attitude クリエイターの言葉
ピュアな直感で制作する、「カメラを持たない写真家」。
インタビュー
素材が語りかける物語を、イメージの重なりに託して。
カトリアン・デ・ブラウワー|アーティスト
絵画とファッションを学んだ後、自身のコレクションの研究のために作ったコラージュブックをきっかけに創作活動に移っていったという、ベルギー生まれのアーティスト、カトリアン・デ・ブラウワー。古い雑誌や新聞などからイメージを収集し、独自に組み合わせるコラージュ表現を探求してきた。デリケートな抑制の利いた作風は、同様にファッションからアートへと転向した写真家のサラ・ムーンや、コラージュされた木箱の中に密やかな美意識を閉じ込めたアーティスト、ジョゼフ・コーネルを彷彿とさせる。
「少女時代から包装紙や雑誌の小さな切り抜きを集めていて、いま思えばコラージュみたいな日記を作るのが好きでした。子どもの頃はそんな自分だけのナイーブな儀式を持ったりするものだけど、私にとって、それは心地よい習慣だったの」
創作はダンスに近い行為、自己を癒やすセラピー。
たとえば、シュルレアリスムのコラージュ表現ではイメージの断片を示唆的に扱う作家も多いが、よりピュアな直感に従うことが彼女独自のアプローチである。
「コレクションしている膨大な量の雑誌の中から、素早くイメージをサーチします。それから、考えずに感覚に触れたものを手でちぎっていく。私自身の身体のムーブメントを伴ってむしろダンスに近い行為といえるかもしれない」
何ものにも縛られることなく制作に没頭するそのプロセスは、彼女にとって心理セラピーを伴う自己分析のひとつの手段となった。結果として、そこには誰のものかわからない映画的な物語が紡がれ、作家自身の内面がさらけ出される。
「素材が語りかける物語を、微妙な距離を取りながら分析することには鎮静効果がある気がします。日々イメージを探求する練習は、ダンサーのようにしんどく感じることもあるけれど、最終的には癒やされて、満たされる行為だと感じている」
新作のアートブックでは、フィニッシュに絵の具やクレヨンのタッチを施し、作品に色彩のレイヤーを加えている。素材の紙質や風合いまで妥協することなく、常に批評的であろうとする彼女は、自身のことを、「カメラを持たない写真家」と呼ぶ。なぜカメラを持つことを選ばなかったのかと問うと、「待つことができるから」と答えてくれた。即座にイメージを切り取る写真ではなく、イメージの重なりに〝意味〟が降りてくる時を待つことも、また彼女の自己探求になっているのかもしれない。
1969年、ベルギー・ロンセ生まれ。絵画を学ぶべくヘントへ移住した後、アントワープ王立芸術学院でファッションを学ぶ。古い雑誌や印刷物から写真を収集、カット、リサイクルのプロセスを経てコラージュ作品を生み出す。
5月18日から6月15日にパリで開催された展覧会に合わせて刊行された新作。刊行から瞬く間に完売となった前作『WHEN I WAS A BOY』に続き、「カメラを用いない写真」を追求している。絵の具やクレヨンを取り入れることに初めて挑戦。ノートの手記も抜粋して収録されている。『WHY I HATE CARS』(LIBRARYMAN刊)¥6,912
*「フィガロジャポン」2019年9月号より抜粋
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interview et texte : CHIE SUMIYOSHI