立田敦子のカンヌ映画祭レポート2017 #12 第70回のパルムドールは、スウェーデンの異才の手に!
Culture 2017.05.30
5月17日から12日間にわたって開催された第70回カンヌ国際映画祭が、ついに閉幕しました! 授賞式を兼ねたクロージングセレモニーの司会は、モニカ・ベルッチ。今年は、大物女優がたくさん登場して華やかですね。
第70回カンヌの審査員メンバー。
© Mathilde Petit / FDC
©French Association of the International Film Festival
さて、受賞の主な結果をセレモニーで発表された順にご紹介しましょう。
まずは、脚本賞。今年はふたつの作品が授与しました。ひとり目は、『You Were Never Really Here(ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア)』のリン・ラムジー監督。彼女は、脚本も書くライター兼ディレクター。作家ジョナサン・エイムズの同名小説を脚色したこの映画は、トラウマを抱える主人公(ホアキン・フェニックス)が、売春組織に囚われている少女を救う、というストーリー。
左から、『You Were Never Really Here(ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア)』で、脚本賞を受賞したリン・ラムジー監督と、男優賞を主演したホアキン・フェニックス。
© Andreas Rentz / Getty Images
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もうひとりは、『The Killing of a Sacred Deer(ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア)』のヨルゴス・ランティモス監督。2015年に前作『ロブスター』(16年日本公開)でも監督賞を受賞しているので、今年はパルムドールを狙いたいところでしたが、脚本賞止まりとなってしまいました。奇妙な家族ドラマは、彼の得意とするところ。この映画では、コリン・ファレルとニコール・キッドマンが夫婦役を演じています。
『The Killing of a Sacred Deer(ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア)』で、脚本賞を受賞したヨルゴス・ランティモス監督。
© Neilson Barnard / Getty Images
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審査員賞は、ロシアのアンドレイ・ズビャギンツェフの『Loveless(ラブレス)』。下馬評では群を抜いていたので、下位の賞で早々に作品名が呼ばれた時には、ジャーナリストの間でちょっとしたどよめきが起こりました。
『Loveless(ラブレス)』で、審査員賞を受賞したアンドレイ・ズビャギンツェフ監督。
© Anne-Christine Poujoulat / AFP
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男優賞は、リン・ラムジー監督の『You Were Never Really Here(ユー・ワー・ネバー・リアリー・ヒア)』のホアキン・フェニックス。幼少期のトラウマを抱える元FBIのタフガイを、ものすごい迫力で演じています。アカデミー賞主演男優賞までまっしぐら、の快演。ホアキンは、受賞するのは監督のリン・ラムジーだけで自分が受賞するとは思っていなかったということで、かなり慌てた様子。足元がスニーカーで来場してしまったことを、しきりに謝っていました。
女優賞は、ファティ・アキン監督作品『In the Fade(イン・ザ・フェイド)』のダイアン・クルーガー。ドイツ出身で、フランスやハリウッドで活躍しているダイアンですが、この作品が初の母国語であるドイツ語映画だそう。人種差別によって家族を失った母親の苦悩を体当たりで演じており、彼女のキャリアにおいて最高の演技と絶賛されています。
『In the Fade(イン・ザ・フェイド)』で女優賞を獲得したダイアン・クルーガー。
© Pascal Le Segretain / Getty Images
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監督賞は、『The Beguiled(ザ・ビガイルド)』のソフィア・コッポラ。南北戦争下のヴァージニア州で、女だけが住む館に傷を負ってかくまわれた兵士と女たちの密室劇です。ドン・シーゲル監督がクリント・イーストウッドで撮った作品をリメイクした作品ですが、いま思えば、ドン・シーゲルがこの題材を映画化したことのほうが不思議なくらい、ソフィア・コッポラワールド! 残念ながら、ソフィア・コッポラの来場はなく、メッセージを審査員のアニエス・ジャウィが読み上げることに。「父と家族、そしてジェーン・カンピオンに感謝」と、謝辞を述べましたが、まさかここでカンピオンの名前が出てくるとは!
『The Beguiled(ザ・ビガイルド)』は今冬公開予定。
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『The Beguiled(ザ・ビガイルド)』の上映に際して登場した、ソフィア・コッポラ監督。
©KAZUKO WAKAYAMA
70周年記念ということで特別に設けられたのが、70周年記念アワード。コンペの『The Beguiled(ザ・ビガイルド)』とヨルゴス・ランティモスの『The Killing of a Scared Deer(ザ・キリング・オブ・セイクリッド・ディア)』、アウトオブコンペティション部門のジョン・キャメロン・ミッチェルの『How to Talk to Girls at Parties(ハウ・トゥ・トーク・トゥ・ガールズ・アット・パーティーズ)』、そしてジェーン・カンピオンのドラマシリーズ「トップ・オブ・ザ・レイク:チャイナ・ガール」と、4本の作品でまったく異なった演技を見せたニコール・キッドマン。残念ながら、ニコールもすでに帰国しており、ビデオでメッセージを寄せました。
70周年記念アワードを受賞した、ニコール・キッドマン。『The Beguiled(ザ・ビガイルド)』のプレミアにて。
©KAZUKO WAKAYAMA
グランプリは、なんとロバン・カンピヨ監督の『120 Beats Per Minute(120ビーツ・パー・ミニッツ)』。1990年代のフランスを舞台に、エイズ問題に取り組む活動家グループの人間模様を描いた作品です。正直、この作品がパルムドールの本命だと思っていたのですが、堂々のグランプリ!審査員長のペドロ・アルモドバルも、授賞式後の会見で「泣けた」と語っていました。
『120 Beats Per Minute(120ビーツ・パー・ミニッツ)』でグランプリを獲得した、ロバン・カンピヨ監督。
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『120 Beats Per Minute(120ビーツ・パー・ミニッツ)』や『Loveless(ラブレス)』を押さえてパルムドールを獲得したのは、なんとスウェーデンのリューベン・オストルンド監督の『The Square(ザ・スクエア)』。2011年には長編3作目の『プレイ』がカンヌの「監督週間」で上映、2014年には長編4作目の『フレンチアルプスで起きたこと』が「ある視点」部門の審査員賞を受賞している監督。三段飛び状態で、パルムドールを獲得してしまいました!
パルムドールを受賞したのは、『The Square(ザ・スクエア)』のリューベン・オストルンド監督。
©French Association of the International Film Festival
『The Square(ザ・スクエア)』は、新しいエキシビションの準備に忙しい、現代美術館キュレーターの男性を巡る不条理劇。独特のブラックユーモアと批評精神に満ちた作風に、評価は賛否両論でしたが、かなりおもしろい作品だと思っています。いまでは巨匠として扱われるミヒャエル・ハネケも、15年前には「悪意に満ちている」だの「変人」だのと、さんざん叩かれていたことを思えば、物議を醸し出すほどインパクトのある作品を作れること自体が、パワフルな証拠。新しい時代を担う監督のひとりであることは、間違いないでしょう。しかしながら、開幕寸前でコンペに追加上映が決まった作品が、最高賞を受賞するとは! 今年のカンヌも、多くのドラマがありました。
2017年カンヌ国際映画祭の審査員と受賞者たち。
© Alberto Pizzoli / AFP
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大学在学中に編集・ライターとして活動し、『フィガロジャポン』の他、『GQ JAPAN』『すばる』『キネマ旬報』など、さまざまなジャンルの媒体で活躍。セレブリティへのインタビュー取材も多く、その数は年間200人以上とか。カンヌ映画祭には毎年出席し、独自の視点でレポートを発信している。