【憧れの家作り】新居を建てるなら心地いい設計を! パリの実例に学ぶ有機的インテリアのヒント。
Interiors 2026.03.31
家を買う、建てる、建て直す――家を形作ることは暮らし方そのものを考えること。間取りも内装も自由な一方、一筋縄ではいかないからこそ愛着も増すというもの。実際に家作りをした人を参考に、自分らしいマイホームを実現しよう。2026年の新しい生活、まず「家」から始めてみませんか。
憧れの家作り case 1
FRANCE ― PARIS
エマニュエル・シモン

Emmanuelle Simon
建築家、デザイナー
インテリアデザインとプロダクトデザインの両方が学べるパリのエコール・カモンドで、ジャン=マリー・マッソーやピエール・ヨヴァノヴィッチに師事。2017年に独立。23年にマドリードにも事務所を開設し、パリと行き来する生活。
https://emmanuellesimon.com/
ドアを開けた瞬間、心地よさが一気に押し寄せてくる。2017年に独立したインテリアデザイナー、エマニュエル・シモンは、感覚に訴えかける作品を得意としている。パリ20区にある120平方メートルの自宅アパルトマンも同様だ。まず目が行くのはモザイクの床。黄色い花と石で水切りした時の軌跡を思わせるモチーフがちりばめられている。次に視線はアーチ天井の廊下へ。廊下の先には温かな光がこぼれる。

左:デルフィーヌ・メスメールのモザイクタイルが敷かれた玄関には、自分でデザインしたランプ「コーン X」が。アーチの廊下がリビングの光へと導く。 右:玄関のモザイクタイルはカラーコンクリートに大理石を象嵌し、研磨したもの。デルフィーヌ・メスメールが制作。
「元は毛皮の工房でした。住居として使われたことは一度もなく、荒れ果てていたのです。でも素晴らしく魅力的でした。天井が非常に高いこと、通りや中庭に面した随所に窓があり、光がたっぷりと差し込むことです。それはまさに私が求めていたものでした。白紙の状態から開放的な応接スペースとプライベート空間のバランスを取りつつ、再構築していきました。アーチの通路はリビングへの動線。訪れた人に何かを発見するような感覚を引き起こします」
家の中心となる寛ぎの空間は、広々としたサロンとダイニング、キッチンの3つのスペースから構成。細部まで計算し尽くされている。
「明確にゾーンを分けました。私は家具も建築要素のひとつだと考えています。まず、ふたつの大きなソファをローテーブルの周囲にL字形に配置してサロン機能を集中させました。ソファの向かいにある楽焼と焦げた木で作られた本棚も、空間の境界線となっています。ダイニングテーブルは部屋の中央に配置しました。たくさんの人を招けるよう、またここで仕事もできるよう、できるだけ大きなテーブルが欲しいと思いました。テーブルは周囲の『ババチェア』同様、すべて丸いデザインです。丸さは快適さの代名詞。私にとって非常に重要な概念のひとつです。柔らかいものにも惹かれます。それはテキスタイルに表れています」
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素材と質感のミックスがインテリアコーディネートのポイント。

ソファやテーブル、椅子も自身でデザインした。壁面の装飾はロマン・ギヨンに依頼。オリヴィエ・プレモリのペンダントライトを吊るし、ラ・リューヌ・ギャラリーやパトリック・クリュリスのセラミック作品、トマ・グレブのアート作品などを飾り、花はオズ・ガーデンから。
キッチンスペースは装飾的な石のカウンターの後ろに隠れている。「大きな天板を支える2本の脚には手作業で刻んだ溝があり、日本的な趣を醸し出しています。職人の手仕事を感じる素材が好きです。木材を使用する場合は、大きなテーブルのようにノミで仕上げるか、木目を引き立たせるためにブラシ仕上げにします。質感にもとてもこだわっていて、このアパルトマンにはザラザラ、ツルツル、土っぽいなどさまざまな質感が混在します。たとえばキッチンの壁は、ロマン・ギヨンに石膏壁の製作を依頼しました。その下には楽焼のタイルが張られています。この素材は風景が刻み込まれているような印象があって、とても気に入っています」
キッチンの壁の大きなアーチは、まるで朝日が昇る時のようだ。
「地平線に開く窓のように、奥行き感をもたらしてくれます」
壮大な風景が思い浮かぶと同時に、細部にも目が行く。開閉がスムーズな戸棚がたくさん設けられ、たっぷり収納できる。ニッチにはボウルや花瓶などを飾った。

ダイニングの横にある壁面には、マリー=ノエル・レペンス、カミーユ・トレウ、マリー・ロートルーらの陶器が並ぶ。丸い椅子はエマニュエル自身の作品。
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家具に職人技を生かす。
サロンの傍らに、床から浮いているようなトーテムポール風のものが置いてある。

戸棚とブラケット灯、左の真鍮と楽焼のバーキャビネットはエマニュエルが制作。エルマンテールの絵画、025 マールテン・ストゥールの砂岩の彫刻、カンタン・マレの陶器などが飾られて。
「これはバーキャビネットです。17年の国際ビエンナーレ"レベラシオン(Révélations)"で展示しました。自分にとって初めての一般公開家具作品でした。職人技を生かす作品のコンテストに参加したのですが、幸運にも陶芸家や鉄工職人の協力を得られて、80枚の異なるタイルで構成されたこのキャビネットを開発することができました。扉を左右に大きく広げると、中は鏡のように輝くコニャック色の真鍮で、外観と内部のコントラストが印象的なんです。家具は私たちの行動や欲求に影響を与え、新たな習慣を生み出します」

寝室のヘッドボードとテーブルはエマニュエルが制作し、アカンティッシムで購入したグッツィーニのアンティークランプを置いた。ベッドカバーはアフリカのアンティーク。
エマニュエルは地元の優れた職人技を取り入れると同時に、アンティークも積極的に使う。寝室にあるデスクと椅子は、とあるギャラリーで一目惚れしたもの。豆をイメージしてデザインしたベッドサイドテーブル「アリー」や広い座面のローベンチ、波線の無垢材を布張りして温もり感を出したヘッドボードと見事に調和している。隣接するバスルームはトラバーチンを使った内装が息を呑むほど美しい。
「トラバーチンとは川底に堆積した岩石で、想像を超えた模様が生まれます。間違いなく、アートは自然の中にあります」
廊下に沿って、ゲスト用バスルームや大きなベンチが据えられた書斎兼ゲストルームなども並ぶ。

廊下には、エマニュエルのベンチ「ノマド」とブラケット灯「オヨ」、レオ・アンケの絵画『窓辺の女』が飾られている。
「ここではゆったり横になって読書を楽しんでもらいたいから、そのためのベンチです。落ち着いて自然と寛げる空間を作り出しています」
確かにここでは、誰もが心身ともにリラックスし、安心感を覚える。エマニュエルがパリ16区やイビサ、マヨルカで手がけている空間もどれほど居心地のよいことだろう。どの場所にもひとつの共通点がある。それは、今後思い出で満たされる場所となることを彼女と事務所のチームが想定していることだ。

書斎は、自身がデザインしたフロアランプとクッションに、イサム・ノグチのペンダントライトやエルマンテールの絵画を合わせた。
「ミッションが完了したそれぞれの場所は、暮らしの場として人々の記憶の一部となり、人々の感情で満たされていくのです」
これこそが理想的な住まいというものではないだろうか。
*「フィガロジャポン」2026年3月号より抜粋
photography: Sylvie Becquet(Madame Figaro) text: Vanessa Zocchetti(Madame Figaro) editing: Aurélie des Robert(Madame Figaro)






