横浜流星と松村北斗、役へののめり込みが凄まじすぎる! 映画『汝、星のごとく』をコラムニスト小林久乃がレビュー。
映画『汝、星のごとく』あらすじ
●漫画原作者を目指す青埜櫂(横浜流星)と、刺繍に興味がある井上暁海(広瀬すず)は瀬戸内で高校生時代に出会い、交際を始める。それぞれ家庭環境に欠落を抱えていた。

●プロの漫画原作者になった櫂は、作画を担当する久住尚人(松村北斗)とタッグを組み東京へ上京する。母の手を離すことができなかった暁海は島に残り、就職する。
●漫画がヒットして奢侈に流れていく櫂に感情がついていかず、暁海は別れを選ぶ。同時にふたりの周囲の人間関係もうごめき出していた。
似て非なるふたりが紬ぎ出す、漫画の世界
公開から3日で興行収入3.5億円を超え、ヒット中の『汝、星のごとく』。昨年、凪良ゆうによる原作を偶然読んでいて、予習をしてから鑑賞をした。結果、とても美しかった。原作の文字が一文字ずつ川へ流れていくように、鮮やかに映像化されていた。約2時間の物語にはいくつもの魅力が詰まっていたけれど、今回は櫂役の横浜流星と尚人役の松村北斗について触れてみたい。この物語が15年を経た壮大なラブストーリーが主軸ではあるけれど、原作を読みながら出版業界に関わる者として、切ない人生を辿る櫂と尚人が気になったのだ。
櫂と尚人が出会ったのはインターネットだ。漫画の原作者を探していた櫂に尚人がヒットした。編集者の植木渋柿(濱田岳)も応援もあって、ふたりの作った漫画も大ブレイク。多額の金を手にした櫂は分かりやすく、成り上がっていく……。こんな人物を私も編集者として何人か観た。一般人から本を出版してスターになっていく人、自分の立場を勘違いして逆に人生を崩してしまった人。欲心の脅威がふたりに重なった。一方、尚人は堅実にお金を貯めて、利欲で生活を壊さなかった。が、とある事情で櫂と同じくして心を崩してしまう。いずれにしてもふたりの繊細さは映画から見て取ることができた。
こんな横浜流星が見たかった。
横浜流星の演技は巧みだった。
今回、横浜流星は高校生から30代前半までを2時間で演じている。ひとりの俳優がひとりの人生を演じ切るモノドラマは、いまだに日本では主流ではない。朝ドラか大河ドラマのように長いスパンで演じる機会はあっても、2時間で演じるのはチャンレンジングでもある。それを難なく演じていたのも感動だけれど、病を患った櫂になりきるため、体重を48キロまで落とした姿には鬼気迫るものがあった。あの姿、もし病棟にいてもなんら不思議はない。

そんな気迫を見せたかと思えば高校時代から、漫画が売れるまでの暁海と幸せそうにしているシーンには爽やかさと可愛らしさがあふれていた。ドラマ「着飾る恋には理由があって」(TBS系・2021年)の藤野駿役以来、とても見たかった横浜流星がそこにいた。
盛者必衰の櫂の人生。だからこそ、横浜の万華鏡のような巧みさは必須だった。
役と本人の乖離に舌を巻く。
松村北斗の演技はどうして、本人からかけ離れられるのだろう。
本作で尚人の登場シーンはそこまで多いわけではない。でもインパクトが大きいのか(うわあ……)と声を漏らしたくなる彼が映画にいた。

パーソナルな部分で、尚人は櫂とは真逆に引きこもった。心配した櫂が部屋を訪ねると……尚人はかなり太っていたのだ。特殊メイクを施したのだろうが、かなりの脂肪を蓄えた男性がいた。「太っても美人は美人!」「いい男は太ってもいい男!」という俗説を聞いたけれど、その説は太った尚人で簡単に覆されてしまった。あの一線級のアイドルの格好良さを差し出しても、やはり太ってしまったら別人なのだ。
たとえ役とはいえ、撮影当時、松村自身はどんな気持ちだったのだろうか。彼は今年の夏ドラマ「告白-25年目の秘密-」(日本テレビ系)で、25年間も同じ女性を思い続けて尾行や行動記録をする青年を演じていた。結果的にこの思いは純愛に変わったけれど、連続ドラマ序盤のストーカーぶりは気持ち悪さを感じさせた。引きこもりに付け狙い。本人の姿はどこにも見られないのは、もう“演技”を超えているのかもしれない。だから主役ではなくとも、名残を見せられるのか。
このふたりの姿は『汝、星のごとく』でぜひ。ここに書いたシーンも静止画でゆっくり確かめたいので、動画配信が待ち遠しい。
『汝、星のごとく』
●監督/藤井道人 ●脚本/安達奈緒子
●出演/横浜流星、広瀬すず、松村北斗、石田ゆり子、長谷川博己ほか
●配給/東宝
●2026年、日本映画
●PG-12 ●135分
©2026「汝、星のごとく」製作委員会 ©凪良ゆう/講談社
https://nanji.toho-movie.jp/