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『マーティン・エデン』主演、ルカ・マリネッリに注目。
インタビュー
涙もろいイタリア人俳優が、いま世界から注目される理由。
ルカ・マリネッリ|俳優
「この映画との出合いは、ひとりの人間としても俳優としても、素晴らしい冒険となった。間違いなく、人生において重要な一歩だと思う」
イタリア映画『マーティン・エデン』に主演したルカ・マリネッリは、昨年の第76回ヴェネチア国際映画祭で『ジョーカー』(2019年)のホアキン・フェニックスなど錚々たる俳優が顔を揃える中、最優秀男優賞を受賞して国際的な注目を浴びた。
ナポリの労働者地区で育ったマーティン・エデンは、船乗りなどで食い扶持を稼いでいるが、裕福な家の娘エレナと恋に落ちる。ブルジョアの文化的な世界に憧れた彼は、仕事を辞めて作家を目指すようになるが、なかなか芽が出ず生活は困窮を極める。彼の夢を理解できないエレナとの溝も深まっていく。
『マーティン・エデン』はシネスイッチ銀座ほか全国にて公開中。
「5年前にピエトロ・マルチェッロの『失われた美』を観たんだ。本当に感動的で観終わった後、涙が止まらなかった。それから2年後にピエトロから電話があって、この脚本が送られてきた。300ページもある分厚いものだったけど、マーティンの壮大な冒険に圧倒されて泣いたよ。なんだか僕は泣いてばかりいるみたいだけどね(笑)。すぐに、出るよ!って返事したんだ」
『マーティン・エデン』は、労働者階級出身の男が努力の果てに作家として成功したものの、そこに求めていた理想はなく苦悩するさまを描いた人間ドラマ。20世紀の文豪ジャック・ロンドンの自伝的小説が原作だが、舞台は米国からイタリアに移された。記録映像を挿入するなど、ドキュメンタリー出身のマルチェッロ監督の気骨がうかがえる実験的な社会派映画としても見ごたえがある。
「マーティンは自分で学び、人生のさまざまなものを発見し、手に入れた。経験によって人生の深みを探求していくという生き方に惹かれた。自分の感情や信念に従い、リスクをとって生きる。これこそ大事なことだ。この物語が現代の人々にも響くのは、マーティン的な要素が誰にでもあるからじゃないかな」
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Netflix映画でも、人気が急上昇中。
ブルジョア社会にはなじめず、声を上げる姿勢にも共感するという。
「私見だけど、ジャック・ロンドンは20世紀の資本主義への批判も込めていたと思う。それは今日にも通用するし、声を上げるのはいつだって若者だ。グレタ・トゥーンベリはたった17歳だけど、世の中をよくしようと闘っている。行動を起こすことが大事なんだ」
声優・俳優の父の影響で、子どもの頃から俳優に憧れてローマで育ったルカ。ドイツ人女優との結婚をきっかけに現在はベルリン在住だが、7月に配信開始されたシャーリーズ・セロン主演のNetflix映画『オールド・ガード』でも主要キャラクターを演じるなど、ハリウッドからも声がかかっている。久々にイタリアから、大型スターが登場しそうだ。
1984年、ローマ生まれ。シルヴィオ・ダミーコ国立演劇芸術アカデミーを卒業、映画『素数たちの孤独』(2010年)で主役に抜擢される。『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』(15年)でダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞助演男優賞を受賞。
*「フィガロジャポン」2020年11月号より抜粋
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interview et texte : ATSUKO TATSUTA