TAO'S NEW YORK NOTES

【TAO連載vol.7】あなたはどう答える?「What do you do?」

TAO'S NEW YORK NOTES

初対面の人と会う時、その人が何をしている人なのか知らなかった場合、「何をされているんですか?」と聞くかと思う。
これは「何を」の頭に「お仕事」という言葉が隠れているので、付けても付けなくても質問された人は生業を聞かれているのだとわかるはずである。

英語でも同じように、"What do you do?"と聞く。「仕事」と強調したい場合は語尾に"--for work?"や"--for living?"と付け足す。

ニューヨークに来ておもしろいな、素敵だなと思うひとつに、このやりとりがある。
前述のように、「何されてるんですか?」だけで聞くと、予想もしない答えが返ってきたりするからだ。

たとえば「バンドでベース弾いてるの」とか、「最近ムービーの編集を始めたの」や、「物を書いたりしてるの」なんて答えが返ってくる。
それらは始めたばかりのものだったり、お金にはなっていない、つまり日本人の感覚からすると”趣味”でやっていることを教えてくれるのだ。

もちろん中には堅実で慎重なタイプもいるが、私の周りにはアーティスト気質の人が多いせいか、ちょっとかじった程度のことも「何をしてるの?」という質問の答えに含まれるのだ。

そしてそれを聞くたびに、ニューヨークは素敵なところだなと思う。

日本のように正社員とか、派遣、とかバイトというくくりが曖昧だからというのもあるかもしれない。正社員はしっかり地に足をつけて、バイトはとりあえず目下の収入源としてやっている、といった職業差別も日本にはある。

こちらでは仕事はどんな仕事でもworkである。アルバイトの英訳を探すとpart time jobなんて言葉が出るが、耳にすることはほぼ皆無の単語である。そこに隔たりはほぼないのだ。

それを踏まえたうえで、「何をやってるの?」の質問にまだ形になってない夢を話す姿勢が土地柄で、浪漫があるなと思う。

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パーティやディナーではWhat do you doが多く聞かれる機会。インスパイアリングな人間でいたいなとしみじみ感じる時。

あるスペイン人の友人は初めて会った時、私の"What do you do?"への質問に、トライアスロンをやっていて今日も3時間かけて自転車で郊外まで行っていたんだと話してくれた。私にとって、その未知の世界の話がとっても興味深くて、会うたびにスポーツの話をしていたのだが、彼はあるファッションブランドでバッグのデザイナーをやっているのだと、会ってから数年後に知った。

また、還暦をとうに超えたあるアメリカ人男性の友だちに同じ質問をしたならば、きっと「もともと作曲をやっていて、少し前からお芝居の脚本を書いたり演出をしたりしていたんだけど、いったんそれもやめて、最近はまた絵を描き始めたんだ」と返すだろうと思う。
彼の収入源は持ちアパートの家賃収入である。でもそれは彼の"What do you do?"への回答にはならない。

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年齢や国籍を問わず、こういった色んな分野に果敢に挑戦していく友だちがたくさんいる。
先週会った時には写真を撮っていると言った女性が、次の週に会った時には女優をやり始めたの、と言ったりする。

自分の夢や好きなことを職業にしている人はとても素敵だけど、そうでない人だって仕事の外で"What do you do?"の質問に対して、キラキラとワクワクするような回答ができるのである。

多くの日本人の感覚で言ったら、まだまだ始めた趣味の範囲でしかないことを他人には言えない、ましてや初めて会った人に自己紹介をする時に口をついて出ない内容だろう。

「ミュージシャンの卵です」とか、「趣味の習字で、コンクールに入選したんだ」なんて言い方は聞くかもしれない。
でもニューヨークでは「卵です」とか「趣味で」というひと言はついてこないのだ。

そこには「お金になっていないけど、私のやりたいことはこれなんだ」という強い意思表示と、自分にかける誓いのようなものを感じる。
本気なんだ、と、自分と他人に伝える気持ちが、モチベーションになるし、たかが趣味なんですと謙遜するのではなく、「これが好きなんです!」という情熱が伝わって来る。

そんな浪漫あふれるニューヨークに引っ越して丸10年が経った今春、私は居住を西海岸へ移そうとしている。

4月から半年間、あるテレビドラマシリーズの撮影に入るのだが、これをきっかけにしばらくハリウッドに住んでみようと思うのだ。

大好きなニューヨークを離れるのはとても寂しいが、いつになっても新しいこと、新しい土地でチャレンジする精神はニューヨークで学んだ大切なことのひとつだ。勢いで行ってみようと思っている。

あちらでは、"What do you do?"の質問に9割が"I'm an actor"「俳優です」と答え、その次の質問は「じゃあどこのレストランで働いてるんですか?」という流れになるといった冗談がある。

新しい土地で出会う新しい人たちと交わす最初の、"What do you do?"に、自信を持って"I'm an actor"と言えるように、また色鮮やかな答えが返せるように、もっと色んなことに挑戦していく予定である。

TAO

千葉県出身、LA在住。14歳でモデルを始めた後、2013年『ウルヴァリン:SAMURAI』のヒロインとして女優デビュー。以降、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16年)やドラマ「ハンニバル」「高い城の男」(ともに15年)など話題の映画やテレビドラマに出演。18年はHBOドラマ「ウエストワールド」に出演、日本では『ラプラスの魔女』や『マンハント』が公開され、国内外で活躍の場を広げる。
※TAOのオフィシャルインスタグラムでは、この連載で読みたいテーマを随時募集中。コメントまたはDMにてお知らせください。@taookamoto

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