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観る前に知っておきたい! 共同監督が語る『リメンバー・ミー』

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今年の第90回アカデミー賞の長編アニメーション賞と主題歌賞を受賞した『リメンバー・ミー(原題:COCO)』。ディズニー/ピクサーが手掛けた傑作で、第45回アニー賞では11部門受賞、第75回ゴールデングローブ賞ではアニメーション映画賞を受賞。内容は「愛する人たちとの絆」や「死」を扱ったものだが、メキシコの祝日“死者の日”からアイデアをもらったというこの映画は、決して辛く悲しい物語ではない。意外な展開も含め、心温まるストーリーには感涙してしまうし、どこか気持ちが軽くなる面もある魅力的な作品だ。 

2月21日に東京で行われた記者会見で、世界中で大ヒットしている要因について共同監督であるエイドリアン・モリーナは次のように話していた。「ピクサーのアーティストたちにもそれぞれ違うバックグラウンドがありますが、この映画が扱っている“自分の祖先と繋がること”や、“亡くなった人を忘れない”ということにみんなが共感しているのを見て手応えを感じたし、普遍的なテーマだと思いました。その反応が世界中で受け入れられたのかなと思います」。リー・アンクリッチ監督も、「まだ生まれていなくて地上に存在していない子どもたち、その家族の方々にも、何世代にわたって観てもらえるような作品になれば嬉しい」と挨拶していた。

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ミュージシャンを志す少年ミゲル(中央)が主人公。野良犬のダンテはショロ犬と呼ばれ、メキシコでは「犬を邪悪な魂から守り、亡くなった人をあの世に導く犬」とされるそう。

今回、原案に脚本、作詞なども手掛けた製作の中心人物エイドリアン・モリーナ共同監督にインタビューした。この映画ではメキシコ文化の中での「死」に対する考え方がとても重要なポイントとなっている。

■ メキシコの文化のカラフルで豊かな部分をアニメーションで

―原案、脚本、作詞、共同監督と、これだけ深く関わるようになったきっかけを教えてください。

私はこの作品にとても情熱を持っていました。最初は原案に関わっていて、でもこの映画では音楽が重要で、しかも家族がテーマということで、私の母がメキシコ人ということもあり個人的な思い入れが強くなっていったんです。そして進めていく中で問題が起きた時に、それが絵であれ、ストーリーであれ、歌詞であれ、“これを作ったのでよかったら使ってください、気に入らなかったら使わなくていいです”という方法で自分なりにベストなアイデアを出していきました。そうしたら皆がとても柔軟に対応してくれて進展し、今のような形になったんです。

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エイドリアン・モリーナ共同監督、32歳。左手に持つのがペピータをイメージしたぬいぐるみ。

―なぜ、メキシコを舞台にした作品になったのでしょう。

最初は祝日である“死者の日”というのが面白いな、というところから始まって。しかもメキシコでのお祭りであるということで、初期の段階から、この祝日があるメキシコを舞台にしようということになりました。メキシコを舞台にすることで生者の国や死者の国ということも探究でき、しかも今まであまり映画では見せられてこなかったエリアなので、メキシコの文化のカラフルで豊かな部分をアニメーションを使ってさらに探ってみようということなったわけです。

―私は南米の小説、特に怪奇小説といわれるものを読むことがありますが、クリーチャーであるぺピータに、その世界観に近いものを感じました。どういう発想から誕生したのですか?

メキシコのオアハカに取材旅行に行った時にアレブリヘ(オアハカ州サポテカ族の民芸品で、ひとつの木材から彫りだして独特の彩色を塗った動物彫刻)を見て、 “これをアニメーションにして動かしてみたい”とみんなで思ったんです。それでストーリーの中でこれを登場させる場面を作って、動かしてみたという。つまりアレブリヘがインスピレーションになっているわけです。

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フリーダ・カーロも登場する。

―死者の国では人気歌手デラクルスのパーティにフリーダ・カーロも登場しますね。パパイアを使ったパフォーマンスなども興味深かったです。

私たちは“アーティストは死んだ後も、まだ死後の世界でアーティスト活動をしている”と考えていたので、フリーダ・カーロも死後の世界でアーティスト活動をしているということでイメージも彼女の絵画から取っていきました。彼女の絵はとても空想的でシュールな感じがするけれど、内面の苦悩を表現しつつ、イメージとしてはとても力強いものがある。ステージのショウにはぴったりだなと思って、そこからインスピレーションを得ました。

≫ メキシコでの死の捉え方には、どこかユーモアがある。

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■ メキシコでは「3つの死」というものを、ユーモアを含めて捉えている

―お母様がメキシコ人であると話していましたが、あなた自身はオフレンダ(祭壇)に骸骨を飾る習慣をどのように捉えていますか? 骸骨を飾るのはどこかシュールな感じがします。

私はそれを見て育ったわけではないんですけど、メキシコ文化の中に骸骨を飾るのは良くあることなんです。特にオアハカとかミチワカン、グアナファトといった都市ではよく見られます。「死」というものは一般的には怖いものと思われているんですけど、メキシコ文化では何かユーモアがあるような捉え方をしている気がします。特に“死者の日”では、死んだ人と関わるということで、とても死に対してポジティブで楽天的な見方をしているんですね。なので、それを扱うことによって、我々もすごく軽快に死者というものを扱うことができて、そして“生きている時の人間関係というものが死後にも関わるほど大切なんだよ”ということを描けたと思います。

映画『リメンバー・ミー』日本版予告編

―日本にもご先祖さまが年に一度戻ってくるというお盆というものがあります。この映画では「“死者の日”に家族に会いに行くためには、生者の国に自分の写真が飾られていないと出国できない」、また、「生者たちの中から自分の記憶がなくなると魂も死んでしまう」といった、切なくて胸が締め付けられるような設定もあれば、新しく死について理解できる部分もありました。このような発想もメキシコ特有のものなのでしょうか。

お盆についても調べましたよ! メキシコの人々が“死者の日”で信じているのは、「誰か生きている人が積極的に覚えていないと、祖先の魂は再び生きているところへは訪問できない」ということ。必ずしもオフレンダに写真を飾らなくてもいいけど、誰かが故人をしっかり覚えているということが大切になってくるようです。最後の死というか、「忘れられると本当に死んでしまう」というのは、メキシコ取材に行った時の現地の人たちの言葉に基づいているのですが、どうやらメキシコでは「3つの死」があると考えられているようなんです。

―「3つの死」というと?

最初の死は心臓が止まった時、2回目の死は土地に葬られて見えなくなった時、3つ目が最終的な死で、忘れ去られた時。それが一番悲しいものですが、そういうディテールがあったので、私たちなりに死者の国を解釈して骸骨たちを作りました。骸骨の人たちは死者の国では傷つくことはない。ただ、忘れられてしまうというのが一番の苦しみになるという……。

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死者の国で、祭壇に飾ってあった写真のご先祖さまに遭遇したミゲル。

―骸骨を描くにあたって、怖くならないように気をつけた部分はありますか?

もちろん怖くならないようにしました。特に目を意識して感情表現を強調したり、誰かに似ているようにするためにアイブロウなどで飾ったり、唇がないから笑顔もデリケートに描いたり。本当の人間、本当のキャラクターとして共感しやすいように表情にはとても気をつけました。

■「リメンバー・ミー」は歌う人や場面によって全く意味の変わる歌

―モリーナさんは「リメンバー・ミー」以外の3曲を作詞していますよね。スペイン語と英語の混ざり加減が絶妙で、一緒に歌いたくなるような歌ばかりです。書きやすかったですか?

キャラクターがその曲を歌っている時、何故そこでその曲を選ぶのか、歌っている時にどんな心情でいるのか、ということを考えて書きました。例えばミゲルが最初に公衆の面前で歌う歌は、どういう感じなんだろう、と。“もうちょっとエネルギーが欲しいよね”ということでソンハローチョのスタイル(メキシコのベラクルス州南部を中心に演奏される伝統音楽)、あのデラクルスのスタイルでもあるんだけど、それで書こうと思い、しかも少し緊張もしているだろうからそれも反映させたいとか考えましたね。

Anthony Gonzalez, Gael García Bernal 「Un Poco Loco (From "Coco")」ミゲルが初めて大衆の前で歌う場面。

―「リメンバー・ミー」に限っては4パターン収録されています。この曲はかなり初期の段階で完成していて、歌う人によって聴く人によって捉え方が変わる歌、と、昨日の記者会見で話していました。

“死者の日”に伝わる考えや、亡くなった人と繋がり続け、覚えていることの大切さがこの歌のテーマです。この曲はクリステン・アンダーソン=ロペス&ロバート・ロペス夫妻(『アナと雪の女王』の「レット・イット・ゴー」を作曲)が書いたのですが、歌う人や聴き手がどのように受け取るかという、場面やアレンジによって全く意味が変わる歌という難しいチャレンジでした。とても美しい曲だし、何百回も聴いているけど、一番最初に感じた美しさをいまだに感じることができます。本当にこの曲ができた時は最高の気分でした。この曲が完成したことで、その後の作業がとても進めやすくなりました。

Miguel 「Remember Me (Dúo) (From "Coco"/Official Lyric Video) ft. Natalia Lafourcade」

―音楽でいえば、ここ最近ヒスパニック系の曲がアメリカのチャートから世界各国のチャートを非常に賑わせています。トランプ大統領がメキシコとの国境に壁を建設することを命令しましたが、そういった政治的な面と関係性があると思いますか?

今回、私にメキシコ系のバックグラウンドがあることで私にとって大切だったのは、メキシコの文化の美しさだったり、価値を置いているものだったり、自分たちの文化において誇りに思っていることを世界に示すいいチャンスだと思ったことなんです。それらは今まで映画で描かれていなかった部分でもあると思うんですね。なので、ヒスパニックというか、非常にポジティブなものを、そして我々が誇りに思っているものをこの映画で世界に示すのに良いタイミングになりました。そういう意味でも、ひとりでも多くの人に観てもらえることを願っています。

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ひいひいおばあちゃん(高祖母)のココも重要人物で、原題はこのCOCOから名前がついている。

『リメンバー・ミー』
●監督/リー・アンクリッチ
●共同監督/エイドリアン・モリーナ
●2017年、アメリカ映画 
●105分 
●配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン 
●2018年3月16日(金)公開
©2018 Disney/Pixar. All Rights Reserved. ©2018 Disney. All Rights Reserved.
http://www.disney.co.jp/movie/remember-me.html

*To Be Continued

 

関連記事:シシド・カフカが語る、『リメンバー・ミー』の音楽。

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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