齊藤工 活動寫眞館・拾参 片岡礼子。
「齊藤工 活動寫眞館」について
俳優、斎藤工。そして、映画監督、齊藤工。表舞台であらゆる「男」を演じ、裏方にまわり物語をクリエイトしていく。齊藤工がいま見つめるものとは、何か。彼自身がシャッターを切り、選び出す。モノクロームの世界に広がる、「生きた時間」を公開していきます。
撮影後、今回のゲストである俳優・片岡礼子と齊藤の対話が実現した。
互いにリスペクトし合うふたりの対話から、ひとつのプロジェクトの種が生まれた。そんなひとときの模様も一部、ここで紹介する。
6月初旬に行われた撮影の場所は、目黒区大橋エリアを見守るように佇む上目黒 氷川神社。境内にはビオトープがあり、片岡はここに仕事仲間や子どもたちとたびたび訪れているという。
「小さなビニールハウスがあって、それを組み立てるところから参加しました。オタマジャクシが泳いでいて、近所の小学生や幼稚園児たちも集まってきて。こんな場所がもっと増えたらいいですよね」
神社へと向かう途中、片岡はよく通る快活な声で説明する。その場にいる皆の心をぱっと照らして解きほぐしてくれる、太陽のような笑顔が印象的だ。
「片岡礼子さんは、私にとって邦画界のミューズの象徴。永遠の憧れ」
そう語っていた齊藤は、待ち合わせ時間よりも早く現場に到着していた。木々や植物が繁る環境でロケハンをしていたら、蚊に刺されてしまったという。カメラには、片岡が大切にしているこの場所の、さまざまな写真がすでに記録されていた。
まずは、ビニールハウスで撮影をスタート。片岡が中に入り、細やかな網の壁を挟んで見せる表情はどこかミステリアスで、妖艶さを増していく。
次は満開の紫陽花とともに。花や葉と戯れるような片岡に向かい、齊藤自身も紫陽花の中へ入ってシャッターを切る。
最後に、積まれていた薪の前に移動すると、片岡は土や虫が付くかもしれないのをものともせず、おもむろに薪にもたれかかり、呼吸を合わせるように齊藤が撮り続けて、無事に撮影は終了した。
ふたりはこの日初めて顔を合わせた。話は尽きず、屋内に場所を移してそのまま話を始めた。最初は、齊藤が監督を手がける、その時仕上げのプロセスにあったHBOアジアのドラマ「Folklore」の話題から。
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映画を観るという体験を届けること。
片岡 どうしてホラーを撮ろうと思ったんですか?
齊藤 去年、エリック・クーというシンガポールの映画監督の作品(*1)に参加したんです。当時『blank13』が完成したばかりだったので、監督にDVDをお渡ししたら、いまHBOという放送局でアジア6カ国でホラーを作るプロジェクトがあって、日本の枠がまだ決まっていないからやらないか、と言っていただいて。
*1 エリック・クー監督、斎藤工主演の日本×シンガポール×フランス映画『RAMEN TEH(ラーメンテー)』(2018年)。松田聖子、伊原剛志、別所哲也、マーク・リーらと共演。2018年日本公開予定。
片岡 白羽の矢が立ったんですね。
齊藤 これは絶対に乗るべき波だと思って、ふたつ返事で引き受けました。各国の伝統的な物語であったり、霊体やモンスターのようなものを登場させるという決まりがあって、畳のシミの話にしたんです。
片岡 怖い! それはいつから観られるんですか?
齊藤 日本での放送はまだ決まっていないんです。オールナイトのイベントなどで上映できないかといま画策しています。
片岡 それを聞いて思いついたんですが、私、南青山マンダラというライブハウスでの『南青山映画祭』に関わっているんです。映画が大好きな制作の方が、上映できる場所を探している若手監督にライブハウスを貸せないかと考えたんです。私もお声がけいただいて、自分に何ができるだろう?と思いながらも実行委員のメンバーと会って話したら、楽しくて(笑)。Volume 0から関わり、今年5月開催の第3回目では武石昂大さんという22歳の監督の作品を上映しました。
私、彼が大学時代に撮っていた短編(*2)の撮影に呼ばれて出演し、その時にひとつだけお願いしたことがあるんです。私は本気でやっているから、映画を趣味で終わらせないでください、もし評価されなかったとしてもそれも学びだから、映画祭へ持ち込んだり、自分たちで公民館を借りたり、ちゃんと上映してくださいね、って。
そうしたら、まず「伊豆映画祭に呼ばれました、行ってきます」と連絡があり、全国のいろんな場所で上映した後、今年のカンヌの短編部門に選ばれて上映されたんです。『南青山映画祭』ではこの短編と卒業制作の作品、それにカンヌで撮影した映像も上映して、みんなで飲みながら鑑賞して。徐々に映画人が集まるような場になりつつあるんです。よかったら、ここでやってみませんか。
*2 武石昂大監督『おるすばんの味。』(17年)。第5回八王子Short Film映画祭の学生部門グランプリを受賞。第71回カンヌ国際映画祭の短編部門で上映された。
齊藤 ありがとうございます。それこそ僕も移動映画館をやっていて、被災地や劇場がなくなってしまった地域で映画上映をしているんですが、もともとはモデル時代からの先輩だったREBIRTH PROJECT(*3)の伊勢谷友介さんにその相談をしていたんです。
*3 REBIRTH PROJECTは俳優の伊勢谷友介が設立した、衣食住をはじめ水・エネルギー・教育・メディアなどの分野で社会活動を行う会社。片岡はその俳優部門カクト エンタテインメントに所属している。
片岡 移動映画館のこと、私どこかで読みました!
齊藤 現地の方たちと一緒に、お寺などで開催していて、スクリーンは自治体のものなんです。移動映画館というと大変に聞こえるかもしれないけれど、僕らがしていることは素材の権利をクリアにすることくらい。映画館がなくてもお寺がある場所はいっぱいあるし、防音の面でも和紙ってすごく優秀で、閉め切ると音がちゃんと中に収まるんです。
片岡 音事情的にも、映画向きなんですね。
齊藤 去年からは海外でも開催しています。アフリカや南米には、映画という文化がない国がけっこうあるんです。マダガスカルでは映画文化もテレビもなくて。そこで子どもたちと一緒に映画を作りました。
片岡 作った!?
齊藤 はい。でも何が言いたかったかといえば、REBIRTH PROJECTさんの根ざすものから、僕は遠くないところにいると思っていただけたら光栄だと思って(笑)。礼子さんが所属されたことも外から勝手に見ていて、根の部分で同調されたんだな、と。
片岡 そうなんですね。ありがとうございます。
齊藤 無国籍でオリエンタルな雰囲気が、礼子さんの凄まじい魅力だと思っていました。『ハッシュ!』(*4)ではやや毒があり、性別を超えるような瞬間もある。映画ファンとして礼子さんのファンだったので、一昨日くらいからすごく緊張していました。撮らせていただけるんだ、と思って。
*4 橋口亮輔監督『ハッシュ!』(01年)。第54回カンヌ国際映画祭監督週間に出品された。なお、今回の撮影で片岡のヘアメイクを手がけた豊川京子は、『ハッシュ!』を含むいくつかの作品で片岡のヘアメイクを担当している。
片岡 そんな、知らなかったです(笑)。ありがとうございます。私も今回お話をいただいた時、頑張っている自分へのご褒美タイムだと思って、すごくうれしかったです。
齊藤 ご褒美タイム(笑)。こちらこそです。
片岡 決まってすぐ『blank13』を観に行きました。そういう理由がなかったら、私は子どもたちのことが優先で『お母さんは映画が観たいから、ごめんね』なんて言って帰ってこないのは暴力に近いな、と思うから。ずっと映画を撮り続けてほしいなと思いました。あと、板谷(由夏)さんとされている「映画工房」も、私時々観ていたんです。本当に映画が好きな方なんだな、という印象がありました。
齊藤 うれしいです。
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片岡礼子と齊藤工の、新しいプロジェクト。
片岡 私、毎日子どもに、今日の○○君は将来何になりたいの?ってインタビューしているんです(笑)。
齊藤 僕、今年から大殺界なんです。大殺界の期間は、12年のうちの2か3年で、その時期に頑張って新しいジャンルに足を踏み入れたりしないほうがいい。自分も大殺界だと気づいて、これはきちんとメッセージをいただかなくてはと思ってある方に話を聞いたら、この2年は誰かのために尽くしなさい、と。それを聞いて納得しました。やりたいことはできているし、それが僕にとってこの稀有なシーズンの過ごし方なんだなって。
片岡 なるほど。いまそういうことに気付いたのは、すばらしい方向に向かっている気がします。私は自分で気付けなくて、30歳のとき『ハッシュ!』に全身全霊で挑んでこの映画が終わったら死んでもいい、なんてバカなことを言っていたら、終わった後に体調を崩して、ひとりでは一歩も踏み出せないほどしんどい時期がありました。
その時に夫が四国の島の実家に帰ると決めてくれて、島暮らしが始まりました。これは大事なのに手放さないといけない……ということが毎日のようにあって、すべてがなくなったように感じた7年間だったけれど、いま振り返るとあの時がいちばん豊かだった。
それまで気付いてなかったことに一気に気付かされて感じたのは、やっぱり私は子どもや親、家族のことを大事にしたい、ということ。でもその人たちを大事にしていく自分のエッセンスは映画なんです。東京に戻ってからまたひとつひとつ、映画のことを新しく自分に取り入れている頃に、REBIRTH PROJECTの伊勢谷さんに出会いました。地域貢献や社会貢献って、言葉にすると少し気恥ずかしいけれど、そういうことをど真ん中でやっている人たちは潔いなと感じました。私にできることといえばPTA活動くらいしかないけれど、率先して何人か誘って一緒にやっているうちに、エクセルやイラストレーターが使えるようになって、いまに映画のチラシを作れるようになるかも!なんてうきうきしたり(笑)。実は私にも野望があって、クレイアニメーションを撮りたいんです。
一同 ええ!
片岡がずっと大切に考え続けてきたそのクレイアニメーションのコンセプトは、明快でユーモラスで、心が温かくなるような内容だった。自身も昨年、クレイアニメーション『映画の妖精 フィルとムー』を手がけた齊藤がそのコンセプトに共鳴した。映画を愛し、映画が持つ可能性を次の世代へ手渡していくことにも真摯に取り組んできたふたりの、新しいプロジェクトが始まりそうだ。フィガロジャポンも応援し、そのプロセスを随時紹介していく予定。乞うご期待!
俳優。1993年、橋口亮輔監督『二十才の微熱』で映画デビュー。映画やテレビドラマ、舞台で活躍。2018年には『大和(カリフォルニア)』『ミスミソウ』『榎田貿易堂』『友罪』など出演作が相次いで公開。9月22日からは『純平、考え直せ』の公開が控えている。www.kataokareiko.jp
TAKUMI SAITOH
移動映画館プロジェクト「cinéma bird」主宰。監督作『blank13』(18年)が国内外の映画祭で7冠獲得。アジア各国の監督6名を迎えて製作されたHBOアジアのドラマ「Folklore」に日本代表の監督として参加。企画・プロデュース・主演を務める『万力』が20年に公開予定。www.b-b-h.jp/actor/saitohtakumi
coiffure et maquillage : KYOKO TOYOKAWA