FIGARO HOMME　彼との瞬間。 高橋文哉、逞しさと共存するスイートネス。

学園恋愛映画からシリアスなドラマまで、さまざまな表情を見せる高橋文哉。優しさの中に際立つ強さ、フレッシュな繊細さが魅力の彼が、進化し続ける理由とは？ デビューから6年目を迎える2024年、新しい可能性の扉がまたひとつ開いた。

Tシャツ¥280,000、パンツ¥210,000、中に履いたショーツ¥195,000（以上予定価格）、ジャケット¥490,000、中に着たシャツ¥145,000、シューズ¥180,000、ゴールドブローチ¥94,000、シルバーブローチ¥110,000/以上ディオール（クリスチャン ディオール）

当たり役がある俳優は強い。
この役を演じるために生まれてきたのかと、見るものを錯覚させるほど、役と本人の輪郭がぴったりと重なり合った時の強度ゆえに。だが、当たり役がもたらすハレーションは悩ましい。本人は次々と役を更新して、すでに違うステージへと進んでいるのに、過去の役の残像が強すぎて、見ている側が飛躍していることを見過ごしてしまうから。

印象をがらりと変える、激しいアクション劇。

高橋文哉を、ドラマ「最愛」での庇護すべき弟として捉えている人、もしくはドラマ「フェルマーの料理」での几帳面な料理人として魅了されている人、どちらの層にとっても最新作『劇場版 君と世界が終わる日にFINAL』の柴崎大和役はこれまでの印象をがらりと変えるものになっている。

今作は日本の地上波初の本格ゾンビアクションドラマとして話題を呼んだ「君と世界が終わる日に」シリーズの最終章の映画化。人を化け物へと変える感染症ゴーレムウイルスにより、人類が安心して暮らせる場所は権力者や富裕層が暮らす人工都市ユートピアにそびえるタワーのみ。弱者は地下のすさんだ場所での生を余儀なくされている。シリーズを通して、竹内涼真演じる主人公・間宮響の行動を通して、愛する人をどう守るかが描かれていく。高橋が演じる元鳶職の大和は、ゴーレムの襲撃を受けた都市部の混乱で、幼馴染である羽鳥葵（堀田真由）と離れ離れとなってしまい、それ以降、彼女の行方を探すことに人生をかけている。娘の行方を探す響と巡り会ったことからさまざまな目的をもつ男たちと、タワーへの危険な侵入を決意する。

この映画で高橋は、ほぼ出ずっぱりで、ほとんどの場面を激しいアクションによるバトルシーンで演じ切る。鍛えた肉体と激しい動きで危険なアクションに挑戦しており、これまでのイメージを一新する。

「僕らの世代は『君と世界が終わる日に』シリーズのファンが多くて、その最終章に入れていただいたことがうれしかったです。しかもこのシリーズは世界中で見る人が多いと思うんです。まず、自分が演じるに当たって、いま生きるためのメッセージが作品を通して伝わったらいいなと思います。
シーズン1から4まで主役を演じている竹内涼真さんが普段からバキバキに身体を鍛えているので、一緒に並んだ時に自分が演じる大和がどう見えるかを考えました。同時に竹内さんが演じる響と大和を観客が比較する中で、弱い存在として映りたかった。竹内さんに芝居で負ける負けないということ以前に、大和のキャラクターとして、響にガンと言われて意見を強く押された時に、ふわっと揺らいでしまう軽さみたいなものを出したいと思っていました。響の揺るぎない生き方に説得力を持たせるために、未熟な大和のあり方を意識していましたね」

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2023年は、櫻いいよの人気小説を実写映画化した『交換ウソ日記』で初の恋愛映画の主演も務めた。次々と大作や話題作で声が掛かるのは、課せられた役割に自覚的だからだろう。もうひとつ、撮影中に強く頭にあったのが、SF映画における飢餓感だったという。

「『君と世界が終わる日に』の世界観として、ごく一部の力のある人以外はゴーレムにいつ襲われるのかわからないし、水も食料も十分でない。そういう飢餓感がちゃんと身体に染み付くようにと、撮影中は食事制限をしていました。
まあ、腕立て伏せとか身体を鍛えながらなので、まったく食べていないワケじゃなかったのですが、ムリのない範囲で、大和の飢えている状態に身を置くほうがいいだろうと思って、いろいろ考えていました」

このシリーズは、目の前の愛する人を助けられるのか、それとも愛する人を人柱として差し出し、愛する人以外の人類を助けるのか、どちらが正しいのか、究極の選択を突きつけられた時の葛藤を題材としている。今作でも、響や大和のほか、堀田真由、窪塚愛流など、ほかの登場人物においても、この究極の選択は何度も突きつけられる。高橋自身はどうするかという問いを投げかけると、「ああ、難しいですね」としばし考えつつ、次のような答えが返ってきた。

「目の前にいるのが自分の子どもなのか。親なのか。ほかの家族か、恋人か、友だちか。自分の甘えを許してくれる人だったら、人類のために犠牲を願うかもしれないです。自分自身が人柱になっても構わないと思うかもしれないけど」

ニット¥281,600、パンツ¥781,000、シューズ¥137,500/以上ロエベ（ロエベ ジャパン クライアントサービス）

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行動原理の根にあるのは、母親なんです。

「正直、いまの僕は、この人のためなら自分の身を投げ出してもいいと思えるような愛を感じることも、愛を持つ強さも、まだ、よくわかっていない。個人的には、自分の行動原理の根にあるのは母親です。母親のために自分が何をすべきなのかを考えて生きてきたかな。仕事に関しては母のために何かをしようとは一度も考えたことはないけれど、プライベートでは、たとえば誕生日に贈り物をするとか、常に母に何かをしてあげたいというのは意識していることです」

今シリーズではサバイブの題材を扱っているが、このトピックになった時、高橋のクールな表情が和らぎ、ちょっと自慢げなやんちゃな男の子の顔が表れた。広く知られるように、彼は高校時代に調理師免許を取得している。

「調理に関しては、生き残るための自信はあります。モヤシひとつでも献立は無限にあります。お金がない時でも、それだけで豊かです。ひとり暮らしを始めた時も自炊は問題なく、料理をたっぷり作って、毎日同じものを食べていました。1週間カレーとか、全然問題ない（笑）。料理と演技は何かしら似ていると思います。まあ、似てると軽々しく言えることではないかもしれないけれど、でも、最終的にこういう献立になるというレシピをもらって調理していくことと、僕ら俳優が役をもらって、役について理解して、この場面でこの人物が出す熱量はこれぐらいだ、ということを分析して出していく作業は、似ていると思います」

いまの僕は、この人のために身を投げ出してもいいと思えるような愛を感じることも、愛を持つ強さも、まだわかっていない。
ジャケット¥121,000、シャツ¥61,600、パンツ¥68,200、シューズ¥68,200、ソックス¥14,300（予定価格）、ハット¥44,000/以上ケンゾー（ケンゾーパリ ジャパン）

作品に応じて、弱そうに見えたり、しぶとく強く見えたり。20代にしてメリハリの利いた多彩な顔を見せるのは、自己分析に長けているから。しかるべきタイミングで火を入れないと、素材が生きることも、台無しになることもある。ここぞという芝居場で、彼の言葉で言うと「熱情」をタイミングよく出していく工程には、確かに料理と芝居は重なり合う部分が大きい。

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今回のフィガロジャポンの撮影ではハイブランドのカジュアルラインにトライしてもらった。何を着ても端正でありながらも、ポップな明るさが出てくるのが高橋の個性。

「どれも好きでしたが、特にロエベのアーガイル柄のセーターと特殊加工のジーンズは身体が動かしやすくて、ポーズをとっていてもすごく楽しかったです。ファッション誌を眺めるのは好きですし、おしゃれを楽しんでいきたい」

ファッションシューティングの合間、ガムランを彷彿させる金属音の細かなビートの効いたアンビエントミュージックが流れてくると、即座にその細かなビートに合わせて、次々とおもしろいロボットダンス風のパフォーマンスを披露。そのキレキレのリズムと動きにスタジオ中が明るい笑いで包まれた。出来上がった写真を見ると、瞬時に動きながらもブレずにポージングが決まっていて、反射神経の良さが見受けられた。

熱量を分析し作り上げていく料理と演技は、どこかしら似ている。ジャケット（参考商品）、シャツ¥198,000、中に着たニット¥220,000、ブローチ（参考商品）/以上アミリ（アミリ/スタッフ インターナショナル ジャパン クライアントサービス）

達成できると期待されているならば応えたい。

2024年には山本崇一朗による人気コミックを今泉力哉監督が映画化した『からかい上手の高木さん』に永野芽郁とともに出演し、これまで以上の飛躍に期待が高まる。24年以降については、どのようなビジョンを抱いているのだろう。

「たとえば「フェルマーの料理」では1年前にお話をいただいているんです。1年後、2年後、高橋文哉はこれくらいのことができるはずだと考えてくださっていると思うので、そこに向けて、頑張らないといけないんだなと思うんです。
そもそも僕はデビュー作である『仮面ライダーゼロワン』の撮影の時、コロナ禍の緊急事態宣言を受けて、5話ほど撮影がなくなってしまったんです。主演でやらせていただいたので苦しい気持ちがありましたし、撮影がストップした間は、1カ月間、家の中にいて、何をしたらいいかもわからない状況でした。そういう行動制限を受けた時期から俳優の仕事を始めたこともあって、だからこそ、ここからは頑張って、我慢していたことを出していこう、熱量を上げていこうという気持ちがあります。枷が外れたからこそ、そこから生まれてくるものがあると信じています」

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©2024 「君と世界が終わる日に」製作委員会

『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』
日本テレビとHulu共同製作の連続ドラマ「君と世界が終わる日に」シリーズ初の劇場版。希望の塔であるユートピアは、人間の欲望が生み出した絶望の塔だった。ユートピアではこの世界を救い出す唯一の方法、ゴーレムと呼ばれる化け物に対するワクチンを研究していた。特殊な抗体を持つ少女ミライを研究材料として......。ミライの父親である間宮響は、ユートピアに集った5人の男たちとともにミライを救い出す決心をする。ユートピアと呼ばれる超高層タワーを舞台に、ゾンビサバイバルが始まる。●監督／菅原伸太郎　●出演／竹内涼真、高橋文哉、堀田真由、板垣李光人、須賀健太、黒羽麻璃央、吉田鋼太郎ほか　●2024年、日本映画　●116分　●配給／東宝　●1月26日より、全国にて公開

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＊「フィガロジャポン」2024年3月号より抜粋