オテル・パラディソの興奮。ボタンひとつで客室が映画館に!!

PARIS DECO

3月10日、「Hôtel Paradiso」がオープンした。フランスだとオテル・パラディゾと発音されるけれど、ジュゼッペ・トルナトーレ監督による名作『Cinema Paradiso(邦題『ニュー・シネマ・パラダイス』)ゆえ、オテル・パラディソと呼ぶ方が日本人には親しみやすいかもしれない。最寄駅は地下鉄のNation。パリの東の外れのイメージがあるけれど、思いのほかパリ中心部から近い。ホテルは駅に近く、地下鉄1番線、6番線、9番線が使えるので観光、仕事の移動も簡単な場所にある。もっとも、これはチェックイン後に部屋から出ることがあれば、の話なのだが……。

ここは映画会社MK2グループによる初のシネマホテルで、創業者マリン・カルミッツの息子2人によるコンセプトで作られた。2つのスイートを含む全36室のホテルは、映画館MK2 Nationの上にあり、全客室が映画館!というのがうたい文句である。客室に巨大スクリーンを置いているホテルはすでに存在するけれど、それらとは一線を画すスケールの体験が待つホテルなのだ。

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スクリーンに変身した客室内の窓。ホテルの室料は100ユーロ〜。映画を愛する大勢の人が利用できるようにと価格は低めの設定だ。宿泊者には下の映画館のチケットがプレゼントされる。photo:Romain Ricard

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現在映画館MK2 Nation(左)は休館中だが、ホテルは営業している。photo:Mariko Omura

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通りに面して大きなガラス窓が並んでいるのを見てもわかるように、客室は採光に恵まれてとても明るい。さてその窓だが、パラディソと命名された23㎡のスタンダードルームではこれが曲者。タブレットを操作することで、映画のスクリーンに変身するのだ。ベッドが窓に向かっているのが、これで理解できる。そう、ベッドにいながら映画三昧の滞在。当然映画館同様にサウンドも後方から、と計算されている。ある程度ボリュームを大きくしないと映画館の雰囲気がでないが、もちろん客室内の防音はパーフェクト。最大のボリュームでも隣室に聞こえることがないそうだ。パラディソ・テラスのカテゴリーは、部屋は19〜23㎡だが名前のとおりテラス付き。映画と映画の合間に、テラスで一服! グランド・パラディソと呼ばれる部屋は、窓ではなく壁がスクリーン。それに面してベッドがあり、ベッドの脇のバスタブに浸かりながら映画を見ることもできる。

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左:客室に入るとカウンターがあり、その後方、窓に向かってベッドが置かれている。窓の向こうにはパリの素晴らしい眺め。 右:その窓がスクリーンに。映画館と化した部屋で、ポップコーンを頬張って……。photos:Romain Ricard

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ホテルのインテリアデコレーションが任されたのはアリックス・トムセン。ホテルのスタッフのユニフォームはAmlがデザインした。

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ベッドからもバスタブからも映画三昧の滞在ができる。普通のホテルに比べ宿泊者はベッドで過ごす時間が長くなることを考え、クオリティの高いマットレスが選ばれている。バスルームのソープ、シャンプーなどは、コルシカのビオブランドCasaneraを使用。

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映画はフランスでは7ème art(セッティエム・アート)と呼ばれるが、ホテルの7em étage(日本の6階)には特別な2つのスイートルームが作られた。プロジェクターを備えた映写ルームが寝室に併設されているのだ。仕切りのカーテンを閉め、ここで少人数のグループでシャンパンを飲みながら和気あいあいの映画鑑賞……というのも悪くない。さて、グランド・スイートでは映画ファンを喜ばせる大きな驚きが待っている。部屋に入った瞬間、裏手の建物が中庭越しに目に飛び込んでくるのだ。まるでヒッチコックの『裏窓』の気分……殺人事件を目撃してしまうかも。そして、さらなる驚き。向かいの建物の左手の壁には映画『キッド』(1921年)のチャーリー・チャップリンとキッド、右手の壁には『要心無用』(23年)で大時計にぶら下がるハロルド・ロイドが 。これはアーティストJRによるフォトコラージュだという。

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窓の外さえもシネマ・ホテル!!  『キッド』は今年100周年記念である。

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部屋のタイプは違っても、鑑賞できる映画についてはどの部屋も同じ。mk2 Curiosity、MUBI、Netflix、Disney+、Arteといったクオリティの高いプラットフォームから、ジャンルさまざまな映画を自由に選んで楽しめる。さらに2500作品のブルーレイディスクも用意されていてて、これらを借りて室内で見ることもできるのだ。プレイステーションで遊びたければ、これもレンタルが可能。客室で困ったことがあったら、昔ながらの黒い電話機のダイヤルを回そう。番号は007! さすがシネマホテルである。ここでの滞在の荷物には、お気に入りのパジャマを詰めるだけでよさそう。

貸し切って、小さなグループで映画を巡る思い出の時間を過ごせる「La Loge(ラ・ロージュ)」と呼ばれるスペースもユニークだ。バーが設けられたガラス張りの横長の部屋には、映画館のように椅子が並び、そしてガラスの向こうは、というと、なんと映画館MK2 Nationの一室のスクリーン! 巨大貸切は最終上映終了後から翌朝まで。巨大スクリーンで好みの映画を鑑賞して一夜を過ごした後のために、シャワールームも併設されている。さらに、ルーフトップが完成すれば、ここもまた眺めのよい映画鑑賞の場となる。映画を愛する人が映画好きに贈るオテル・パラディソ、ぜひ体験してみよう。

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貸し切り専用のラ・ロージュ。スクリーンは下の映画館のスクリーンだ。

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左:ホテルのレセプションは映画館の右隣の1階にあり、ここにはパリ初のBob’s Juice Barが設けられている。飲み物だけでなくベーグルサンドなど軽食のルームサービスもここから。宿泊客以外にも開かれていて、もうじき植物をあしらったテラス席が設けられる。photo:Romain Ricard 右:ジュースバーのスペースの壁には、アンリ・サラが撮影したアルバニアの首都ティラナの広場に放置されていた映画館の椅子の写真が。このスペースのライトはかつて映画館で使用されていたものだそうだ。photo:Mariko Omura

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左:エレベーターもあるけれど、映画ファンはぜひ階段を利用しよう。MK2の映写師がコレクションしている映画のポスターが飾る階段は、作りや色も映画館気分なのだ。 右:ホテルの廊下のスタイリッシュな照明は、照明作家フィリップ・コレによる。photos:Mariko Omura

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シネマ・ホテルの仕掛け人はエリシャ(左)とナタニエルのカルミッツ兄弟だ。ふたりは映画を通じて、パリ東部に文化を広める活動に余念がない。photo:Fred Lahache

Hotel Paradiso
135, boulevard Diderot
75012 Paris
tel:+33-(0)1-88-59-20-01
www.mk2hotelparadiso.com

 

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon

réalisation : MARIKO OMURA

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