attitude クリエイターの言葉
『TENET テネット』主演の彼がいま思うこと。
インタビュー
高潔な心を持った男は、アスリート精神を携えて映画界へ。
ジョン・デヴィッド・ワシントン|俳優
今年36歳を迎えたジョン・デヴィッド・ワシントンが、「デンゼル・ワシントンの息子」から、いま注目すべき実力派俳優として認知されたのは、一昨年カンヌ映画祭で披露されたスパイク・リーの『ブラック・クランズマン』だった。8歳の時に父親が主演する『マルコムX』(1992年)に出演した彼が、なぜこれほど遅咲きだったのかといえば、一時プロのアメフト選手として活躍していたため。その後、映画界に返り咲いた彼を「最高に肝の据わった奴が必要だった」というリーが、抜擢したのである。
そんな彼の新作は、クリストファー・ノーランのSF大作『TENET テネット』だ。彼自身、この大役に選ばれたことに驚きを隠さない。
突然、国家を揺るがす巨大な任務に巻き込まれた名もなき男とその相棒。課せられたミッションは、現在から未来に進む時間のルールから脱出すること。第三次世界大戦と人類の滅亡を止めるため、時間に隠された秘密を解き明かしていく。『TENET テネット』クリストファー・ノーラン監督によるオリジナル脚本のアクションサスペンス。
「ノーラン監督が僕に会いたがっていると聞いて、最初は『冗談だろ?』と思ったよ(笑)。それで初デートのようにうきうきしながら会ったところ、話したのは新作についてではなくお互いのことだった。いま関心があること、家族のこと、好きな映画について。小さい頃からいろいろなタイプの映画を観て育ったから、意気投合して、彼にとても親しみを感じたよ。それからしばらくして、役に決まったと言われたんだ」
作品の規模を考えれば信じがたいシンプルさだが、ジョン・デヴィッドにはどこか、この人に賭けたいと思わせる誠実さ、熱意、純粋さが備わっている。本作で共演したロバート・パティンソンも「常に全力投球で、アスリート精神に貫かれた人間」と称賛するほどだ。
「アメフトの選手としての経験がこの仕事にも役立っていると思う。肉体的なチャレンジという以上に、状況にどう適応するか、仲間のために何ができるか、いかに困難をくぐり抜けるかという点でね。映画だってチームワークの賜物だ」
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不確かな世の中だから、正しいと思うことを選ぶ。
今作で彼が演じる主人公は、「僕らはみんなトワイライトワールド(不可思議な世界)に住んでいる」と語る。撮影はコロナウイルスのパンデミックやブラック・ライヴズ・マターの起こる前だったが、この意味深長な台詞についていま何を思うかと尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「実際、僕らは予想もしないことが起こる不確かな世の中に生きていて、残念ながらこれは寓話と片付けられない。まさにトワイライトワールドだ。でもそんな状況のなかで正しいと思えることを選び、学べることを学んで、進歩していくべきだと思う」
“最高に肝の据わった奴”は、高潔な心を持ったヒーローにふさわしい。
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1984年、アメリカ生まれ。6年間プロのアメフト選手として活躍した後、俳優に転身。TVシリーズ「ballers ボウラーズ」で注目を集め、『ブラック・クランズマン』(18年)ではゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされた。
*「フィガロジャポン」2020年10月号より抜粋
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interview et texte : KURIKO SATO