自分らしい生き方のヒントは、思いがけない出会いの中にある。

インタビュー

東京は、自分らしい生き方を探して、試行錯誤を繰り返す女性たちのカタログみたいな街だ。境遇も生き方も違うふたりの女性の束の間の出会いを描いた映画『あのこは貴族』を監督した岨手監督が語るのは「こうじゃなかったはずの自分」との向き合い方。傷ついた時こそ、自分の殻を破るチャンスかもしれない。

押し付けられた役割や敷かれたレールからはみだすことになっても、自分らしい生き方を探す人たちを描いた群像劇だと思っています

――まずは、この作品の重要なファクターである「東京」について、監督はどう感じてきたかをお聞かせください。

私は長野県出身で、大学で東京に出てきたんですけど、上京した当初は長野のルールとはえらい違うなみたいなことは結構感じていました。大学には内部進学生がいて、彼らしかつるまないコミュニティがあることや東京はエリアによって住み分けがされていること、自分ではなかなか言語化できなかった東京の構造が、原作を読んで「なるほど。そういうことだったのか」と合点がいった感じがありましたね。

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――原作者の山内マリコさんのサイン会に並んで映画化を直訴されたそうですね。山内さんもその場で快諾されたとか。

山内さんには、私の前作『グッド・ストライプス』についてのエッセイを寄稿していただいて面識はあったので、思い切ってそういうお話をさせてもらいました。そのエッセイがまた本当にうなずくところしかなくて、山内さんは富山出身ですけど、同世代であり、東京の人でもない、かといって、もはや地元の人でもない、どこにいても自分の居場所というものがないから自分で作るしかないみたいな立場の女性であるという同じ像を共有できている感覚がありました。その時に書いて下さったのは、地方にいた頃は夢と希望を持った特別なギフトを持った女の子のはずだったのに、東京という才能や美貌に恵まれた人がいるところに行って、その魔法が解けてしまった女性が行きつく先は、いわゆる普通の女になるしかない。でもそれはそれで素晴らしいことじゃないかと……そういう内容で。多くの女性の「こうじゃなかったはずの自分」というのを山内さんは肯定的に描かれる。大人の視点をお持ちの作家さんで、そこの部分で私もすごく共感できるんですよ。『あのこは貴族』は、山内さんがこれまで描いてこられた地方出身の美紀の世界と、取材しないと知りえないような、劇中でいうところの東京の貴族階級である華子の世界、その両面を撮れるところに惹かれました。

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――門脇さんも水原さんもこれまでにない役なのに、ハマり役でした。キャスティングはどうやって決められたのでしょう。

華子のキャラクターは、世間知らずなんだけどバカなわけではない。本当に難しいバランスの役で一歩間違えると観客が感情移入しにくいので、受けの芝居のうまい人がいいと考えた時に門脇麦さんしか考えられないなと。
これまで個性的な役をやってこられた方だけど、品を失わないバランス感覚がある。華子役も絶妙の可愛らしさで嫌みなくやってくれて、だんだん自我に目覚めていく段階も丁寧に演じてくださいました。いっぽうで、水原さんはセレブリティなイメージがあるけど、オピニオンリーダーでもあるし、サバイブしてる女性でもあり、設定年齢より若いけど、美紀にピッタリだなと。実際にお会いしてみるとオープンなようで単にあっけらかんとしてるわけじゃなくて、いろいろ経験したうえで人に心を開くのを怖がらない強さと繊細さを持ってる。それを深く消化しながら、美紀の役に投影してくれたので、原作よりもっとナイーヴに設定した美紀を体現してくれました。

――同じ男性(高良健吾演じる幸一郎)との接点がなかったら、出会わなかったかもしれないふたり。出会って、別れていく場面が、どちらもとても印象的です。

ふたりが再会するシーンは、映画ならではのオリジナルです。リアルに考えたら、生きるエリアがまったく違うふたりが出会ったら、これ以上関わらないと思うんですね。断絶は断絶のままだけど、自分の人生に関係ない人だから、どうでもいいのかって言ったら、そうじゃない。あのふたりは、今後一生会わなかったとしても忘れえぬ人だと思うんですよ、お互いに。シスターフッドでいうと、女性同士ってすぐいがみあう関係に差し向けられる世の中だけど、そうじゃない関係を、表現する側がひとつひとつ体現していくことで、もう少し生きやすい世の中になるんじゃないかって。

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――監督自身は、自分とは異なる他者との出会いについて、どう考えてきましたか。

やっぱり、自分の理解できないものに対して、ヘンに拒絶したりラベリングするのではなくて、まず声をかけるとか挨拶する。仲良くならなくてもいいから、その存在を認めることが大事だと思うんです。マウンティングがお互いの弱みを見つけて上に立とうとする行為だとしたら、みんな痛いところあるよ、みんな脛に傷くらいあるよって。落ち込んでいるようであれば、お茶でも出すとか、理解しようと努める。自分の人生に、関係ある・なしという損得じゃなくて、人って美しく生きることができるし、それこそが人生を豊かにするんじゃないかと思います。

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――美紀が幸一郎に別れを告げるシーンなど、原作にはないシーンが差し込まれたことで、それぞれの葛藤がよりセンシティブに伝わってきます。

華子が橋を渡るシーンや幸一郎と初めて夫婦らしい会話をするシーンも、撮影中に後から差し込んだシーンです。長年書いていた脚本を直すわけですから、わりと勇気が要ることで、でも撮影が始まって演じてもらう中で、想定していた脚本といい意味で少しずつズレていったんですね。原作が東京の構造論、文化論に注力しているところを、映画はよりエモーショナルに描くことに重点を置いています。自分の中では、台湾のエドワード・ヤン監督の『エドワード・ヤンの恋愛時代』をひとつの目標として掲げていて、お嬢様vs地方出身者の対立というよりは、親の世代vs現代の若者たち、親世代の価値観ではないところに踏み出す若者たちの群像劇かなと。押し付けられた役割や敷かれたレールからはみだすことになっても、彼らが自分のやり方で自分の生きる場所を探していく物語だと思っています。
誰かを否定する映画ではないので、悩んでいる方にこそ本当に観てほしい。登場人物たちよりもう少し年齢が上の方でも、自分がしてきた選択を肯定できる、自分を褒めてあげたくなる作品になっていると思うので、あらゆる年齢層の方に見ていただきたいです。

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岨手由貴子監督。1983 年生まれ、長野県出身。大学在学中、短編作品を撮り始め、2008 年、初の長編『マイム マイム』がぴあフィルムフェスティバル2008 でエンタテインメント賞受賞。 2009 年には文化庁委託事業の若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)に選出され、山中崇、綾野剛出演作『アンダーウェア・アフェア』の脚本・監督を務める。菊池亜希子・中島歩が主演の『グッド・ストライプス』(14年)で長編デビュー、新藤兼人賞金賞を受賞。本作が長編2作目。

『あのこは貴族』
東京生まれ、東京育ち、お金持ちの令嬢である華子(門脇麦)。富山生まれ、東京の名門大学に入学するも中退、東京で働き続ける美紀(水原希子)。幸一郎(高良健吾)を介してふたりは出会い、いままでとは違う人生に気付き始める……。
●監督・脚本/岨手由貴子 
●出演/門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ 
●原作/山内マリコ『あのこは貴族』(集英社文庫) 
●2020年、日本映画 
●124分 
●配給/東京テアトル、バンダイナムコアーツ 
●2/26(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか、全国にて公開 https://anokohakizoku-movie.com
©山内マリコ/集英社・『あのこは貴族』製作委員会

interview et texte : HARUMI TAKI

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