村上虹郎と担当編集による、書籍『虹の刻』オフトーク。

インタビュー

2020年12月末、フィガロ本誌とオンラインで1年半走り続けた連載「虹の刻」が書籍化し発売となった。今回は、これまで公にされていなかった企画立ち上げのきっかけから撮影時の裏話まで、村上虹郎と担当編集による赤裸々なオフトークをご紹介。

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『虹の刻』村上虹郎、山田智和著(CCCメディアハウス刊)¥3,080

――もうすぐ書籍発売ということで。楽しみですね! 原点に立ち戻りますが、そもそも何がきっかけで今回のカメラマン、山田智和さんと知り合いましたか?
CM撮影のオーディションです。それまで会ったことはなかったけど、会う前からヤマトモ(=山田智和)の中では「虹郎くんでいきたい」と、ありがたいことに決まっていたらしくて。当時、ヤマトモの存在はなんとなく知っていたけれど、CMの現場は大人数なのでどの人かわからなくて。でも、オーディションの時に、とにかくすごく目をキラキラさせて演出してくる人がいるなっていう記憶はあって。特に僕を見る目がキラッキラしてました(笑)。現場で”笑う”とか”泣く”とか、”喜ぶ”とかの喜怒哀楽の表現を瞬発的にしてほしいっていう企画で。いま思うと、「虹の刻」に近しいところがあったかもしれないです。僕が18、19歳の時。

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シャツ¥169,400円、パンツ¥50,600円/ヨウジ ヤマモト(ヨウジヤマモト プレスルーム tel:03-5463-1500

――その時に仲良くなった?

かっちりした現場だったので、そこまで話す機会もなくて連絡先も交換してなくて。その後に雑誌「EYESCREAM」でヤマトモがやっている連載「TOKYO-GA」の撮影があって、この時点ではすでに仲が良かったから、いつ仲良くなったかは覚えてないかも。

――夏だったかな。村上さんが私に今回の企画のもととなる企画書を送ってくれてチームが動き始めたよね。「言葉にならなかった感情を表現したい」という言葉が書かれていたのがすごく印象的だったけど、このコンセプトはどう決まっていったのですか?

赤裸々にいうと、僕がヤマトモに写真を撮ってほしいって言ったのがきっかけだったかな。基本的にヤマトモは作家なので、常に表現したいことにあふれていて。その素材として僕を見てて、村上虹郎というものを使って、何か表現する方法がないかということを常に考えている感じがありました。だから、企画書に入れていたポートレート(=第零章)は、連載をするために撮った写真ではなくて。撮り終わって上がりを見て、これやっぱり連載にしたいねと言い出したのはヤマトモで、僕もいいねって、流れに身を任せました。

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――ポートレートを撮るにしては、大掛かりなロケだったようで。熱量がすごい。

そうなんです。撮影の時に驚いたのが、美術部とかアシスタント、スタイリストとヘアメイクを含めて7、8人も集まった。千葉の海に、ただ僕の写真を撮るためだけに。ヤマトモが組めるチーム力ですよね。

――その上がりを見て、連載に向けて動き始めたと。企画書に落とし込んだのは智和さん?

そうです。「言葉にならなかった感情」っていうコンセプトを言い出したのはヤマトモですね。僕は何をするかっていうと、寒いところに行って薄着で写ればいいっていう(笑)。僕はパフォーマーとしてそこにいるだけであって、彼の掌の上で踊っているというか。
あと、連載をするにあたってこだわったのは、「コンビニに置いてある雑誌」ということ。それでひとり知り合いいる、ってなってサカイ(編集)に連絡したんだよね。

――「コンビニに置いてある」という視点が面白いですよね。自分たちの見え方を客観的に捉えたうえで、ちゃんとマスに向けたものを作りたいっていう。それは今回の連載の詳細を詰めていくなかでも、常にその視点がブレなかった。

そこにこだわった理由のひとつは、ニッチではないものをやってみたいという思い。もうひとつは、親が理由です。両親ともに、ある一時期はマスのど真ん中でやっていた人たち。でもいま、ふたりはもっとニッチな方というか、ドメスティックな純度を追い求めたものに向かっていて。
僕は、親がニッチな方を10年以上続けているのをずっと見てるから、その素晴らしさを知っている。だからこそ、逆をやってみたかった。マスに向けたエンタメは、自分が見てこなかった領域でもあるから。あとは、自分たちが作り上げたものを世に出した時に、自分たちのコントロール下に置けるものではなくなるおもしろさがある。たとえこちらの意図とは違ったとしても、そのもの自体は生きているから、勝手に動き出してしまうというか。受け手がそれを動かしてしまうし、変えてしまったりもするから、その様を見てみたいっていうのもありました。

――そういう意味では、この企画はドメスティックなチームだったけど、結果としてマスな広がりのあるものに仕上がったと思います。読者によってさまざまな受け取り方ができるものになった。

本当にそうで。そもそもこの企画、きっとみんな全然理解してないと思うし、俺もわかってない(笑)。けど、それがおもしろい。いつの間にかこれだけの人たちが集まった。初回はスタイリストもヘアメイクも自分の知ってる人を呼んで土台を作り上げたけど、途中からはなるべく自分が会ったことのない方とか、仕事したことのない方を選ぶようにしていました。なるべく自分と遠いものにした方が、スケールが大きくなるから。
正直、みなさんに書いていただいた文章を読んで、理解したかといえばしていない。でも、それがいいというか。これからどんどんわかっていきたいです。これは映画も音楽も同じことが言えるけど、年を重ねるにつれて感じ方が変わっていくのがすごくいいから。

――そういう楽しみ方ができる本になったよね。

そうですね。この作品を、こういうふうに見てくださいっていうのは言いようがないというか。たとえば映画が公開される時、根底に監督と脚本家の伝えたいことがあって、描きたいことがあって、それを観客の解釈に委ねますっていうことはありますよね。でも、逆に明確なメッセージがないなかで委ねますって言ったら、それはすごく身勝手なことで、芸術でもなんでもないっていう批判を見たことがあって。
それはごもっともだと思うし、この連載もそういうふうに言われかねないなと思う。だって大元のコンセプトが、結構曖昧で難しくて、でも確実に想いとしてはあるっていう。そんななかで、全17章みなさんが隣に並んでくれて、そして書籍化というゴールを迎えたことによって、やっと楽しみ方が見えたのはあるかな。

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――1年半駆け抜けてみて、ひと言で表すならどんな1年半でした?

旅ですね、ほとんど。旅をしていた。実際に遠出もしたし。

――その旅の中でも、村上さんが“パフォーマー”として動く時間としては1日で終わったりしていたよね。そう思うと、裏方の時間の方が多かったなと思っていて。一緒に作家さんを探したり、写真や服をセレクトしたり、レイアウトを考えたり。裏方をやってみて、向いてるなとかおもしろいなとかはありましたか?

めちゃくちゃ思いましたね。向いてるかどうかはわからないけど。
最初の企画立ち上げに関してはヤマトモのやりたいことに乗っかっていたけれど、連載になってからはチームというか一緒に作る側に立っていたから、0から1をクリエイトする側にいる面白さはあった。役者は基本的に1を100にする仕事だから、0を1にするのはシンプルに楽しかったです。

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――いちばん印象に残っているロケ地はありますか? なぜか村上さんにゆかりのある場所が多かったよね。

奄美、大島、東京、京都、長野、川越、北海道か……。
奄美は、僕にとってのゆかりの地。「情熱大陸」の撮影チームと一緒でしたね(笑)。デビュー作『2つ目の窓』でお世話になった方々にも会って、最終日はみんなでサーフィンして。初回は原点回帰でした。
あと、エリイさんが書いてくれた回のボーリング場は、行って気がついたんだけど僕が初めてボーリングをしたところだった。まさかの廃墟になってたっていう(笑)。その後に行った長野の御射鹿池も、母親とたまたま行ったことがあったりして。
でもやっぱり、町田康さんの回の海は印象的でした。いつも、基本的にはヤマトモとサカイでロケ地を決めて行っていたけど、あれは想定してない場所で撮ったもんね。結構ラッキーパンチだった。

――スタイリストの髙田さんが、衣装をたまたま余分に一着持ってきてくださってて、たまたまもうちょっと奥行ってみようってなって。

うん、あれは完全に旅だったね。

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――突然大雨になったり、過酷だったね(笑)。そんな過酷な撮影も経て、相当な時間と熱量をかけてきた1年半。やり遂げることができた理由は何だと思いますか?

未知に対してとか、大きいものに対してとかへの興味。誰がどう見ても贅沢な連載ですね。少なくとも、僕にとってはこれまで見たことがないことが目の前で起きてた。ここまで豪華な方たちが、逆になぜこの企画に寄稿してくれるんだろうってずっと思ってた(笑)。もちろん、前半にすごい方々が協力してくださったっていうのもあるかもしれないけど、それだけでやってくれるのかなっていう。そればかりはわからないけど(笑)。

――本当にそうそうたる方々に協力していただいて。

すごく生意気だけど、こちらの想いとしては、僕ら若輩者がちょっといままでにないフォーマットを作ってみましたと。そこに出てくださる大巨匠の先輩方が、この若輩者の作ったフォーマットでどうなるかっていう化学反応を、僕らも見てみたいですっていう。こういうコラボレーションだと、普通は対談とかインタビューが多いと思うけど、その化学反応に興味を持ってくれたのかもしれないです。

――表現で会話する、というか。

そう。たとえば芝居の現場で会う人で、多分お互いのこと好きなんだけど連絡先も交換しないし、ご飯も行かないしっていう人と、すぐに仲良くなってそのままご飯食べに行って、よく遊ぶ仲になる人といるけど、それで言うと今回はほとんど前者で。知ってても交流はなかったから、それがおもしろかったですね。

――なんだろう、全然繋がりがないのに謎のチーム感を感じてしまう(笑)。

勝手にだけど(笑)。俺らが勝手にそう思ってるんだよね、みなさんはもう忘れてるかもしれない(笑)。でもそれはそれで全然よくて、それくらいの距離感の方がスケール感が出てる気もします。

――では、最後に。次に挑戦してみたいことはありますか?

やっぱり常に自分の中の未知の領域にいきたいし、いままでにあるフォーマットは嫌で。今回の企画は、並んでいる方々はもちろん著名なんだけど、僕らの視点でお誘いした方々という意味では新しい組み合わせでした。
次何かをやるとしたら、ニッチへいくことはなさそうかな。まだまだ大きいところでやることに興味があります。それに、今回の企画は形を形づけないというか、定型化されていないものだから、もしかしたらもっと形あるものにする可能性もある。それは自分でもわからないけど。ヤマトモが「次何やる?」ってずっと言っているので、また何か次があるかもしれないし、ないかもしれない、ということで(笑)。

『虹の刻』
村上虹郎・山田智和
CCCメディアハウス刊 ¥3,080(12/24発売)

 

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応募方法
STEP1: フィガロジャポン公式TwitterかInstagramアカウント(@madameFIGARO_jp / @madamefigarojapon)をフォローしてください。

 

STEP2: 書籍『虹の刻』の好きなページの写真をハッシュタグ「#虹の刻」 をつけてツイートしてください。

 

応募締切
2021年1月31日(日) 23:59

詳細はこちらから↓
http://books.cccmh.co.jp/news/2020/11/post-86.php

 

村上虹郎
1997年生まれ、東京都出身。2014年、カンヌ国際映画祭出品作『2つ目の窓』で主演を務め、俳優デビュー。この作品で第29回高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞。17年公開、映画『武曲 MUKOKU』にて第41回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。作品の持つ時代性や自身の内的な記憶と真摯に向き合い、繊細な感情を映し出す演技派。主演映画に18年『銃』、20年『ソワレ』などがある。ドラマでは20年にNetflixオリジナルシリーズ「今際の国のアリス」に出演。
Instagram:@rainbowsan

山田智和
クリエイティヴチーム「Tokyo Film」主宰。1987 年生まれ。日本大学芸術学部映画学科映像コース卒業。2015 年よりCAVIARに参加。シネマティックな演出と現代都市論をモチーフとした映像表現が特色。2013 年、映像作品「47seconds」が WIRED 主催 WIRED CREATIVE HACK AWARD 2013 グランプリ受賞。その後、水曜日のカンパネラやサカナクションのミュージックビデオを手がけ、徐々に頭角を現していく。2018 年にはヒップホップシーンのみならず幅広い世代に衝撃を与えた KID FRESINO の「Coincidence」や、YouTube 再生回数が6億回以上を記録した米津玄師の「Lemon」、あいみょんの「マリーゴールド」、星野源「Same Thing (feat. Superorganism)」など、数々の話題となったミュージックビデオを演出する。また、NIKE、SUNTORY、GMO クリック証券、TOD'S、PRADA、GIVENCHY、Valentino × undercover 等の広告映像や、ファッション誌のビジュアル撮影も行うなど、その活動は多岐にわたる。渋谷駅で行われたエキシビション「SHIBUYA / 森山大道 / NEXT GEN」にて” Beyond The City” を発表。伊勢丹にて初の写真展「都市の記憶」開催。
https://tomokazuyamada.com

連載「虹の刻」はこちら ▶

 

photography : MICHI NAKANO, coiffure et maquillage : TAKAI, text : REI SAKAI

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