週末は時間を忘れて読書を! 暮らしを彩る書籍5選。
東京を離れ、山梨の築130年の古民家で宿を営みながら暮らす日々。家の購入から改修、手入れを重ねる営みを通して、「女性が家をつくる」こと、覚悟を持って生きる姿を描いたエッセイ『澄んでゆけ住まい――古民家からひらく、生活の哲学』は、日々の暮らし方を見つめ直す一冊に。この作品はじめ、週末に読みたい、編集部おすすめの5冊をご紹介。
01.『澄んでゆけ住まい――古民家からひらく、生活の哲学』

美しく暮らすために、女性ひとりで家を“つくる”。
文:宮脇 彩 エッセイスト
さらりとしたタイトルと清冽な装丁に惹かれ手にとれば、なんとも熱い冒険譚なのだった。
これは東京から移り住んだ山梨で築130年の古民家に出合い、いくつかの覚悟を決め、「私」の家をつくっていくひとりの女性のものがたり。
「蹴飛ばせばひっくり返る家ではなくて、ちゃんとした教養の満ちあふれた家をつくるべきだと思いませんか――」
「序」で我が父・宮脇檀の書いた一節が引用されていて、懐かしさでドキリとする。そうそう、世の親らしく勉強しろなぞ言わなかったけれど、この手のことは家でも外でも著書の中でも諄々(じゅんじゅん)と説いていたっけ。うるさいくらいに。お、メッセージが届いた! イイゾイイゾ! と、空の上で快哉を叫んでいるに違いない。
間取り図にしおりを入れ、めくり返しては邸内を思い描きつつ読み進める。年月とともに増改築を繰り返した家を元の姿に戻すことから始まった改修工事は、18カ月にも及ぶ。これからの暮らしに合うよう古い家のどこを遺し、なにを諦め、なにを足すか。家の一部を紹介制の宿とするとなれば間取りはどうする。女だというだけでつきまとう、ややこしいあれこれ。もちろん費用の算段も。冒険者が背の高い草をかきわけ、崩れそうな崖を登り、流れの速い川を渡っていくように、彼女は確固たるフィロソフィーに従い道を拓いていく。そのよき伴走者は建築家、工務店、職人、そして子供たちだ。
困難続きの道だが、背筋の伸びたことばで紡がれるものがたりに悲壮感はない。
「私の家を、わたしのよろこびにすること」
その歓びがそこここに滲んでいるからだ。
家づくりの合間に覗く、静かな里山の風景、庭や付属する農地に広がる野草のにぎやかさ、邸内に射す光と影、心を砕いた季節のしつらえ、什器を選ぶときめき――共に心躍らせ読み終える頃には、一家と愛犬ブンに平穏な暮らしあれかしと、心からのエールを送っているのだった。
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宮脇 彩|Sai Miyawaki
エッセイスト
1968年、東京都生まれ。成城大学文芸学部を卒業。食と生活にまつわるエッセイを執筆。著書に『父の椅子 男の椅子』『バケット アスパラ 田舎道』(ともにPHPエディターズ・グループ刊)、『ごはんよければ すべてよし』(講談社刊)など。
02.『明日、あたらしい歌をうたう』

音楽に救われたことがあるなら、この小説は必読かもしれない。
いまは亡きカリスマ的なロックミュージシャンの写真を父親だと聞かされて育った新(あらた)。辛い少女時代を送っていた彼の母、くすかは、街で偶然耳にした音楽をきっかけに自分の人生を取り戻していく。息子と母。それぞれの青春が交互に語られる。心から愛せるものと出会った瞬間、世界が色付きに変わる。そのきっかけが音楽だったなら、この小説はあなたの小説でもある。生きていく奇跡がほとばしるように描かれた傑作長編。
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03.『劇場という名の星座』

演劇・ミュージカルの聖地、帝国劇場の思い出が蘇る。
建て替えのため昨年2月に休館した東京・日比谷の帝国劇場。元支配人から「劇場の記憶を残したい」という依頼を受け、兵庫県の自宅から劇場に1年以上通い、取材。演劇・ミュージカルで主演を務めた松本白鸚、市村正親、堂本光一ら俳優陣をはじめ、客席案内係、売店スタッフなど裏方にも話を聞き、執筆。ロビーに一脚あるという幸運の椅子。あのステンドグラスの裏で寝泊まりしていた少年。現実と非現実が交差する珠玉の短編集。
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04. 『おしゃれなマナー AtoZ パリで暮らして知ったミューズたちの素顔』

憧れのミューズたちに学ぶ、錆びないエレガンスの秘密。
40歳で渡仏、「フィガロジャポン」のパリ支局長として20年を過ごした著者が憧れのミューズたちから学んだ本物のエレガンスを伝授。時差ボケの著者をハーブティーでもてなしてくれたジェーン・バーキン。白いバラの花に込められたボルヘス夫人の心遣い。年齢ばかり気にする日本人に困惑するフランソワーズ・サガン。親交の深かった著者ならではの知られざるエピソードが満載のエッセイ。
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05. 『Space Creatures』

独創的なウィッグが生み出す、近未来の神話のような世界観。
独創的なウィッグアートで知られる河野富広と写真家の丸山サヤカが主宰するkonomadによる最新作品集。有機的なオブジェのようなウィッグを装着することで、ひとりの人物が刻々と変容していく様をコマ送りの構成で見せていく。多様なウィッグを纏った顔の連なりが自己と他者、人工と自然の境界線を曖昧にする。両性具有的な存在感は天野喜孝のイラストレーションさながら。フューチャリスティックな神話を思わせる一冊。
- text: Harumi Taki
*「フィガロジャポン」2026年6月号より抜粋