家族崩壊のドラマで、個性派俳優から名監督へ。

ポール・ダノ｜映画監督／俳優

『リトル・ミス・サンシャイン』（2006年）や『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』（07年）で、強烈なインパクトを与えた俳優ポール・ダノ。ポール・トーマス・アンダーソンからポン・ジュノまで、あらゆる名監督と仕事をしてきたが、ついに新作『ワイルドライフ』で自らも名監督の仲間入りをすることになった。

「短編『ロック・スプリングズ』を読んで、作家リチャード・フォードの大ファンになり、次に『ワイルドライフ』を読んだ。第1章は、僕がこれまで読んだ本の中で最も心に響くものだった。最初からビジュアルイメージが浮かんできて、パートナーのゾーイ（・カザン）にも、読んでみてよ、と薦めたよ。1年くらい思いを巡らせて、ラストシーンが頭に浮かんだ時、リチャード・フォードに映画化したいとメールしたんだ」

4年かかった脚本と、名優の出演を得て。

物語の中心は、モンタナ州に移り住んだブリンソン一家。仕事をクビになり現実から逃げる夫と、夫が長期不在中に地元の金持ち男と親しくなる妻。ありふれた出来事だが、14歳の視点で語られる、ある家族の肖像に、ポールは〝再生のドラマ〟を見いだして心を動かされたという。

「映画監督をやるなら、家族の物語にしようと思っていた。僕の家族は愛にあふれていたけれど混乱もあったから、この物語にとても共感したんだ。両親の間でどんなことが起こっているのか。僕が子どもの時に感じた戸惑いや謎がそこにはあった。夫婦の関係は変化し、それによって息子は大人にならざるをえない。希望の喪失について描かれているけれど、愛に導かれた物語でもある。最悪のことが起こっても、再び家族になることを探求したいと思ったんだ」

パートナーで女優、脚本家のゾーイ・カザンと4年越しで脚本を書き上げ、母親役には、キャリー・マリガン、父親役にジェイク・ギレンホールと、トップクラスの俳優を得た。「キャリーに脚本を送ったら、12時間後には返事が来た。これって稀なことなんだ。ジェイクもほぼ即答だったよ。彼とは電話で家族やアメリカンドリーム、男らしさについて、物語に含まれるさまざまなテーマを語り合った。ふたりと話し合って、脚本がさらに豊かになった」

『ワイルドライフ』はサンダンス映画祭やカンヌ国際映画祭で上映され、高い評価を得た。映画が完成した18年には、ゾーイ・カザンが第1子を出産。父親になったポールが次にどんな家族の物語を紡ぎ出すのか、いまから楽しみでもある。

1960年代のモンタナ州の田舎町。父ジェリーと母ジャネット、14歳の息子ジョーは、新天地を求めてこの土地に引っ越してきた。しかしゴルフ場の仕事を解雇されたジェリーは、山火事の消火活動に志願して町を離れる……。ピュリッツァー賞作家リチャード・フォードの同名小説を映画化。『ワイルドライフ』は7月5日より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて順次公開。

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＊「フィガロジャポン」2019年8月号より抜粋