農場がデパートへ? イベントや映画から見えてくるフランス農家の現在地。

Paris

農業の未来とパリジャンを結ぶ、映画とイベント。

パリから車を少し走らせるだけで、周囲には農地が広がり始める。春は一面の菜の花畑が色鮮やかだ。フランスはヨーロッパ全体の17%の生産量を占める欧州いちの農業国。だが近年農家の減少が続き、その未来が危ぶまれている。自由貿易協定、他国とフランス国内の規制の違いが生む不公正な競争、より安い食材を求める消費動向、気候変動の影響……。さまざまな要因から農家の収入は激減し、2024年以来、「農業従事者の怒り」ともいわれるデモやトラクターによる道路封鎖が何度も行われてきた。昨年夏には牛の伝染性皮膚病が発生し、年末の全頭処分の対策に大きな反発が起こったばかりだ。そんな中、パリでは春に向けて農業に関するイベントが続いた。

毎年2月末から3月初旬に行われる国際農業見本市は、全国から集まる畜産動物やワイン、チーズなどの農産加工品を目当てに冬休みの家族連れが集まる人気イベントだが、今年は伝染病の煽りで牛の姿が消えた。それでも9日間で43万7402人が訪れる盛況ぶりで、都市生活者の農業への興味をうかがわせる。

ル・ボン・マルシェの本館に掲げられた『Tous à la Ferme !』展のポスター。photography: Masae Takata

2月21日から4月19日までの間、百貨店ル・ボン・マルシェが開催していた『Tous à la Ferme !』(みんな、農場へ!)展は、パリジャンの農業への関心を百貨店らしい形で演出したものだろう。売り場に並んだのは動物モチーフの小物、天然素材の服や生活雑貨、ビオの野菜や果物。支払い時にはレジで少額の寄付が提案され、困難に直面する農家を支える団体Solidarité Paysans(農業連帯)に送られる取り組みもされていた。

ル・ボン・マルシェの『Tous à la Ferme !』展は、全館で農場にまつわる商品を展開。中央の吹き抜け空間には干し草にのった羊やウサギ、牛やピンクの豚のインスタレーションが。photography: Masae Takata
1階のメイン会場に並ぶのはセレクト雑貨。週末には生産者に会える直売会も展開した。photography: Masae Takata
封切りから2週間で3万4077人を動員した『Rural』。カリスマ性のある活動家に1年半密着したドキュメンタリー。©Nord-Ouest
©Nord-Ouest

これと時を同じくして、農業をテーマにした2本の長編ドキュメンタリー映画も封切られた。『Rural(田舎』)(26年)は、「農業従事者の怒り」を代表する活動家で酪農従事者のジェローム・バイルを追うドキュメンタリー。抗議行動だけでなく、酪農家、農家の継承問題や日常も描いた作品だ。ギヨーム・カネの主演で酪農を営む家族の苦悩を描いたフィクション『Au Nom de la Terre(大地の名の下に)』(19年)で成功を収めた監督の作品とあって、前評判も高かった。もう1本は『Un Été à la Ferme(農場の夏)』(25年)。こちらも酪農を営む一家の子どもたちの夏休みを描きながら、父の仕事を誇りに家業を手伝うふたりの息子と農家のシビアな日常を淡々と語る作品だ。

こちらは3週間の動員数4664人となった『Un Été à la Ferme』。マルセル・パニョルの世界を思わせるポスターで、子どもたちのイノセントな夏休みと酪農農家の日常を淡々と語る。©Les Films d’ici – ARP – Manuel Cam
©Les Films d’ici – ARP – Manuel Cam

農家の現実をパリジャンが想像し共感するのは難しく、都会に住む映画人が作る映画は田舎暮らしを理想化したものばかりという批判もある。どちらもパリ周辺ではアール&エッセーの小さな映画館での上映で、観客動員数も決して多くない。とはいえ2本のドキュメンタリーがこのタイミングで封切られたことは偶然ではないだろう。メルコスール(南米4カ国)と欧州の自由貿易協定問題に、農家がさらに危機感を募らせているいま、農業従事者の主張とその未来は国民的な関心事。この春続いた映画やイベントは、都市生活者と農業従事者を繋ぐ小さな架け橋になるのかもしれない。

Masae Takata
2017年より「フィガロジャポン」パリ支局長。各地で極右が票を伸ばした3月の地方選挙。パリ市長選でのラシダ・ダティの落選と左派候補エマニュエル・グレゴワールの選出に安堵。

  • text: Masae Takata

*「フィガロジャポン」2026年6月号より抜粋