Music Sketch

テンパレイの3人に聞く、注目の『ゴーストアルバム』とは。

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Tempalay(テンパレイ)の音楽は中毒性が強い。聴きやすいメロディやグルーヴに心身が揺られ運ばれながら、意表を突く曲展開から刺激が加速し、歌詞にも心底に沈殿していくようにハマっていく。最新作『ゴーストアルバム』は、皮肉と優しさが表裏一体であるようなギリギリの想いの中で、まるで万華鏡を覗いているかのように、瞬時に曲の世界観の様相を変える。高度な演奏と言葉の意味が何層にも重なり合い、潜れば潜るほど、その先に異なる世界が見えるのだ。それでいて、心地よく揺られ続ける魔法が解けることはない。取材は今回で4回目。小原綾斗(Vo&Gt)、John Natsuki(ジョンナツキ/Cho&Dr)、AAAMYYY(エイミー/Cho&Syn)の3人に話を聞いた。

DSC03461-2 .jpg写真左から:ジョンナツキ、小原綾斗、エイミー。

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コロナ禍に生まれた変化。

――まず、コロナ禍になり、どう変化しました?

小原綾斗(以下O):夏前に出す予定だったアルバムの発売が延期になりました。コロナ禍の前にあった曲は「大東京万博」だけです。最初は(コロナウィルスに対して)ちょっと腹が立ちましたけど、しゃーないし、むしろミュージシャンの中には精神的な休息になった人も多かったと思いますけどね。

 

――ナツキさんとエイミーさんはソロ活動もしているので、戸惑うことが多かったのでは?

ジョンナツキ(以下J):めちゃくちゃ生活が変わったんですけど、どちらかというと俺にとってはプラスでしたね。生活リズムを整えたり、しっかり整理して自分がやるべき時間を確保したり、これから忙しくなっても正直このペースは乱したくないなという、生活のループができたので。

――というと?

J:子供がいるので11時までには寝て、7時には起きるとか、そういうシンプルなことです。実際に自分が作業できる時間をスケジュール化して、「ここだったら自由に作業ができる」と決めることでそこに集中できるように自分を持っていった。ある程度、毎日のルーティーンが作れるようになりました。

――ある作家が、午前中はアウトプットの時間として執筆し、午後からはインプットの時間として映画を観たり、本を読んだりと、生活内容を分けていて。「毎日必ずアウトプットしないと、書けなくなる」と話していました。一方で、生活に波がある方が集中して作品を生み出しやすいというクリエイターもいて。健康的な生活とクリエイティヴィティには相互作用があると思いますか?

J:俺は音楽も勉強だと思っているので、真面目に毎日勉強して曲を作っている方がいいものが生まれると思っています。浮き沈みというのは、規則正しい生活をしていてもあるし、作らないと気分が落ちていったりもするし。音楽を作ることで、セラピーになると思うんですよね。その作家さんの感覚がわかるというか、コロナ禍の自分は「そっちタイプなんだな」という、気づきでもありました。

エイミー(以下A):私は(最初の緊急事態宣言中は)凄く落ちてました。これまでの自分の働き方とか考え方とか、正しいと思っていたものが全部崩れてしまって。このアルバムを作っていた時には、ナツキが言っていたような感じで、セラピーみたいになっていて。(立ち止まったことで)思ったようにもっとやろうというか、邪念とかなしに音楽を自然にやろうとは思うようになったので、そういう点では良かったとは思います。

Tempalay_thumb.jpg独自の世界観を貫き、インディーズ時代からフジロックや海外のフェスに出演してきた。

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曲がそのまま流れていかないように、面白い展開を次々と。

――曲作りに変化はありました?

A:綾斗からデモをもらって、みんな同じロジック(Macの音楽制作ソフト)を使っているので、セッションデータのやりとりとかしながら、構築していきました。

O:時期的にみんな集まれなかったし、データでのやりとりだけでほぼスタジオに入らず、レコーディングに直接向かったという。なので、お互いの音を100パーセント理解しているというよりは、その場で「なるほどね!」って理解していくような制作の進め方というのもあったかもしれない。でも、いつもスタジオで作り上げることの方が多かったので、今回、一旦各自が持ち帰って自分の中で咀嚼して、そこから構築していくということをやってみて、テンパレイに関しては、それが性に合っていた気がするんですよね。

――特に時間がかかった曲というと?

O:レコーディング前に、ベースとドラムだけいろいろアレンジをしてもらう感じで、曲がそのまま(聴きやすく)流れていかないように、「一旦ここでむちゃくちゃしてもらっていい?」っていう作業があるんです。そこからまた削除する部分とかあったので、最終的に完成するまでに、それぞれ同じくらい時間をかけた気がする。自分が作っている時に苦労していると思ったのは、「シンゴ」と「ゴーストワールド」ですね。


――「シンゴ」は入りからカッコイイですよね。でも、本当に演奏するのが難しそう。今回のアルバム、難しいことをとてもやっていると感じました。

J:スタジオで綾斗に「なんか面白いことをやってよ」って言われると、「じゃぁ、むっちゃヤバイやつをやってやるよ」ってなって(笑)、実際やっちゃうと、「それいいじゃん」って採用されちゃうから。

全員:(笑)。

J:だから、どんどん難しくなっていくという。「春山淡冶にして笑うが如く」や「冬山惨淡いとして睡るが如し」、「へどりゅーむ」は、逆にレコーディングの日に「こんなドラムだけどどう」って感じで録ったので、わりとシンプルには録れているのかな。スタジオでみんなで考えると、リズム隊はどんどん難しくなっていくという(笑)。もちろん曲の途中で止まって、「ここのフレーズどうしよう?」と部分的に組み立てていくんだけど、最後に1曲を通してベースとドラムで演奏してみようとなると、演奏している途中で大変すぎて、音ゲー(リズムゲーム)をやってるみたいになる(笑)。

全員:(笑)。

自然と人間の間に浮遊しているものを書きたい。

――歌詞について聞かせてください。

O:自分の感情というよりは、「そうなんじゃない?」みたいな感覚で書いていますね。僕はこの期間、感覚的にそんなに内に籠らなかったんですよ。だから、「みんな怒ってそうやな」とか、「悲しそうやな」とか俯瞰している感覚でいました。

――「春山淡冶にして笑うが如く」と「冬山惨淡いとして睡るが如し」の曲名は、宋(中国の12世紀)の山水画家、郭煕の画論「臥遊録」の文言から来ていますが、このアイデアはどこから?

O:自粛の期間に得た感覚を落とし込みたい、というところからですね。自然と人間の間にあるものを、抽象的ですけど書きたいなと思って。郭煕の描く山水画はデフォルメされたもので、そういったものは絶対に音楽にもあって、要は景色を落とし込むというか、そういうものをアルバムのバランスとして入れることで見えてくるテーマ性が僕の中であったので。

――テーマ性?

O:自然と人間の間に浮遊しているもの。あの山水画は綺麗ですけど、本来は絶対ああいうふうに見えないですからね。でも、なぜかそれが凄く迫っているように見えるじゃないですか。それが彼にとっての「自然とは」、「山とは」という解釈で、それが面白いと思ったんです。それで拝借させていただいたという。

 

――少し旅に出てみたりしたの?

O:時間があったので、GoToの時に自然のある場所、歴史のある土地に行きました。沖縄のガジュマルには特に衝撃を受けましたね。そこにある自然と、人間が騒いでいることは全くもって関係なくて、めちゃくちゃ無得で、生かされているとかいう大それた話ではないんですけど、物凄く脅威だったんですよ。

――植物の生命力は凄いからね。そういった旅も曲の栄養分になってきているという。

O:そうですね、もっともっと深いなと思ったんです。自然は景色として見るものではないんだなと。『自然農法 わら1本の革命』(福岡正信著)という本を読んで、そこから自然や土着的なものに興味が湧いた。そういう目線で見た時に、自然には人間が住めない、触れられない領域があって、そういうものがこの1年において真正面からぶつかって来たというか、自分の中で如実にでかく捉えられたんです。

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何もかも無くなった人はもっと強いんじゃないか。

――そういった生命力に対し、帰宅してコロナ禍という現実に直面した時に、どう表現していこうと思いました?

O:変えられないというか、抗えないものは絶対あるわけで、要はそれをどういう角度で捉えていくかということでしかない。ならば、とことん落ちてしまった方が、精神的に死んでしまってからの方が一番強いんじゃないかという。そこから見えるものもあるし、抗うよりも受け入れることができるので。落ちている人間というのは、まわりの人間がそう見ているから落ちているのであって、本当に落ちている人間、何もかも無くなった人はもっと強いんじゃないかと思うんです。基本的に、何かに振り回されて落ちているだけだと思うんです。

Tempalay_tsujo_H1_s.jpg

『ゴーストアルバム』(ワーナー ¥3080)は現在発売中。ほかに5000枚限定生産の初回限定盤(CD+DVD、¥4400)もある 。

――アルバムのタイトルに込めた思いを教えてください。

O:いろんな意味がありますけど、簡単に言えば「幽霊の気分で」ということ。自分の生き方というのは自分で決めちゃえばいいので、他人の抑圧といった精神的なことを飛び越えたところこそが、人間と自然の間にあるものじゃないのかなと思うんです。音楽にメッセージ性を乗せる必要はないと思う。でも、作ることは自分と向き合うことだと僕は思っているので、どうしてもこの一年で起きたことを歌う以外になかったですね。

――「春山〜」「冬山〜」の2曲が収録されている曲順がとても良くて、落ち着くというか、新境地というか、聴いていて優しい気持ちになれるんです。

O:確かに。ただ、コロナ禍を意識したというよりは、「冬山〜」に関してはなんとなくこの一年のまとめかな、という感じで書きました。

――4月からの全国11箇所を回るゴーストツアー、とても楽しみにしています。

テンパレイの情報はこちら
https://tempalay.jp/

ジョンナツキのソロ活動の情報はこちら
https://spaceshowermusic.com/artist/12643238/

エイミーのソロ活動の情報はこちら
https://aaamyyy.jp/

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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