山崎まどかと長谷川町蔵が語る、映画界を牽引するグレタとノアのパワーカップル論。

Culture 2024.04.27

グレタ・ガーウィグとノア・バームバック。いまやこのふたりは、ハリウッドを代表するパワーカップルとなった。最近は、バービーの共同脚本でも話題を呼んだ。
グレタ・ガーウィグの魅力を紐解く記事第3弾は、アメリカのポップカルチャーと青春映画を題材にした『ヤング・アダルトU.S.A. 』や数多くの映画評論などを執筆する山崎まどかと、映画や音楽の専門家・長谷川町蔵にグレタとノアのケミストリーを聞いた。
240416_movie_title_.png

山崎まどか(以降山崎)『バービー』がメガヒットして、監督・脚本のグレタ・ガーウィグと共同脚本のノア・バームバックはこれで名実ともにハリウッドきってのパワーカップルになったわけだけど......。

長谷川町蔵(以降長谷川)ふたりの最初のコラボレーション作だった14年前の『ベン・スティラー 人生は最悪だ!』(2010年)を観た時は予想だにしなかったことだね。

山崎 当時のグレタ・ガーウィグは、インディ映画の"マンブルコア"と呼ばれるムーブメントにおけるジーナ・デイヴィスみたいな存在として注目されていた。

長谷川 マンブルコアはお金がない若者の日常を、超低予算で撮ったマンブル(つぶやき)のような映画で、お金がないから監督同士がそれぞれの作品に俳優として出演していた。いまは俳優メインのジェイとマークのデュプラス兄弟もマンブルコア出身なんだよね。

山崎  グレタも最初は脚本家志望だったんだけど、マンブルコアに関わるようになって、女優としての才能が開花した。

長谷川 『ベン・スティラー人生は〜』はノアが下の世代のマンブルコアに共鳴して撮った作品で、グレタを女優として起用したことで、彼の作風もリフレッシュされた。監督と主演女優として始まったふたりの関係をクリエイターとミューズとして語る人も多いけど、最初から作り手としてのグレタのフィードバックは大きかったと思う。監督としてのノアのキャリアはグレタ前と後に分かれていると言えるからね。

240416_movie_1.jpg

映画『フランシス・ハ』では等身大の在り方でこの世と体当たりするフランシスを演じたグレタ。グレタの魅力を最大限に引き出した本作の監督はもちろんノア・バームバック。photography: ©Pine District, LLC.

山崎 それでふたりは意気投合して『フランシス・ハ』(2012年)と『ミストレス・アメリカ』(2015年)を撮って、監督・脚本がノア、共同脚本と主演がグレタという体制が出来上がった。この2作はちょっと現実から数センチ浮き上がっていて空気が読めない、彼女独特のキャラクターが押し出されて、女優としてのグレタがいちばん輝くように作られている。この少し前から、ふたりがニューヨークで一緒に暮らしているって噂を聞いて「恋に落ちたんだ!」ってびっくりした記憶がある。

長谷川 ノア・バームバックはこの2作の間に、ジェニファー・ジェイソン・リーとの離婚が成立して、その経験が後に『マリッジ・ストーリー』(2019年)として昇華するわけだけど。

240416_movie_sashikae.jpg

ノアの実体験を撮ったと言われる本作『マリッジストーリー』は、第92回のアカデミー賞の数多くの賞にノミネートされた。photography: Netflix映画『マリッジ・ストーリー』独占配信中

山崎 一方のグレタは自伝的な青春映画『レディバード』(2017年)で長編映画監督デビューして、いきなりアカデミー賞の作品賞・監督賞・脚本賞にノミネートされる。クリエイター同士のカップルで、こんなふうに相互作用して、双方の才能がスパークするなんて滅多にない。

長谷川 グレタは『フランシス・ハ』の後、女優の仕事のオファーが8ヶ月もなくて、それで自分で映画を作ることにしたらしいね。シアーシャ・ローナンを主演に迎えて、自分のオルターエゴみたいな、落ち着きのない女の子のキャラクターを演じさせているんだけど、彼女は演出家としても優秀なんだって分かった。

山崎 シアーシャは、グレタが「若草物語」に挑んだ監督第2作『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019年)でも主人公格のジョーを演じているんだけど、やっぱり言動がグレタっぽいんだよね。

240416_movie_2.jpg

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』公開の同年、グレタとノアは第一子をもうける。写真はジョー役のシアーシャ・ローナン。photography: ©2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

長谷川 ついでに言うと、ジョーの相手役のルイ・ガレルが微妙にノアに似ている(笑)。大作でもどこか自伝的なのが彼女の持ち味だよね。この年のアカデミー賞に『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は作品賞と脚色賞、『マリッジ・ストーリー』は作品賞とオリジナル脚本賞にノミネートされて、アカデミー賞史上初となる現役パートナー同士の監督による作品賞争いとなった。

山崎 ノアの最新監督作『ホワイト・ノイズ』(2022年)に、グレタは久しぶりに女優として出演しているよね。ただふたりともそれぞれビッグになっちゃったから、もう一緒に脚本を書くことはないのかなと思っていたので、『バービー』でふたりのコラボが実現したのには驚いた。

240416_movie_3.jpg

グレタにとって久しぶりの出演となった『ホワイト・ノイズ』。4人の子どもを持つ妻バベットを演じ、夫役にはグレタとノアとも関係が深いアダム・ドライバーが演じた。photography: Netflix映画『ホワイト・ノイズ』独占配信中

長谷川 監督グレタにとっての勝負作だからだろうね。私小説的な作品が多いふたりだけど、実は一緒にアニメ映画『マダガスカル3』(2012年)の脚本を書いた経験もある。『バービー』(2023年)ライアン・ゴズリング扮するケンのパートが予想以上に大きくて、そこがコラボ作って感じがする。ケンが思い描く理想の世界が一面的な批判ではなく、男が微妙に共感しそうな雰囲気でもあるあたり、ノアの貢献があったかもしれない。

240416_movie_225.JPG

ドリーム・ワークスアニメーション人気シリーズ『マダガスカル』3作目、最終章。photography: Packaging Design (C) 2018 Universal Studios. All Rights Reserved.

山崎 私もグレタがバービーの人形を、ノアがケンの人形を持って、ふたりで脚本を書いている様子を思い浮かべたんだけど、グレタは「あの人(ノア)がバービーなの!」って言ってるんだよ。それぞれの女性性・男性性が行き来する感じなのかな。このカップルの関係性はやっぱり新しいなって思う。

240416_movie_4.jpg

グレタとノアの共同脚本で生まれた名作『バービー』。photography: ©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.


240416_movie_22.png

『ベン・スティラー人生は最悪だ!』

●監督/ノア・バームバック
●主演/ベン・スティラー、グレタ・ガーウィグ、ジェニファー・ジェイソン・リーほか
©2009 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
U-NEXT配信中

240416_movie_8.jpg

『フランシス・ハ』

●監督/ノア・バームバック
●主演/グレタ・ガーウィグ、ミッキー・サムナー、アダム・ドライバー
●発売元:新日本映画社
●販売元:ポニーキャニオン
©Pine District, LLC.

240416_movie_9.jpg

『ミストレス・アメリカ』

●監督/ノア・バームバック
●主演/グレタ・ガーウィグ、ローラ・カーク、ヘザー・リンド
●発売:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2024 20th Century Studios.

240416_movie_23.jpg

『マリッジストーリー』

●監督/ノア・バームバック
●主演/アダム・ドライバー、スカーレット・ヨハンソン、アラン・アルダ
Netflix映画『マリッジ・ストーリー』独占配信中

240416_movie_7.jpg

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

●監督・脚本/グレタ・ガーウィグ
●主演/シアーシャ・ローナン、フローレンス・ピュー、ティモシー・シャラメ
●発売・販売元/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©2019 Columbia Pictures Industries, Inc., Monarchy Enterprises S.a r.l. and Regency Entertainment (USA), Inc. All Rights Reserved.

240416_movie_24.jpg

『ホワイト・ノイズ』

●監督・脚本/ノア・バームバッグ
●主演/アダム・ドライバー、グレタ・ガーウィグ、ドン・チードル、ダニー・エルフマン
Netflix映画『ホワイト・ノイズ』独占配信中


240416_movie_25.jpg

『マダガスカル3』

●監督/エリック・ダーネル、コンラッド・ヴァーノン、トム・マクグラス
●脚本/エリック・ダーネル、ノア・バームバック
主演/ベン・スティラー、クリス・ロック、ジェイダ・ピンケット・スミス
●発売元/NBCユニバーサル・エンターテイメント
Blu-ray: 2,075 円 (税込)  /  DVD: 1,572 円 (税込)
Packaging Design (C) 2018 Universal Studios. All Rights Reserved.
*2024 年 4 月の情報です。

240416_movie_6.jpg

『バービー』

●監督・脚本/グレタ・ガーウィグ
●脚本/ノア・バームバック
●出演/マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、シム・リウ、デュア・リパ、ヘレン・ミレンほか
●発売元/ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
●販売元/NBC ユニバーサル・エンターテイメント
『バービー』デジタル配信中
ブルーレイ&DVDセット(2枚組) 5,280 円(税込)
©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

Business with Attitude
Figaromarche
あの人のウォッチ&ジュエリーの物語
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories