アン・ハサウェイが演じる「隣人トラブル」、フランス女子高生の青春、台湾の夜市の疾走——。暑い時こそ映画館へ! いま観たい、珠玉の3作品。
本格的な夏が到来、毎日危険なほどの気温のいまこそ映画館へ! 涼しい劇場で観たい、珠玉の3作品をご紹介。
『隣人たち』
陽当たりのいい家庭劇がサイコスリラーへと急転。

1960年代アメリカの郊外、ジェシカ・チャステイン演じるアリスとアン・ハサウェイ演じるセリーヌは皆が憧れる庭付き一戸建ての家に各々住み、お隣同士で仲がいい。ともに1児の母。ふたつの家族が集うガーデンパーティに幸せが波を打つよう。だが、そんな華やぎはセリーヌの息子の急死によって断ち切られる。目を離した一瞬の落下事故に対するアリスの自責の念。セリーヌの茫然自失。お互いの気配りも食い違い、あらぬ疑惑がみるみる膨らむ。ヒッチコックばりのスリラー演出に挑むのは、『青いパパイヤの香り』(1993年)ほかの撮影監督として名高いパリ出身のブノワ・ドゥローム。逆転また逆転の展開に、断たれた“幸せ”の幻影を絶頂へと狂おしく差し招く戦慄感が待ち受ける。
『隣人たち』
●監督・撮影監督/ブノワ・ドゥローム
●2024年、アメリカ・ベルギー・フランス・イギリス映画
●94分 ●配給/ギャガ
●7月24日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開
https://gaga.ne.jp/rinjin/
『また会えるよね』
極上青春映画が発する帰り来ぬ時の愛しさと痛み。

舞台はフランス南東部のドローム川のほとり。寄宿舎通いによって高校最後の夏を送る女子たちの活動が、オーロール、ヌルス、ジャンヌ、ディアーヌと、中心人物を替えてスケッチされる。この土地の高校生がいま体現する、1960年代の生活文化の名残を留めた自然との親和。彼ら固有の“時間”が、青春期特有の気怠さを帯びた喪失と幸福のあわいを生きるという普遍性と通じ合う。撮影準備を万端にして後は素早く、俊才は瞬間瞬間を撮り逃さない。薄暗い廊下にマットレスを立てたドミノ倒しごっこで友らがどっと笑うこと。水しぶきが乱反射する川遊び。「ひどい世界」を未来へ向けて憂う抗議のアクションも。別れの予感が刻限を迎える時、マドリガル(叙情歌)の励ましが聞こえてくる。
『また会えるよね』
●監督/ギヨーム・ブラック
●2024年、フランス映画
●64分 ●配給/エタンチェ
●7月18日より、ユーロスペースほか全国にて順次公開
『左利きの少女』
夜市の賑わいと活力から滲み出る家族の苦楽。

シングルマザーの母は台北で麺屋台を営む。夜市には浅草の遊園地みたいな色と匂いと活気があるが、生活は楽じゃない。赤いバイクを乗り回す年頃の長女イーアンは反抗児タイプで、母と折り合いが悪い。母の手伝いを好む5歳のイージンはお店のマスコット的存在。三者三様の日常が複眼的に描かれ、逼迫すると頼りにしがちな祖母の還暦祝賀会のクライマックスに収斂して沸点に達する。破局的事態なのに、日常に戻ると嵐の後の晴朗さが余韻を残す。異才ショーン・ベイカーを『アノーラ』(2024年)で米アカデミー賞の高みに押し上げた長年の伴走者、ツォウ・シーチンの単独初監督の成果だ。“左利きの少女”イージンの心の傷をトラブルメーカーの長女が酌み取ってあげる挿話も素敵。
『左利きの少女』
●監督・共同脚本/ツォウ・シーチン
●2025年、台湾・フランス・アメリカ・イギリス映画
●108分 ●配給/スターキャットアルバトロス・フィルム
●8月14日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて順次公開
https://cinema.starcat.co.jp/left-handed-girl/
- text: Takashi Goto
*「フィガロジャポン」2026年9月号より抜粋