「TATAMI」について、北村一輝と齊藤工が語る。

インタビュー

『blank13』(2017年)など、映画製作においては「齊藤工」として活動をしている俳優、斎藤工。

世界有数のケーブルテレビ局、HBOアジアによるドラマシリーズ「フォークロア(Folklore)」の一篇「TATAMI」が、ついに日本でも公開される。これはシンガポールの映画監督エリック・クーがショーランナーを務める企画で、その国に伝わる民間伝承をテーマに据えられた6つのホラーストーリー集である。

齊藤は、『blank13』を観たエリック・クー監督に見出され、アジア6カ国の日本代表として抜擢。一畳の畳に染み込んだある家族の怨念、哀しみを美しい映像美で構築している。

東京国際映画祭2019での上映とスターチャンネルでのオンエアを前に、主演を務めた北村一輝とともに話を聞いた。

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「TATAMI」を監督した齊藤工(左)と主演を務めた北村一輝(右)。

――「TATAMI」は海外の視聴者のことも意識して、お題である日本の民間伝承を言葉ではなく、視覚で表す工夫がふんだんにされていて、怖さもありますが、むしろ美しさに目が奪われました。北村一輝さん演じる写真家は、廃墟をめぐってルポを書いていますが、冒頭、藁人形だらけの部屋に潜入します。調べると藁人形の呪いを始めたのは平安時代の橋姫という伝説があるらしく、そのことを思い出したりもしました。

北村 橋姫ですか、いいですね。

齊藤 おっしゃるとおり、畳の表面はいぐさですが、中身は藁なんです。藁人形は人体のフォルムをしていますけど、では、畳の中の、藁に宿るものは何だろう、と。もしかしたら畳一畳分の空間の怨念、記憶なのか。そこから派生して、物語をどう紡いでいくか考えました。

北村 僕が演じたのは写真家でしたが、工くんは普段から写真を撮っていて、『去年の冬、きみと別れ』(18年)で一緒になった時にも、工くんが写真家の役で、あの時も現場で撮っていたよね。

齊藤 まさにあの現場がきっかけで、たくさん撮るようになったんです。あの時の北村さんの役は編集者でしたが、今回は廃墟をめぐる写真家でありルポライター。そのような場所に自ら出向く人間は特殊で、彼はオカルト雑誌やウエブに記事を掲載しています。で、ひとつ仕掛けたのが、北村さんが演じる男は聴覚を失っているという設定。音のない世界にいるから、どこか僕ら以上に研ぎ澄まされた感覚もあるだろうし、僕らが恐怖を感じるような環境でも、違う観点でそこに入れるんじゃないか。

ものすごくおどろおどろしい場所でも平気で寝泊まりできるのは、観ている人の共感を得られないことだし、「この人は大丈夫なのか?」という感情を抱かせることになる。でも観ているうちに、次第に彼の心情に寄り添っていく構成を心がけました。グラデーションのある複雑な役ですが、北村さんが演じて下さったことでさらに厚くなるだろうと。快諾してくださったことで、映画は勝敗じゃないですけど、これは勝ちだ、と確信しました。

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北村一輝演じる男が、ある事件の起こった廃屋を訪ねるところから物語が始まる。

北村 僕は脚本を読む時に、自分がこの役を演じるという視点ではなく、まず客観的に全体を俯瞰してみて、「TATAMI」は静かな世界観だと感じました。「フォークロア」はアジアの6カ国のクリエイターが同じ条件で作り、海外の映画は叫んだり、血が多く出たり、そういった表現を選ぶだろう。でも、齊藤監督のやろうとしているのは日本にしかない出汁のよさだなと。日本の風土にある静かな、じっくり伝わってくる奥深さを描いている。

僕の演じた男の背景にはいろいろな秘密が隠されていますが、ただこの作品は、彼の人生を描く話ではない。聞こえない要素はいま、監督が言ったように、普通とは違う感覚を出すことであり、あえて静かに演じることを選びました。リアクションを大きくとるよりも、この世界観の中にいればいいかなと。

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北村一輝 KAZUKI KITAMURA
大阪府出身。1999年、『皆月』でヨコハマ映画祭助演男優賞、『日本黒社会 LEY LINES』でキネマ旬報日本映画新人男優賞など各賞を受賞。NHK大河ドラマ「北条時宗」(2001年)や「天地人」(09年)、実写版『アラジン』プレミアム吹替版(19年)などテレビドラマや映画で活躍する傍ら、香港やインドネシア、韓国など海外の映画にも出演。NHK連続テレビ小説「スカーレット」に出演中。10月13日(日)からスタートする日本テレビ系「ニッポンノワール-刑事Yの反乱」に出演。

――最初は個人的な話なのかと思って見ていたら、最終的には日本の家制度の重さを考えさせられる内容でした。特に神野三鈴さんが演じた北村さんの母である女性の苦しみなどが。

齊藤 実は神野さんと北村さんが事前に、台本作りに徹夜で関わってくださったんです。おふたりともものすごく忙しい中だったんですけど、時間を作ってくれて。特に女性の描き方に関しては、神野さんが持ち込んでくださったアイデアを入れ込んでいます。

実は神野さんはもともと出演予定ではなかったんですけど、僕の母親役を演じてくれた『blank13』を撮った後、次に僕が何を撮るのかという話をしていた時、「変なものは撮ってほしくないから、脚本の段階で言いたいことを伝えさせてくれ」と言ってくださったんです。それで脚本作りの段階で、日本における女性の苦しみについて神野さんから提案があり、そこまでの熱情で持ち込んでくださったモチーフなんだから、ほかの女優さんが演じるより、神野さんが演じたほうが絶対的に自然だと思いました。それで老けメイクで出ていただいたんです。おふたりはこの船がどこに行くべきなのか、乗組員であると同時に導いてくださいました。

――神野さん演じる母親が、北村さんへの愛情なのか、執着なのか、首筋を舐めるという表現をしていて、ぞっとしてしまいました。

齊藤 動物的ですよね(笑)。聴力がない彼にとっては触れられることの意味がとても大きいと思う。母のひとつの愛であり、制圧でもありますよね。見方によってはおぞましい日常性。そりゃ、家にあまり戻りたくないですよね。

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過去に男が見た衝撃的な光景が時折フラッシュバックする。

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アジアから世界へ発信するプロジェクト。

――北村さんは国境を超え、海外で自分のパフォーマンスを見せることをかなり前から意識されて活動してこられましたが、今回の座組をどう感じていらっしゃいますか?

北村 僕は、自分のペースで、どこの国の現場でもやってみたいなというスタンスです。日本にいるかぎり、どうしても情報量は少ないですし、映画の発信という意味では、アジアにおいてはシンガポールやマレーシアがどんどん注目され、他国の映画もすごい勢いで上映されている。そこに日本の作品も負けないようにと、自分たちが目と耳で体感している中では、今回の座組は勢いのある国が選出されていて、そのなかでも「TATAMI」は作品性が高いと思います。

齊藤 僕は北村さんがかなり前から海外に出て行かれて、身をもって開拓されてきた背中を見ていて、そこにめちゃくちゃ影響を受けているんです。今回のシリーズはシンガポールのエリック・クーが発信元ですが、シンガポールはトランプ大統領がキム・ジョンウン(朝鮮労働党委員長)と会談したり、アジアの臍みたいに年々なってきていて、だからこそ自然発生的に成立したプロジェクトだなと思いました。今回のシリーズは東京国際映画祭で上映されますし、スクリーンでも観てほしいですね。

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齊藤工 TAKUMI SAITOH
移動映画館cinéma bird主宰。長編初監督作『blank13』(18年)が国内外の映画祭で8冠獲得。台湾、韓国でも公開された。昨年末、パリ・ルーヴル美術館のアート展にて白黒写真作品が銅賞受賞。日本代表として監督を務めたHBO Asia “Folklore” 『TATAMI』が10月30日、11月2日に東京国際映画祭にて上映。同企画第2弾“Foodlore”にも参加。企画・制作・主演を務める『MANRIKI』が11月29日に公開。企画・脚本・監督・撮影の『コンプライアンス』が来年2月公開予定。21年公開予定の『シン・ウルトラマン』では主演を務める。

――最後の質問ですが、おふたりにとって、いままでいちばん怖い思いをしたホラー映画は?

北村 僕は絶対に『オーメン』(1976年)! あの音楽を聴くだけで、おおおおおと震えます(笑)。1作目も怖いですが、2(78年)の男の子の冷たい目が子どもの頃に観て、本当に怖くて。

齊藤 僕は幼少期に観たものがいっぱいあるし、ヒッチコックもトラウマになるほど怖くて好きですけど、去年観た『ヘレディタリー 継承』(18年)は子どもの使い方も含めて、異次元の怖さでした。

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「TATAMI」は昨年、スペインの「シッチェス・カタロニア国際映画祭2018」にてワールドプレミア上映された。

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HBOアジア
ホラーアンソロジー『フォークロア』
⽇本episode「TATAMI」

監督/齊藤工 出演/北村一輝、神野三鈴、黒田大輔
2018年、シンガポール・日本作品 46分
©2018 HBO Pacific Partners, v.o.f. HBO and HBO Asia Originals are service marks of Home Box Office, Inc. FOLKLORE is a service mark of HBO Pacific Partners, v.o.f. Used with permission. ©2019 HBO Asia. All rights reserved.


東京国際映画祭2019にて上映。
日時:10月30日(水)18:00〜/11月2日(土)20:00〜
場所:TOHOシネマズ六本木ヒルズ スクリーン9
https://2019.tiff-jp.net


11月10日(日)より、BS10 スターチャンネルにて放送。

北村一輝:ジャケット、Tシャツ、パンツ、シューズ/以上グッチ(グッチ ジャパン)
齊藤工:オールイン
ワン/カズキナガヤマ/スタジオ ファブワーク

●問い合わせ先:
カズキナガヤマ/スタジオ ファブワーク Tel. 03-6438-9575
グッチ ジャパン クライアントサービス(グッチ) 0120-99-2177 (フリーダイヤル)

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photos : TATSUROW OHARA, stylisme : TSUYOSHI NAKAMURA (HARETERU/KAZUKI KITAMURA), RIKIYA KAWADA (TAKUMI SAITOH), interview et texte : YUKA KIMBARA

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