Promotion

FERRARI

山が育むシャルドネの泡。シリル・ブランと田邉公一が読み解くフェッラーリの味わい。

Lifestyle

2023年、ワイン界を驚かせたニュースがあった。名門シャンパーニュメゾンでセラーマスターを歴任してきたシリル・ブランが、イタリア北部のフェッラーリの醸造責任者に就任したのだ。なぜ、シャンパーニュの第一線にいた彼はトレントへ向かったのか。満を持して初来日したブランが、その理由とこれからの展望を、ソムリエの田邉公一に語った。

フェッラーリのシェフ・ド・カーヴとしてシリル・ブランが初来日。プロモーション活動の合間を縫って、田邉公一との対談が実現した。

シリル・ブランが選んだ、トレントの山のテロワール

1902年にジュリオ・フェッラーリが創業し、1952年からルネッリ家が経営を担うフェッラーリ。トレンティーノの山岳地帯で育つシャルドネを中心に、メトド・クラッシコ(瓶内二次発酵)によるスパークリングワインを造る、イタリアの名門だ。 そのフェッラーリ・トレントが2023年、シリル・ブランをシェフ・ド・カーヴ、すなわち醸造責任者に迎えた。シャンパーニュのグラン・クリュ、アイ村に生まれ、歴史あるシャンパーニュメゾンでキャリアを重ねてきた醸造家のイタリア移籍は、当時、ワイン業界の注目を集めた。ブランがなぜトレントを選んだのか、フェッラーリをどこへ導こうとしているのか。田邉公一がそれを解き明かす。

Cyril Brun/シャンパーニュ屈指の名村、アイ村出身。ヴーヴ・クリコでピノ・ノワールのプログラムと研究開発を統括し、シャルル・エドシックではシェフ・ド・カーヴを務めた。2023年、フェッラーリのシェフ・ド・カーヴに就任。
Koichi Tanabe/ワインディレクター、ソムリエとしてコンサルティングや監修、セミナー講師など幅広く活躍。ワインスクール「レコール・デュ・ヴァン」講師歴17年、リッツ・カールトン東京のビバレッジディレクターも務める。近著に『THE STUDY OF WINE』(新星出版刊)。

「このテロワールに恋をしました。フェッラーリのワインを飲んだ時、フレッシュネス、ピュリティ、そしてヴァーティカリティ(垂直性)に衝撃を受けたのです」

コロナ禍前、ロンドンでフェッラーリの指揮を執るマテオ・ルネッリと会い、同社の将来を見据える視点にも共鳴した。招かれてトレントを訪れたブランは、畑とセラーを自ら確かめ、この土地が秘める可能性を実感したという。

イタリア北部、トレンティーノの山々に広がるフェッラーリの畑。標高は谷の約250mから700m近くにまで及ぶ。夏の日中は暑くなるが、夜には山からの冷気が下り、南に位置するガルダ湖からの風が谷を抜ける。ブドウは穏やかに成熟し、酸を保ったまま実りの季節を迎える。シャンパーニュでは、チョークをはじめとする土壌の違いがワインの個性となる。一方、トレントでは少し事情が異なる。

「シャンパーニュとの大きな違いは、土壌よりも標高。岩の多い土壌に、標高、谷の位置、風、湖の存在が重なって、独自のマイクロクライメイト、つまり微気候をつくるのです」

フェッラーリの所有する自社畑。「ペルゴラ」と呼ばれる伝統的な棚仕立てを多くの区画で取り入れている。

この微気候こそ、フェッラーリの味わいを形づくる要。山は夏の熱を和らげ、果実のフレッシュさを守る。シリルが「ヴァーティカリティ」と呼ぶ、縦に伸びるような酸と張りは、まさにこの土地から生まれる。

フェッラーリを口にした彼は、1980年代から2000年代初頭のシャンパーニュを思い出したという。温暖化の影響がいまほど大きくなく、酸がワインの骨格を支え、緊張感をもたらしていた時代。その記憶に重なるものを、彼はトレントの山に見出した。

「けれど、私はシャンパーニュを再現しに来たのではない。自分の経験をもとに、トレントのテロワールをよりよく表現することが目的」

だからこそ、彼は遠隔から助言するコンサルタントという立場を選ばなかった。家族とともにイタリアへ移り、畑からセラーまで現場に立つ。これから15年ほどを視野に、トレントの可能性を見極めながら、フェッラーリのワインをさらに磨いていくためだ。

「15年という時間を先に見据え、その間に何を変え、どこまで高められるかを考えている。そのスケールで取り組む姿勢に、シェフ・ド・カーヴとしての矜持を感じる」と田邉。そこに見たのは、単なるキャリアチェンジのストーリーではない。トレントという土地とフェッラーリの未来に自らの時間を注ぐという、ベテラン醸造家の覚悟だった。

ディテールを積み重ねる、ベテラン醸造家の仕事。

「スパークリングワイン造りは、ディテールと規律の仕事。一度に多くを変えるのではなく、ひとつ実践し、その結果を見て、また次に進む」 着任後、ブランがまず行ったのは、地元の栽培家やスタッフの話を聞き、畑を歩き、谷や斜面、風の違いを確かめることだった。20年、30年とこの土地に向き合ってきた人々から学び、フェッラーリの強みと、さらに向上できる部分を見極めていった。

その具体的な取り組みのひとつが、プレス工程の見直しである。最新鋭のコカールプレスを3基導入し、より丁寧に、酸化を抑えながらブドウを圧搾する体制を整えた。狙いは、より澄んだ、精度の高いジュースを得ることだ。

まずはキリリと冷やした温度帯から。

リキュール・デクスペディシオン(仕上げの味わいを整えるリキュール)については、キュヴェごとの個性を引き出すために、テーラーメイドで設計するという。甘みに焦点を当てるのではなく、デゴルジュマン後のワインを整え、果実味、酸、テクスチャーを自然につなぐためのプロセスとして考えている。

フェッラーリの自社畑はオーガニックで管理されている。冷涼で乾いた山岳地帯の気候は病害のリスクを抑え、温暖化の時代においても、酸とフレッシュネスを守る支えとなる。ブランは今後、高標高区画の可能性や、ブドウの選抜、リザーヴワインの使い方などをさらに深めていくという。

4本のキュヴェに映る、フェッラーリ・トレントの現在。

この日、ブランは田邉とともに、フェッラーリの現在地を物語る4本のキュヴェを試飲した。

ブリュット NVは、フェッラーリの入口となるフラッグシップ。「クリスピーな酸と、山の冷涼感を素直に表している」とコメントする田邉。スタンダードキュヴェながらハイレベルなブランドであることを証明しているといえる。

ペルレ・ミレジム 2018は、より高標高の畑から選ばれるシャルドネによるヴィンテージワイン。熟した果実味とクリーミーな質感を持ちながら、後味には涼やかな酸が残る。田邉は、低めのドサージュでありながら果実がよく熟している点に注目し、「余韻に旨味が残っている感じがすごくいい」と評した。

左からジュリオ フェッラーリ リゼルヴァ・デル・フォンダトーレ 2010、フェッラーリ リゼルヴァ ルネッリ 2015。

リゼルヴァ・ルネッリ 2015は大樽を用いるキュヴェだ。ブランによれば、大樽の役割は樽香を強く打ち出すことではなく、バランスを保ちながら、ワインに穏やかなスモーキーさを添えることにある。「樽を使っているのに重くならず、むしろシャープさがある」と田邉。酸があるからこそ、複雑さと軽やかさが共存する。

ジュリオ フェッラーリ リゼルヴァ デル フォンダトーレ 2010は、創業者ジュリオ・フェッラーリに捧げる、フェッラーリを代表するキュヴェ。単一畑のシャルドネを用い、ステンレスタンクで醸造。長い瓶内熟成を経て、豊かな質感と鮮やかな酸を併せ持つ。田邉は、甘味、旨味、苦味、塩味、酸味が円を描くように調和し、余韻へとつながっていくワインだと捉えた。さらに「フェッラーリのワインは、シャンパーニュやフランチャコルタ、プロセッコといったカテゴリーとの比較ではなく、フェッラーリとして味わうべき」と語る。

終始和やかに、その味わいを確認していったブランと田邉。今年、田邉はフェッラーリへの訪問も予定しているという。

ブランがいま優先するのも、新しいキュヴェを増やすことではない。田邉とともに確かめた4本は、ブランが受け継いだフェッラーリの現在を映すものだった。畑とセラーでシリル・ブランが始めた仕事が、長い熟成を経てグラスに現れるのは、これからだ。シャンパーニュで培った精密さが、トレントの山の個性とどう結びつくのか。この先のフェッラーリから、目を離すべきではない。

問い合わせ先

  • photography: Aya Kawachi text: Hiromi Tani