女優・監督シルヴィア・チャンが描く繊細な家族の風景。

インタビュー

郷里にある父の墓を都会に移し、母と一緒に埋葬しようと画策するフイイン。それを阻止せんとする父の前妻・ツォン。そんなふたりの争いを、テレビ番組でリポートするフイインの娘・ウェイウェイ。急速な都市化が進む中国の地方都市を舞台に描く、世代の異なる3人の女性たちの「愛をめぐる闘い」の物語『妻の愛、娘の時』。監督、脚本、そして主演を務めた、アジア映画界を代表する大物のひとり、シルヴィア・チャンに話を聞いた。

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『妻の愛、娘の時』はシルヴィア・チャン演じるフイイン(左)、フイインの父の最初の妻ツォン(中)、そしてフイインの娘ウェイウェイ(右)の3世代の女性を描いた物語。

――監督作として前作にあたる『念念』(2015年)は、心の内面をえぐり取るような、ヒリヒリした映画でしたが、今回の『妻の愛、娘の時』は一転、外側に向けてメッセージを発信するような感じを覚えました。この作風の変化はどこにあったのでしょうか?

たぶん“年を取ったから”じゃないでしょうか(笑)。『妻の愛、娘の時』は3世代の女性のドラマですので、以前に監督した『20 30 40の恋』(04年)と比較される方がいらっしゃいますけど、私の中ではこの2作には何の関連性もありません。“家族を描く”という監督としての根本に変化はないのですが、年々ものの見方は変わってきています。

――実話にインスパイアされて脚本を書かれたということですが。

お墓の移設をめぐる一連の騒動は、実際に中国であった事件をベースにしています。最初にこの話を聞いた時はびっくりしましたけど、中国本土ならでは、ですね。台湾や香港ではありえない。

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シルヴィア・チャン

――ここでは映画の結末は伏せますが、実際にあったその事件はどのようなラストを迎えたのですか?

結局お金で片付いたみたいです(苦笑)。田舎でお墓を守っていた人にある程度のお代を支払って、お骨は無事に都会へ運ばれたという。

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『妻の愛、娘の時』制作現場にて。

――『妻の愛、娘の時』で3人のヒロインが織りなす物語は、ときには多層的に、ときには混じり合って展開していきます。この複雑な構造が、巧みに交通整理されていたことに驚きましたが、どのような点に気を配られましたか?

編集で、観客が理解しやすいような流れを作っていく、とにかくこれに尽きました。このキャラクターは、どうしてこのような行動をとるのか? そこに違和感を覚えさせないことが重要です。そのため、撮影はしたものの大幅にカットしたり、演出方針を変更したりしたシーンもあるんですよ。脚本を書いている時は、不安になっていろんな要素を足していってしまうのですが、実際に撮ってみると思っていたのと違うことは多いですね。ただ、そのような映画で使われなかったシーンも、私は意味があると思っています。演技をして、撮影することによって、俳優の演じるキャラクターへの理解は深まりますし、そこから醸し出される空気感は、説得力をもって観客に伝わるはずです。

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フイインの夫シアオピンを演じたのは、中国映画界の巨匠ティエン・チュアンチュアン。

――具体的にはどういったシーンでしょうか?

一例を挙げると、映画の終盤、私が演じたフイインと、ティエン・チュアンチュアン(田壮壮)が演じた夫のシアオピンが、新車に乗ってドライブするシーンがありますよね。あの場面は、脚本ではロマンティックな夕陽を背景にした、もっと美しいシーンをイメージしていたのですが、いざロケハンをしてみると、中国の都市の道路にロマンティックな風景はなくて、そこにはただ渋滞があるだけでした(苦笑)。

――だからあのシーンは、車窓からの風景はあまり映らず、後部座席からあなたとティエン・チュアンチュアンの後ろ姿を撮り続けていたのですね。

物語の構成上、ああするしか手がなかったということもありますけど、結果として、アドリブを交えた、ティエン・チュアンチュアンの味のある芝居を堪能できるシーンができたことは、不幸中の幸いだったかもしれません。

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ともに監督兼俳優の、ティエン・チュアンチュアンとの共演。

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フイインの娘のウェイウェイを演じたラン・ユエティン(右)は、『香港、華麗なるオフィス・ライフ』(15年)でもシルヴィア・チャンと共演している。

――ティエン・チュアンチュアンは、俳優としては『妻の愛、娘の時』が本格的なデビュー作になるかと思いますが、映画賞で男優賞にノミネートされたり、続いて出演した『僕らの先にある道』(18年)は中国で記録的な大ヒットと、何だかすごいことになっています。

その後の出演オファーもすごいですよ。ただ、彼は俳優よりも監督としての活動を中心にしていきたいようですが。

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フイインの父の最初の妻・ツォンを演じたのはウー・イエンシュー。中国国内最高レベルの演技者と認められた「国家一級演員」のひとり。

――同じ監督兼俳優として、ティエン・チュアンチュアンを演出するのは大変だったのではないですか?

私がすべきことはひとつだけでした。彼に、リラックスして、芝居だけに集中できる空間を提供すること。そこから彼が生み出したものに、私が合わせていくというスタイルです。実はこれ、彼が監督した『呉清源 極みの棋譜』(06年)に私が出演した時に、彼からしてもらったことなんですよ。同作で、私は呉清源の母・舒文を演じたのですが、ひとりで息子の帰りを待つという、気持ちを作るのが難しいシーンがあったんですね。その撮影では、カメラは私の視覚に入らないような場所にセッティングしてくれて、私の準備ができたら、彼は小声で“よーいスタート”って(笑)。今回、私はその時のお返しをしたというわけです。

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『妻の愛、娘の時』制作現場にて。

――『妻の愛、娘の時』は、これまで台湾や香港で映画を作ってきたあなたが、初めて中国で監督をした作品になります。その作品内容への評価の高さ、小品としては上々の興行成績と、今後ますます中国でのシルヴィア・チャンの影響力が増してきそうですね。

どうでしょうか。私はよくわからないのですが……最近の中国では、社会現象となるような大ヒット映画が続々と誕生していますよね。そうした作品は次々と消費されていくものなのですが、私はそこまでヒットしなくてもいいので、5年後、10年後も愛されるような映画を作っていきたい。そう願っています。

Sylvia Chang
1953年7月21日、台湾生まれ。ジミー・ウォング、サミュエル・ホイと共演した香港映画『いれずみドラゴン 嵐の決斗』(73年)で女優デビュー。香港と台湾を中心に、エンターテインメントからアートまで、さまざまな作品に出演してスター女優となる。当時の台湾芸能界の慣例にならって(?)歌手デビューも果たし、ヒット曲も多い。日本では『悪漢探偵』シリーズのホー警部役で人気を博した。映画監督デビュー作は、香港映画『舊夢不須記』(78年)。
『妻の愛、娘の時』
●監督・脚本・主演/シルヴィア・チャン
●2017年、中国・台湾映画
●121分
●配給/マジックアワー
© 2017 Beijing Hairun Pictures Co.,Ltd.
2018年9月1日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次公開
http://www.magichour.co.jp/souai

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映画大好きな編集KIMが綴る、香港、ウォン・カーウァイ、90年代。

interview et texte : RYOICHI SUGIYAMA

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