気鋭の女性監督が描く、みずみずしい少女のひと夏。

インタビュー

両親を病で亡くした少女フリダは、祖父母が住むバルセロナを離れ、カタルーニャの田舎町に住む叔父の家族と一緒に暮らし始める。叔父夫婦も幼いいとこのアナも、フリダを温かく迎えてくれるが……。幼くして死と向かい合った少女のひと夏をみずみずしいタッチで描いた『悲しみに、こんにちは』。ベルリン国際映画祭で新人監督賞を受賞、アカデミー賞外国語映画賞のスペイン代表にも選出された本作で、鮮烈なデビューを飾ったカルラ・シモンは、いま最も期待されるスペイン出身の女性監督だ。新作の脚本を執筆中の中、来日した気鋭にインタビュー。

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『悲しみに、こんにちは』は少女フリダのひと夏の体験を描く、カルラ・シモン監督の初長編作品。

−−『悲しみに、こんにちは』はフレッシュな素晴らしい作品ですが、とても初監督とは思えない上手さもある作品ですね。自伝的な要素もあるそうですが、どのように企画はスタートしたのでしょうか?

「ありがとうございます! ロンドンで映画学校に通っていた時に、『LIPSTICK』という短編を撮ったんです。幼い兄妹ふたりが急に亡くなったおばあちゃんの死と向き合うという話でした。その時に、子どもが死と向き合うテーマをもっと掘り下げ、長編で撮りたいと思ったのが発端です。自伝的要素を中心にしたのは、自分の経験を語ったほうがきっと上手くいくと思ったからです。スペインから離れたところにいたので、故郷を思って、自分の何が周りの人間と違うか、自分のオリジナルなところが何かを考え、この企画が生まれました」

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カルラ・シモン監督

——そのあなたの自伝的な体験とはどういうものだったのでしょうか?

「私は幼い時に両親を亡くし、叔父叔母のところに預けられたんです。この映画の主人公フリダが、叔父の家族と暮らし始め、新しい環境に慣れていかなければならないという設定は、私の体験からきています。細かいエピソードは、フィクションです」

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両親を亡くしたフリダ(右)は、バルセロナからカタルーニャの田舎に住む叔父夫婦のもとに引き取られ、いとこのアナ(左)と出会う。

−−主人公の少女のひと夏は、子どもの頃の楽しい夏休みの空気もありますが、どこか淋しさが漂っています。この感情は、あなたが感じた感情ですか?

「はい。幼かったので具体的なエピソードは覚えていないけれど、その時どんな気持ちだったか、どう感じたかは鮮明に覚えているんです。フリダと同じような悲劇が、私にも起きた。けれど、子どもはあくまでも子どもなんですね。それでも、楽しそうに遊んでいました。そういうコントラストを描くために、全編にわたって明るいトーンを狙いました。風景も爽やかで明るいものです。そこで子どもの中で新しい環境に慣れるための戦いが続いたんです。新しい家に慣れ、自分に新しくできた妹と仲よくしたり。そういう気持ちは、全部私自身が体験した感情です」

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叔父夫婦はフリダを温かく迎えるが、フリダが新しい家族になじむのには時間がかかる−−。

−−大人になると子どもの感情を忘れていくものですが、よく覚えていたんですね。それほど強烈な体験だったのでしょう。子どもが新しい環境に慣れるうえで、いちばん大変なことは何だったのでしょうか?

「これだけ極端に環境が変わると、何が子どもにとって大事かというと、まず、自分が愛されているという意識なんですよね。フリダは、親を亡くしてしまったので、一刻も早く誰かに愛されたいという気持ちがあるんです。その次に来るのが、強くなるということです。私もそういった経験で強くなったので、大人になってからもいろんな国に住むことができました。新しい環境に慣れることに自信があるからです。

また、どこかで読んだのですが、子どもの頃、死と向き合った経験がある人は、アーティスト向きというか、とてもクリエイティブになる、と。私は、悲劇を経験したことで、乗り越える力を育みました。それは映画監督になるにあたってとても役に立った。映画監督は、乗り越えなければいけないことだらけですから」

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フリダの叔母マルガ(左)と叔父エステバ(右)。

−−カタルーニャの田舎を舞台にしたのはあなたが育った場所だからだということですね? どんな土地なのですか?

「風景が美しいんです。また、カタルーニャは、スペインの中では特殊な場所で、ほかとは違う文化、言葉、習慣があります。私はカタルーニャ語で育ったので、映画でも使いました。また、カタルーニャの人は、あまり感情を表さないといわれます。なので、キャラクター設定も感情表現を控えめにしてあります」

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——ところで、あなたがそもそも監督になったきっかけはなんですか?

「私はとても親戚の多い家族に生まれ、彼らのそれぞれのストーリーを見て育ちました。で、大人になったらいろんなストーリーを語りたいと自然に思っていたのです。実は、映画やTVは、ほとんど観ないで育ちました。子どもの頃は、世界を回るルポライターになりたかったんです。高校生の時、映像の授業があり、そこでたくさんの映画を観ました。そこから映画に目覚めたんです」

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祖母や叔母たちもフリダを心配してたびたびカタルーニャを訪れるが……。

——どういう映画を観たのですか?

「アート系が多かったですが、最も印象的なのはミヒャエル・ハネケの『コード・アンノウン』とか、『ラメリカ』(ジャンニ・アメリオ監督、日本未公開)ですね」

−−高校生の授業にしては、かなりクセのある作品ですね!

「上映の後に、ディスカッションもありましたよ」

——ヴィクトル・エリセやペドロ・アルモドバルのような素晴らしい監督もスペインにはいますね。

「エリセは、私にとっては神様のような存在です。でも、かなり後になってから発見した監督なんです。『ミツバチのささやき』を初めて観たのはバルセロナの大学時代で、モバイルの小さな画面で観ました」

−−今回の映画の子役の演技が素晴らしかったです。子どもを主人公に物語を進めるにあたって、特別な演出法はありますか?

「我々がよくやったのは、撮影の前に、とにかく長く一緒に時間を過ごすこと。スタッフもほかの俳優も。映画の中で新しい親になるふたりの俳優と一緒に、散歩したり買い物に行ったり。子どもたちに、お母さんが入院していると思って、みんなでお見舞いに行きましょう、といった“ごっこ“をたくさんしました。映画には写っていませんが、日常の生活を過ごしたんです。撮影中、本当の家族に見えるようにね。子どもに脚本は渡さず、言葉で説明しながら、2週間くらいリハーサルをした。撮影は6週間しかなかったので、準備に時間をかけたんです」

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カタルーニャの夏のお祭りでのワンシーン。

−−フリダ役のライア・アルティガスは、どのように見つけたんですか?

「キャスティング段階で1,000人くらいの子に会いました。当時の自分に性格が似ている子を探していたんです。彼女は、家庭環境など私の子どもの頃と共通点がありました。それに、彼女の想像力は素晴らしくって、見事に演じてくれた。決定的だったのは、彼女の視線。この瞳を撮りたいと思いました」

−−あなたと性格が似ている点とは?

「見た目は、すごく無垢でいい子だけど、何か欲しいものがあるときに、どうやって大人を動かすかという力やしたたかさも感じたんです。そこが私と似ていますね。自分の子だったら扱いやすい子ではないと思いますが、心のきれいな子ですよ」

−−カリフォルニアやロンドンで映画を学んで、バルセロナに戻ってきたのはなぜ?

「この物語を書き始めたのは2014年の半ばくらいで、ロンドンにいた時です。その後、バルセロナに戻って1年間かかって準備して撮影した。次作でもあの地域のストーリーを語りたいので、残るしかないですね!」

−−バルセロナ派といわれていると聞いていますが、ほかに仲間はいるのでしょうか?

「バルセロナには似たような年代の女性監督はいますね。私は子どもに映画を教えるということもやっているので、恵まれた環境にいると思います」

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1,000人ほどの少女たちの中からフリダ役に選ばれたライア・アルティガスの生き生きとした表情に惹きつけられる。

−−ベルリン国際映画祭で賞を取って注目されました。1作目で素晴らしいスタートを切ったことについてはどう受け止めていますか?

「この作品を作っている時、好きなことをすべてやったので、撮影が終わった時点では本当にこれでいいのかな?と思ったけれど、それが認められたので、好きなものを撮っていいんだという自信になりました。次回作からも自由に撮ろうと決めています」

−−製作費も1作目に比べると集まりやすくなっていますか?

「次回作の脚本を書き始めたところなんですが、制作資金は集めやすくなったと思いますよ。今年のカンヌ国際映画祭でケリングの『ウーマン・イン・モーション』で賞をいただきました。その資金提供もあります。この作品は、一からいろいろな人にお話ししてやっと資金を集めて撮った作品だったので、それに比べれば遥かに楽になると思います」

——「ウーマン・イン・モーション」は、映画業界の女性たちの地位向上や環境改善のために働きかけるプロジェクトですが、女性の映画界の平等についてはどう思いますか。

「女性の地位向上を、アピールすることは大事だと思いますよ。話題になるのもいいことだと思います。でも、私は、映画を作るうえでは、女性だからという意識はしていません。ただ、映画学校時代、クラスで男女比は半々だったにもかかわらず、女性監督が少ないのは、どこかしらこの業界の仕組みが上手くいっていないところがあるのではないでしょうか。政治的な支援も必要なのではないかと思います。ロールモデルは、大事です。あのひとのような映画が撮りたいという女性監督が徐々に増えれば、もっと変わっていくと思います」

——あなたがロールモデルとするような女性監督は?

「クレール・ドゥニやルクレシア・マルテルですね。彼女たちの存在は私の励みでもあります」

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フリダと新しい家族との心の交流や葛藤が、繊細に描かれる。

Carla Simón
1986年バルセロナ生まれ。ロンドン・フィルム学校在学中に制作した短編ドキュメンタリー『BORN POSITIVE』と劇映画『LIPSTICK』は多くの国際映画祭で上映された。長編デビュー作『悲しみに、こんにちは』はベルリン国際映画祭でプレミア上映され、新人監督賞、ジェネレーションPlus部門グランプリを受賞。2013年、子どもや10代の若者たちに映画を教えるため「Young For Film!」を立ち上げた。
『悲しみに、こんにちは』
●監督・脚本/カルラ・シモン
●2017 年、スペイン映画
●100分
●配給・宣伝/太秦、ノーム
© 2015, SUMMER 1993
渋谷ユーロスペースほか全国にて順次公開中
kana-shimi.com

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interview et texte : ATSUKO TATSUTA

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