

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ナイジェリアのチュニックのディテール/ニジェールのアガデス地方ではビューティコンクールGéréwolが開催され、ここで女性たちは未来の夫を選ぶ。その際に男性たちはインディゴブルーのコットンにチェーンステッチで連続模様が描かれた長いチュニックを纏い、ネックレスを重ねる。© collection Anne Grosfilley

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5. 工業生産による布の言語。

アルチザナルな布の影が薄くなるほど、近頃、大陸内で優勢なのは工業生産の布である。ワックスプリント、マサイ民族のチェックでおなじみのシュカ、ザンジバルやモンバサなどのカンガ……1960年代にアフリカ諸国に織物工場とプリント工場が設置されるようになり、こうした布はアフリカの産物に。もっとも最近ではアフリカの布といっても、ヨーロッパやアジアでの生産のものも多い。文化が交差することから、アイデンティティを示すべくメッセージが布に込められるようになった。

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会場光景。©MTDJ/ Pauline Pirot

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カンガ/マサイ民族のカンガ。格言がプリントされている。©Collection Anne Grosfilley

実は6月から年末まで2020年はフランスにおけるアフリカ年の予定で、この『アフリカの繊維』展もその一環として企画されたものだった。新型コロナウイルスの影響でアフリカ年は延期となり、年末から来年の6月まで、あるいは来年の4月から9月、というように次の開催は未定である。こうした背景を持つ展覧会らしく、アフリカの素材やサヴォワールフェールを生かした意欲的で魅力的な6アイテムをクリエイトして、ブティックで販売……ということだったのだが、美術館併設のブティックもあいにくと閉鎖中である。こちらも写真で!

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左:カメルーンの伝統的なファブリックであるンドップのモチーフをバミレケ民族の伝統的なガラスビーズ刺繍の技術で施し、トワル・ドゥ・ジューイで内張りしたバスケット。©Fondation Jean –Félicien Gacha/ Raoul Paul Etoko
中:刺繍を施したトワル・ドゥ・ジューイとアフリカの布(インディゴ、ワックス、編んだラフィア)を用いたブローチ“タンデム”。あしらわれているのはクリスタルパール、ブロンズ、漆黒、シルバー、巻き貝などで、パリで手作りされた。©Toubab Paris
右:ビーズ刺繍を施したトワル・ドゥ・ジューイのジャケット。3タイプあり。©Fondation Jean-Félicien Gacha/ Raoul Paul Etoko

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左:ヨハネスブルグの有名な建物と人々の暮らしをプリントしたキャップ。©Mahatsara
中:マダガスカルで裁縫師たちが手作りしたネックレス。トワル・ドゥ・ジューイとワックス布が使われている。使用される布の部分が異なるため、どれも一点ものだ。©Toubeb Paris
右:カメルーンの北部で製造され、ドゥーアラで彩色されるひょうたん。©Frida 54

Musée de la Toile de Jouy
www.museedelatoiledejouy.fr

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アフリカの布がヴィンテージ家具に似合うパリの暮らし。
メゾン・シャトー・ルージュのワックスをもっと気軽に。

réalisation : MARIKO OMURA

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