ハンター・ヘイズ 最新インタビュー 【後編】
Music Sketch 2014.05.22
『フィガロジャポン』本誌の2013年12月号「未来の定番音楽」特集でご紹介したこともある、22歳のハンター・ヘイズ。前編に引き続き、インタビューの後編をお届けします。

5月16日に渋谷GARRETで行なわれたショウケースライヴ。アメリカでは既にビッグスターだけに、日本でもこんなに近くで見られるのは最後かも。
■ 曲作りは、青写真を3Dモデルに変えていく感じ
----確かにマンドリンやスティール・ギターの音色は印象的ですよね。曲を作っていて、いわゆるカントリー風味のサウンドはどの段階で加えるの?
ハンター・ヘイズ(以下、H):「最初はアコースティック・ギターかピアノのどちらかで曲を作る。このやり方はいつかは変わっていく気がするけどね。今はすごくシンプルな環境で曲を書いて、そこから想像して、解釈を加えていく。だから青写真を3Dモデルに変えていく感じなんだ。ラップトップ(コンピューター)で歌詞を書いたり、アコースティックのヴォーカルをiPhoneにレコーディングしたりすることから始めて、それからツアーバスのスタジオでデモを築いていく。そこで曲が形作られて、どういう曲になるかを感じられるようになって、その後でスタジオに入ってから、いろいろなサウンドを加えて曲を築き始める。その時に曲が本当に生命を持ち始めるわけ。デモはその曲の可能性に最初に気づく段階で、その時にメロディとか、ギターとか、マンドリンとか、エレクトリック・ギターとか、ここで入れたらいいだろうなって想像するんだよ」
----テイラー・スウィフトやあなたのような若い世代の活躍、またライオネル・リッチーがカントリー歌手とコラボしたアルバムが大ヒットしましたが、こういった新たな流れが生まれて、アメリカではカントリー・ミュージックの聴かれ方や、ファン層はさらに変わってきたと思いますか?
H:「カントリーって、ストーリーが全てだと思うんだ。だから、このアルバムが『ストーリーライン』というタイトルになったのもすごく気に入ってて。今はたくさんの人たちが、皆が共感できるストーリー、このサウンドトラック、そして僕が大好きなサウンドを発見してくれている気がする。だから僕もこのサウンドを新しいリスナーたちに紹介するのが嬉しいんだ。カントリーには、テイラーやキース・アーバンのように素晴らしいソングライターたちが、名前を挙げたらきりがないほどいる。そういう人たちから僕はいろいろ学ぶことができて、最高だよ」

ライヴではギターの他に、キーボードも演奏。「ハジメマシテ」「カワイイ」他、日本語も披露し、観客との距離の縮め方も上手。
人気ナンバーの「Wanted」。今回のライヴでも見せ場のひとつでした。
----このアルバムには、ちょっと映画音楽を思わせるようなインタールードがありますが、これはあのポール・バックマスターに書いてもらったの?
H:「『インヴィジブル』のストリングスの部分を演奏している時にできたんだ。今回僕は初めてオーケストラ編成の曲をやったんだけど、ポールが全てのアレンジを手掛けた。その時に僕は、『彼が一曲のために作曲してくれるんだったら、もっと聴きたい』って言ったんだ。説明すると長くなるけど、厳密にはこのインタールードには3、4曲反映されていて、ポールが美しいストリング・セクションをアレンジして、僕が別の曲、もう存在しない曲のパートを抜き出して、新しい曲として合わせたものなんだよね。奇妙だったよ(笑)。一度もやったことがなかったからね。でも、楽しかった」
----そしてインタールードに続き、後半にも「・・・ライク・アイ・ワズ・セイイング(ジャム)」というジャムセッションが入っています。
H:「僕が大好きなレコードの多くに、インタールードとかレプリーゼとか、パート2が入っているのを見ていると、そういうレコードには曲をプレイしたら次に行くとかいったルールが一切ないんだ。それにライヴでは、僕たちは様々なギター・ジャムを披露しているから、それをアルバムでも出したいって思ったんだ。だから『......さっき言っていたようにね』っていうジョークっぽいタイトルにしたんだよ。"まだ終わってないよ"っていう意味でね」

典型的なギター・キッズと呼びたいくらい、エレクトリック・ギターでもアコースティック・ギターでもノリノリ。
■ 日本で購入したアコースティック・ギターを愛用
----「ホェン・ディド・ユー・ストップ・ラヴィング・ミー」以降はすっかり大人の雰囲気というか、世代を超えた音楽ファンも十分に堪能できる楽曲が続いていて。「シークレット・ラヴ」の歌の内容もそうだし、歌唱スタイルも、ずいぶんと大人っぽくなった気がして。このあたり、何か意識したことはあるの?
H:「いいや(笑)、全然意識してなかったよ。ただ曲を書いていただけで。たぶん、この音楽が僕に変わった曲を書かせたんだ。『ホェン・ディド・ユー・ストップ・ラヴィング・ミー』は、僕が大好きなバラード曲の数々にちょっと影響を受けている。僕が大好きな昔のR&B曲とトラディショナルなカントリー・ミュージックを合わせた曲になっているからね。2番目のヴァースでスティール・ギターが入ってくる瞬間は、嬉しくて笑っちゃったよ。僕はそういう感じが大好きだから。僕が聴いている大好きな昔の曲を思い出させるんだ。こういう曲に仕上がったことは、すごく誇りに思っているよ」
----前回日本に来た時に購入したアコースティック・ギターは、このアルバムで使っている?
H:「もちろん! 『フラッシュライト』のメインのアコースティック・ギターとして使ったし、『ストーリーライン』や『シークレット・ラヴ』など、アルバムの半分の曲で使われているよ」

撮影の時にも驚いたのですが、腕っ節の強いがっちり体型。普段はTシャツにジーンズ、スニーカーがお気に入り。
■ どんな経験でも、学ぶことはポジティヴなこと
----自分が一番気に入っている曲、もしくは歌うたびに、自分の気持ちを前へとプッシュしてくれる曲はありますか?
H:「『ストーリーライン』が、ずっと一番気に入っている曲。この曲にはエネルギーがあるんだよね。僕が大好きなブルーグラスのサウンドもハーモニーもたくさん入っているし、それに、"自分自身のストーリーを書こうよ"っていうこの曲の内容も気に入っている。ルールを決めずに、楽しめばいい、特に期待もせずに自分の人生を生きて楽しもうよ、っていう考えを祝う曲なんだ。だから、歌うのもパフォーマンスするのも、この曲が一番楽しい曲じゃないかな」
----ツアーに追われて、なかなか恋愛する余裕がないと話していましたが、ここにある多くの曲はラヴソングですよね。どのような思いで歌詞を書いていったの?
H:「他の人の体験談から始まった曲も数曲だけあるけど、ほぼ全てが僕の物語。恋愛する時間がないとまでは言わないよ、その時間はあるからね。成就した恋愛もあれば、そうじゃなかった恋愛もあるけど、ただそれを僕はプライベートのこととして、あまり話さないようにしている。曲にした人が話題になっちゃったりして、迷惑をかけたくないからね(笑)。だから全てはリアルな物語で、少なくともその経験から学ぶことができていたらと思うよ。どんな経験でも、学ぶことはポジティヴなことだからね」

メッセージ性の強い曲では思いを込めて丁寧に熱唱。
■ 音楽で、僕と会話している気分になってもらえれば
----ファンには、このアルバムを聴いてどういう気持ちを感じ取ってほしいですか?
H:「ハッピーに感じてほしいな。そして、僕を実際に知っているような、僕との間に壁がないような気持ちになってほしい。ただ音楽を聴いているんじゃなくて、いい事も悪い事も、あらゆる物語を皆と分かち合う人間の音楽を聴いているんだっていうふうにね。皆にこのアルバムに共感して欲しい。僕がただ歌を歌っているアルバムじゃなくて、僕と会話しているような気になれるアルバムだといいなと思うよ。それって大事なことだと思うから」
----今一番気になるミュージシャンがいたら教えて。
H:「コールドプレイの新作からの曲は全部大好きだよ。すごく興奮している。以前とは完全に違っていて、それでいて最高なんだ。彼らが方向性を変える時って常に思い切った変化になるし、それに本気で取り組んでいるから、そこが大好きさ。あとはエリック・パスリーのアルバムも大好きだよ。それから最近、ゴティエのアルバムを手に入れたんだけど、本当に素晴らしいアルバムだよね。多様性があって面白くて、大好きだよ」
ツアーのリハーサルで「I Want Crazy」を歌っている映像。
----今年は日本の夏のフェスに初参加します。まだあなたのパフォーマンスを見たことのない人たちに向けて、自分のステージの魅力を言葉でアピールして下さい。
H:「わからないけど、僕たちがやる中で、一番インスパイアされるショウになるんじゃないかな。フェスティバルにはしばらく出演していないから、参加できて本当に嬉しいよ。アウトドアのショウも、大きなフェスも大好きだから、楽しいショウになると思うよ。こういうフェスって、素晴らしいアクトが次々に出演するから、素晴らしい音楽スピリットに包まれているんだよね。全身でそれに浸って、その感覚を肌で感じながら、自分のショウを築いていきたいと思っているよ」

アンコール含め8曲演奏。トークでは人懐っこい笑顔で魅了し、パフォーマンスではグラミーでも評価されている熱演ぶりを披露した。
今回のプロモーション来日の直前の5月9日には、アメリカで《ハンター・ヘイズの子供の飢餓撲滅24時間ロードレース》と題して、朝NYで行なわれたTV番組『グッド・モーニング・アメリカ』でパフォーマンスしたのを皮切りに、ボストン、プロビデンス、スタンフォード、フィラデルフィアなど24時間で10都市10公演を行い、それまでの24時間で8公演行なったザ・フレーミング・リップスのギネス世界記録を更新したそう。
東京で今回行なったパフォーマンスも大盛況。とても心温まるライヴなので、7月の単独公演とフジロックフェスティバル'14の出演、ぜひご興味あれば足を運んで下さい。
LIVE PHOTO: YOSHIAKI KAYAKI
*To be continued
ハンター・ヘイズ単独公演
【大阪】
BIG CAT
日時:2014年7月22日(火) Open 18:00/Start 19:00
前売¥6,000(DRINK代別)
●問い合わせ先 スマッシュウエスト
Tel.06-6535-5569
【東京】
ZEPP TOKYO
日時:2014年7月23日(水) Open 18:00/Start 19:00
1F:スタンディング 2F指定席 前売¥6,000(DRINK代別)
●問い合わせ先 スマッシュ
Tel.03-3444-6751

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
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