明日海りおが語る『ムーラン』と、表現者としての未来。

インタビュー

9月4日からディズニープラス(Disney+)での配信が開始された実写映画『ムーラン』。愛する家族を守るため、男性と偽って戦う少女ムーランの声を担当したのは、元・宝塚歌劇団花組トップスターの明日海りお。昨年11月に宝塚歌劇団(以下、タカラヅカ)を卒業して以来、ファンも心待ちにしていた再始動となる。

インタビューは映画公開記念イベント終了後に実施され、明日海はムーランを思わせる情熱的な赤のワンピースで登場。ディズニー作品が大好きだという明日海にとっての『ムーラン』の見どころ、そしてコロナ禍により予想外の日々が続く中での愛するタカラヅカへの思い、演じる者としての展望なども語ってもらった。

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最近は赤い衣装を纏うことが多いと語る明日海りお。赤は、明日海がトップスターを務めたタカラヅカの花組を象徴する色でもある。

次の一歩を踏み出すタイミングで、この作品に出合えた縁を感じて。

――いよいよ映画『ムーラン』が配信スタートしました。映画の中で自分の声を聞いてみていかがでしたか。

すごく特別な体験でした。ムーランが走っている時や振り返った時などのちょっとした呼吸音もすべて芝居に当てたので、それを聞いているとまるで自分がそこに生きているような、本当に不思議な感じがしました。

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ムーラン役を演じたのはリウ・イーフェイ。中国出身で現在はアメリカを拠点に女優・歌手として活躍。

――ぜひ注目してほしい見どころは?

私がとても好きだったのは、家族に黙って家を出て、何日も何日も歩き続けてくたくたになったムーランの前に突然、不死鳥が現れるシーンです。映像も開放感があって曲も美しく、「不死鳥だ……」というムーランのひと言も、心の底から湧き出たセリフだなと感じます。

――ムーランが男性のふりをする場面はタカラヅカ時代の明日海さんを思い起こさせて、とてもカッコよかったです。

ムーランは初めて男性のふりをするので、自分としては男役の時よりはだいぶ軽めに声を作ったつもりでしたが、タカラヅカ時代の後輩からは「さゆみさん(明日海の愛称)の声、すごく懐かしかったです!」と言われて、ああ、やっぱりそうなんだと(笑)

――普通の女の子としての場面との切り替えで苦労したことはありますか?

最初は、うまくできることを期待されているだろうという気負いがあったせいか(笑)、突然太い声が出てしまったり、変に可愛らしくなりすぎてしまったり、不自然になってしまったんです。だから収録の時は、そういう思いをいったん捨て去って、台本や映像から感じるものに忠実に、もっとまっさらな気持ちで声を当てなきゃ、と心がけました。

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柔らかな笑顔でカメラの前に立つ明日海。

――明日海さんはずっと男役を務めてきたタカラヅカからの卒業という、いわばムーランと逆の道を歩んでいますが、そんな自身をムーランに重ねて何か思うことはありますか。

私自身が次の一歩をどう踏み出そうかと考える時期に、この作品に出合えたことはすごい縁だなと思います。ムーランがあんなに若いのに(笑)、ちゃんとひとつ芯を持って家族や仲間のために生きている姿には勇気づけられますし、男性に混じって頑張ってきたのに、最後の最後に追放されて涙をこぼす姿には、胸がキュンとしてしまいます。

――ムーランの気持ちにいちばん寄り添えたシーンや、好きな台詞は?

ムーランが鎧を脱いでいくところです。魔女シェンニャンと対峙して「忠義、勇気、真実」のうち、いま向き合わなければいけないのは「真実」だと気付いたムーランが、「真実……」という言葉を発した時、遠いところからかすかにピアノの温かい音色が、ジャーン……と聞こえてくる。それが泣けるんです。

台詞としては「軽いものが重いものを弾き飛ばすこともできる」でしょうか。もともとは司令官の言葉ですが、誰でもやりようによっては軍を指揮することだってできるといった意味で、やはりムーランだからこそ言える言葉だと思います。

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魔女シェンニャンを演じたのは中国出身の大女優コン・リー。日本版では小池栄子が声を担当。

――ディズニー作品がお好きだそうですが、特にお気に入りの作品やキャラクターは?

『アラジン』や『リトル・マーメイド』は本当に何度も観ましたし、『塔の上のラプンツェル』も好きです。あとは『眠りの森の美女』や『美女と野獣』。舞台もアニメも好きです。

ディズニー作品では村の朝の風景などがよく描かれますが、それがすごく好きですね。『ムーラン』でも、草原から集落に入って行く時のオレンジ系の色彩や、聞こえてくる村人たちの声から人が生きている気配を感じた時、「ああ、ディズニーだ!」と思うんです。ちょっと見方がマニアックかもしれないですけど(笑)

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ムーランのように仲間たちと切磋琢磨した、タカラヅカのこと。

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5年半にわたりタカラヅカのトップスターを務め、19年11月に退団した明日海。男役ならではの凛々しさと、女性的な優しい雰囲気が同居する。

――宝塚歌劇団もまた、ムーランたちのように全国から集まった仲間たちとともに厳しい訓練を重ね、強い絆と信頼関係を築いていく組織です。新型コロナウイルスの感染防止のための休演期間を経て公演が再開し、最近はライブ配信なども行われていますが、ご覧になりますか?

CS放送の花組『はいからさんが通る』初日の特別番組は録画して観ました。また、私の同期の望海風斗(のぞみふうと)が主演する雪組『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』の東京公演千秋楽のライブ配信はオンタイムで観ることができました。

――『はいからさんが通る』は、フィガロジャポン本誌のジョゼフのファッションページにも登場した柚香光(ゆずかれい)さんの、花組トップスターお披露目公演でした。明日海さんの後を引き継いでトップスターとなった柚香さんの姿を見て、やはり感激もひとしおでしたか?

泣きました……。ひとりひとりが変わらず生き生きしていて、それでも「あの子のお化粧はもうちょっとこういうふうにしたほうがいいな。言ってあげなきゃ」などと思ってしまう癖も全然抜けていなくて(笑)。柚香がトップとして挨拶をしている姿にも感動しました。本当に家族のような仲間だったので、離れたところからでも観られてよかったです。

――同期の望海風斗さんが主演した『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』はいかがでしたか。

さすがだなと思いました。東京公演の千秋楽はコロナ禍の影響でその前に休演が続いていたので、望海が本当に絶好調! 疲労も回復していて喉の調子もよさそうで、久しぶりに歌えたという喜びにあふれていましたね。生き生きと舞台に立っている姿を見られてすごくうれしかったですし、羨ましくもありました。

――タカラヅカにおける同期の存在は特別だと聞きますが、コロナ禍のいま、同期の絆を感じられるエピソードはありますか?

みんなの誕生日を誰かしら必ず覚えていて「おめでとう」を言い合ったり、「こんなごはん作ったよ」とか「一緒に仕事したよ」と写真を送り合ったり、近況報告を欠かさずしています。

――明日海さんの同期は、七海ひろきさんや美弥るりかさんなど、タカラヅカ卒業後も個性的な活躍をしていますよね。やはり刺激になりますか?

七海は在団中と変わらずカッコいい路線に磨きをかけているし、美弥るりかちゃんのファッションセンスのよさは昔から光っていたし、みんなそれぞれやりたいことを形にしていって、それが話題になるのはうれしいし、私も後に続いて自分なりに落ち着く表現方法を見つけていきたい。私の場合はどうなっていくか、楽しみです。

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「本当の自分」と「偽りの自分」の間で葛藤するムーランが、最後に下す決断とは。

――『ムーラン』でも「本当の自分のあり方」が大きなテーマになっていますが、明日海さん自身が大事にしている「本当の自分」とはどういうものでしょう?

「本当の自分」というのが何度考えてもよくわからなくて……。私はその時々の舞台の役に左右されるタイプで、悲劇だったりコメディだったり、愛嬌のある役、思いつめた役など、そういうものにすごく影響を受けながら過ごしてきたので、いざそれがなくなった時の自分がわからないんです。

――でも明日海さんの周りにはいつも、ふわっとした空気が流れているように感じます。それは“本当の明日海さん”から発せられるものでは?

それもわからないです。もしかすると、ふわっとした空気を演出しているのかもしれない(笑)。タカラヅカのトップでいた時は、舞台のことになるとどうしても真剣になってしまって、きつい言い方になることもあったので、そのぶん普段はリラックスして、まわりの人が接しやすいようにはしていました。

「本当の自分は?」と考えた時、私は人に気を使いすぎるところもあるし、逆に「自分は絶対こうしたい」という頑固なところもあるし、人と比べてどうなのか、自分ではよくわからないです。でも本当はこれからも「自分がよくわからない」なんて悩む暇もないぐらい、演じる役に振り回される人生を歩めたらなと思います。

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女優としての明日海りおが今後どのような表情を見せてくれるのか、期待したい。

明日海りお Rio Asumi
2003年、宝塚歌劇団に入団。14年に花組トップスターに就任。『ベルサイユのばら』『エリザベート』などタカラヅカを代表する演目をはじめ、数々の作品で主演を務める。19年、同劇団としては初となる横浜アリーナでのコンサートを行い、同年11月に退団。20年、『ムーラン』の声優で女優としての活動をスタート。21年1月、タカラヅカ時代に主演した『ポーの一族』にて、再び主人公エドガー役に挑む。
『ムーラン』
●監督/ニキ・カーロ
●出演/リウ・イーフェイ、ドニー・イェン、コン・リー、ジェット・リーほか
●2020年、アメリカ映画
●115分
●ディズニープラス会員、プレミアアクセスで公開中
https://disneyplus.disney.co.jp
© 2020 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

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photos : AYA KAWACHI, interview et texte : CHIAKI NAKAMOTO

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