Music Sketch

社会にも問いを立てた、WONKの最新作『EYES』

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先日公開したインタビュー記事に続き、こちらではさらにWONKの最新アルバム『EYES』について詳しく話を聞いていく。

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左から、荒田洸(Dr, Sound Prog)、長塚健斗(Vo)、江﨑文武(Piano, Key & Synth)、井上幹(Ba, Gt, Synth & SE)。服のスタイリングも自分たちによるもの。

■人の魅力って、いろいろな要素があってカラフルなはず

――このアルバムの歌詞は先に書き終えていたにもかかわらず、偶然にも新型コロナウイルスやアメリカで「Black Lives Matter」のデモが再燃するきっかけとなった事件とリンクする点がいくつか感じられます。歌詞について聞きたいのですが、「Filament」にある「glow black」の意味するところを教えてもらえますか?

長塚健斗:この歌詞に関してはあの出来事が起きるよりも前に書いたものなのですが、呼応するような内容になりましたね。「nobody can glow black in the heat」の部分は「黒い炎みたいに輝ける人なんていない」といった意味になります。「人の魅力って、ひとつではなく、いろいろな要素があってカラフルなはずだよ」ということを、ここではざっくりと言いたかった。「自らが持つ要素を魅力とするかどうかは自分次第だよ」と。

――なるほど。

長塚:それからもうひとつ、「Filament」の曲全体を通しても言えることですが、「自分自身の立場が誰かにとってのどこかになる必要は必ずしもない」ということも表現したかった。物事に対する情熱をはじめとした価値観は個人の心のあり方のひとつであって、それを表現したり、また呼応したりした時に、それ自体がまったくもって無価値だということは誰かが決めることではないとも思うんですよね。

――深いですね、励まされるというか、さらにこの歌詞が好きになります。次に、「Signal」での「The song about the beauty of love〜Unfinished dream」の部分は、どういったイメージからこの歌詞が出てきたのでしょう?

長塚:この曲は物語の主人公が、まだ見ぬ月の住人と交信するという内容です。実際に交信できているのかどうかはご想像にお任せしますが、望遠鏡を覗いた先に見えるのは月からのシグナルなんじゃないか、そしてそれは主人公本人に宛ててくれたものなんじゃないかという、夢に思い描いていた世界の存在への憧れやロマンを描いています。昔、天体望遠鏡を覗き込んで感じたあの高揚感を、何歳になっても感じられる人間でいたいという僕の個人的な想いも合わさったのかもしれませんね。

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――先ほど(前回のインタビュー記事)、リスナー側が想像を働かせる幅として、余白を持たせるという話が出ましたが、このアルバムの主人公が帰っていくことにした、そのきっかけを明確にしていないのも、その余白として?

井上幹:そうですね、答えを言うようなことはしない、という思いはあるし、「If」で主人公の心情面は語ってはいるんですけど、実際に設定で何が起きたかは歌詞上では明らかしていなくて、そのきっかけになりうることは人によって違うというか。映画だったらそれをバン!と提示してみんなで「そうだよね」ってなるのがいいのかもしれないですけど、「If」の主人公の心情については、「みんなの場合、それはどういう時ですか?」という感じでもあるかなとも思うんですよね。

――「If」こそ、先ほどの話にあった問いですよね。

江﨑文武:そうですね。

■子どもの頃に出合った音楽から影響を受けて

――歌のメロディはEP『Moon Dance』の時から長塚さんが作る部分が増えてきたそうですが、「Signal」もとてもよく声の甘さが生かされていると思いました。歌詞そのものにも説得力が出てきたというか。コーラスも全部担当していますか?

長塚:はい。自分でメロディを考えるっていいことですね。

――「Signal」のドラムもすごく好きで。WONKの底辺にある柔和さは荒田さんから出ているのかな、と思ったりしました。

荒田洸:どうなんですかね、井上のミックスの可能性もありますよ(笑)。

井上:確かにWONKでの荒田とソロでの荒田っていうのは僕らから見てもちょっと違うっていうところはあって。

――もちろん曲によっては全然違いますけど。柔和な部分は共通しているのかなぁと思ったんです。

井上:そうですね、それもあるし、わりとWONKのソフトネスは長塚が担っていると、僕は思っているけど。ただ、荒田の人柄的な部分が出ているというのは、すごくあると思う。

WONK「Signal」

 

――それは、子どもの頃に出合った音楽の影響もありますか?

荒田:音楽の音作りに関しては、まさに聴いてきた音楽かもしれないですね。いま思うと激しい系をまったく聴いていなかったので。音として優しいものが好みというのが自分の音作りにも生きているというのは、確かにあるのかもしれない。

――どのあたりを聴いていたのですか?

荒田:スティーヴ・ガッドが好き。あの人の音もロックをやろうが優しい音にしているのは、同じなのかもしれないですね。

江﨑:あまりドラミングに暴力感はないですよね。

――そうですよね。ドラムの音そのものが違う。

荒田:それは自分の特徴でもあると思うんですけど、僕個人的には勢喜遊(King Gnu)みたいなメチャうるさいみたいな演奏には憧れるんですけどね、ああいうのはできないから。

江﨑:荒田はローカン(低域)を機械的に増幅させてはいるけど、ソリッドな感じではないよね。勢喜遊は音が突き刺さるから。

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■それぞれの性格が出た曲作り

――「HEROISM」はベースに耳を持っていかれるし、「Fantasist」は鍵盤だけを追っていても楽しいし、どの曲のどの演奏も聴きごたえたっぷりなのですが、曲によって誰中心に好きなことをやっていい、といった決め事みたいなものはあったのですか?

江﨑:今回ベーシックなものをひとりが60%くらい作って、後はその人がそれぞれの指示を出すという作り方でやったものが多いですね。

――『Moon Dance』以降の新曲について、聞いてもいいですか?

長塚:性格めっちゃ出てますよ、曲にカラーがある(笑)。

江﨑:頭から言うと「EYES」はほぼ僕で、「Rollin’」は井上。

井上:「Filament」は荒田がもともと作っていた曲。「Signal」は江﨑。「Esc」も意外にも江﨑なんだよな。

――「Third Kind」は?

井上:荒田。「Depth of Blue」はわりと僕がまとめた。

――「If」は?

井上:「If」は僕。

長塚:あれはアレンジがやばかったよね。

――「If」が井上さんとなると、井上さんの性格が気になる。

長塚:猛獣がいますよ(笑)。

――となると、後半に上げていく曲位置の「HEROISM」「Fantasist」は?

井上:この辺は僕ですね。「Nothing」は江﨑。

――「In Your Own Way」は?

井上:僕です。

WONK『EYES』

■EL&Pやピンク・フロイドを参考に

――実はこの曲で終わる時に、ピンク・フロイドのアルバム『狂気(Dark Side of the Moon)』(1973年)のエンディングに繋がる温かみや広がりをこの曲に感じました。

井上:まさに僕、ピンク・フロイドのイメージで作ったんですよ。僕はそのアルバムではなく、シド・バレットがいた時のピンク・フロイドのイメージでアコースティックギターを入れたんです。

江﨑:最近WONKのメンバーでプレイリストを公開したのですが、『EYES』の制作とも関連があるような、全部宇宙のアートワークでやったんです。その中でも井上はピンク・フロイドを選曲していたので。

井上:ピンク・フロイドって音だけ聴くとナチュラルなんですけど、どこかやっぱりSF感があるんですよね。僕は個人的には今回コンセプトに合う奇妙さと希望とが入り混じった感じみたいのが、ピンク・フロイドを聴いて、すごく繋がって。わかってもらってよかった。

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撮影用にマスキングテープを楽しそうに貼っているWONKの4人。

――けっこう古いものもいろいろ聴いているんですね。

井上:そうですね、音楽では僕がいちばん保守派かもしれないですね。両親にプログレッシブ・ロックを聴かされて育ったので、プログレ好きで。今回エマーソン・レイク&パーマーの『タルカス(Tarkus)』(1971年)を、コンセプトアルバムということで参考にしたんです。あれもストーリーは語られないまでもレコードの絵と内容で、コンセプトアルバムの代表として最初の頃にメンバーに話して。僕自身ではシナリオとか構成するうえではこの『タルカス』やザ・フーの『トミー(Tommy)』(1969年)とかが頭の中にありました。

――私、完全にそのあたりを聴いてきました(笑)。ケンドリック・ラマーといった方面のコンセプトよりも、映画のサウンドトラック的なイメージで作ったということですよね?

長塚:もちろんケンドリック・ラマーの作品とかは話題に上りましたけど、映画のサントラ的な視点では井上が出してきたものが合っていた感じですね。

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■ソーシャル・ミュージックの範疇へ

――『EYES』ではアルバム全体としても1曲ごとでもチャレンジングな試みが多いですよね。前に荒田さんがインタビューでレーベルEPISTROPHが川久保玲さんの「ドーバー ストリート マーケット ギンザ」のようになればと話していましたが、音楽面でいえばWONKそのものがそうなっているように感じます。しかも今回のコンセプチュアルな内容で、サウンド面はもちろん、歌詞の面も充実していて。問い続けるアルバムとしても。

江﨑:マイルス・デイヴィスがかつて「俺の音楽をジャズと呼ぶな、ソーシャル・ミュージックと呼べ」という発言をしていますが、今作に関してはかなりその言葉も当てはまる感じがします。ジャンルがどうこうということではなくて、この『EYES』の中にはすべての音楽的な要素が含まれていて、むしろそれを社会的にどういうふうに捉えてほしいかということが中心にある作品なので、ソーシャルな部分で注目されていくといいなあというのはありますね。

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アルバム配信のほかに、完全予約限定作品ART BOOK+CDも7月22日(水)に発売。
Caroline International/EPISTROPH ¥8,800

※すでに予約受付が終了している店舗もあります。各オンラインショップおよびCDショップごとの在庫については、各店までお問い合わせください。
https://caroline.lnk.to/Eyes_AL_Wonk


この『EYES』でWONKの姿勢はもちろん、彼らの思想のようなものも伝わるのではないだろうか。問いを立てることは哲学の基本であり、『EYES』の楽曲を聴きながら自問自答、もしくは対話のようにして聴くおもしろさもあると思う。

たとえば、「Fantasist」は和楽器の笙(しょう)のような和音で始まるものの(それは人によっては神聖なパイプオルガンや、次第に不協和音でしかない金属音や音波に聞こえるかもしれない)、その得体の知れない不穏な音に心を掻き乱されながら、クラッピングに背中を押されるようにして(足踏みや地団駄を踏む人もいるかもしれない)音楽に運ばれていく。しかし、後半では音空間に解き放たれ、それぞれの秩序で混在していた音や声も整理され、聴き手の心も整えられ、一緒にクラッピングしてしまうほど力づけられていくのである。

ソーシャル・ミュージックという言葉を聞いて、先日読み終えたアメリカの哲学者であり活動家であるコーネル・ウェストに関する書籍『コーネル・ウェストが語るブラック・アメリカ』(白水社刊)の序文に「ウエストの思想と活動は、知識人は文化集団や社会組織に根差すか、強い結びつきを持っているべきだという(アントニオ・)グラムシの考え方に感化されてきた」という一文があったことを思い出した。『EYES』は何も考えずに聴いていても楽しめるし、さまざまな音楽的試みに気付けてそこも楽しいが、歌詞と対峙しこの世界に入り込めば入り込むほど人間的な深みを得られるアルバムなのである。

www.wonk.tokyo/music

*To Be Continued

photos : AYA KAWACHI

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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