クチュールを日常へと落とし込む。ピエールパオロ・ピッチョーリによる2027年春夏バレンシアガ。

Fashion

2026年10月1日(現地時間)、ピエールパオロ・ピッチョーリによるバレンシアガの2027年春夏コレクションショーがパリで開催された。一面をホワイトで包んだショー会場の中央には、フランス人アーティスト、オード・フランジュ(Aude Franjou)による《Les Coraux de la Liberté(自由のサンゴ)》(2025)がそびえ立つ。

精緻にリネンを巻き付けたこの作品は、アートとクラフトの自由な相互作用を探求したもの。クチュールハウスを、生き、呼吸し、脈動するひとつの生態系になぞらえた作品でもあり、生命の力強さを感じさせるその佇まいが、コレクションの幕開けを印象的に彩った。

本コレクションでピッチョーリが探求したのは、クチュールを単なる制作手法ではなく、ひとつの“思想”として捉えること。第55回バレンシアガ クチュール コレクションで生み出された技法をウィメンズとメンズの幅広いプレタポルテへと応用し、人の手による痕跡を宿した、メゾンのクチュールに深く根ざすバレンシアガならではのワードローブを生み出した。

デニムジーンズやシャツ、Tシャツ、ボンバージャケットといった日常的なアイテムも、卓越したカッティングや構造、手仕事によって再解釈。すべてのピースはメゾンのアトリエでドレーピングやフォルム形成のプロセスを経て生み出され、身体に沿いつつも建築的なフォルムを描き出し、見慣れた服の佇まいをクチュールの技法によって鮮やかにアップデートした。

また、クチュールならではの技巧は、コレクションに豊かな表情をもたらした。鮮烈なオレンジのルックを覆うのは、圧縮空気を充填したオーガンザで表現された抽象的な花々。立体的な花のボリュームがリズミカルに反復され、歩くたびに揺れるような、身体の動きに呼応するダイナミックなシルエットを生み出していた。

なかでも鍵となったのが、第55回クチュールコレクションで初めて採用された縫製技術。テーラリングの内部構造に由来するこの技法をレザーやコットンに用いることで、アーカイブシルエットを想起させるバスクシェイプが生まれ、それをTシャツやレザージャケットへと落とし込み、クチュールと日常着を軽やかに融合させた。

さらに、イブニングドレスのイメージが強いバイアスカットをジーンズやシャツ、メンズスーツにまで応用。アイテム本来のアイデンティティを保ちながら、身体との新たな関係性を描いた。



一方、カレーのレースによるインサーションやカットワークは、単なる装飾ではなく、身体を覗かせながらシルエットを形づくる構造そのものとして機能し、繊細なベージュのレースを纏ったドレスは、肌と衣服の境界を曖昧にするような軽やかさを魅せた。

淡いピンクのシアーなルックでは、流れるようなファブリックが身体の動きに合わせて揺らめき、コレクションを貫く軽やかさと柔らかさを体現。構築性と官能性、クラフツマンシップと着心地。その一見相反する要素が、ひとつのワードローブの中で自然に共存していた。



また、身体と手仕事への眼差しは、アクセサリーにも息づいている。柔らかく足馴染みの良いシューズには、トワルキャンバスを用いたフラットな「Wave」トングサンダルや、ヒールを備えた「Dahlia」ミュール、新作のアンストラクチャードな「Lounge」スニーカーが登場。「Nodo」や「Silhou」トートは、しなやかなレザーを手作業でドレーピングし、造形することで有機的なフォルムに。職人がテンプルを編み上げた「Bow Mask」サングラスや、Getariaの貝殻から着想を得たジュエリーも、手仕事の温もりを添えた。

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クリストバル・バレンシアガが築いた、身体を創造の基盤とする哲学を受け継ぎながら、クチュールの技法を現代の日常へと解き放ったピッチョーリ。そこにあるのは、服を纏う身体を制約するのではなく、その動きや心地よさに寄り添うためのクチュールだ。「自由な身振り。自由な動き。自由な選択。」──メゾンの歴史と手仕事を未来へと繋ぎながら、ピッチョーリの解釈による新たなバレンシアガが、鮮やかに花開いた。

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  • Courtesy of Balenciaga
  • text: Mika Mukaiyama