
最近のファッションって昔に比べてつまらないよね。
シトウレイの東京見聞録
公式スケジュールが発表されて最初に見て声を上げてしまった! TOMO KOIZUMI が東京でショーをするだなんて!
「海外で活躍する日本人」の中でもとりわけ私が気になってた人。ニューヨークであれだけの話題なショーを開催したのだもの、おそらくはRakuten Fashion Week TOKYO側がご招聘した、凱旋帰国のショーなんだろうな……、それにしてもRakutenファッションウィーク、ナイス人選ブラボー!! そんなことを思いつつ、ショーの日にちを指折り待って、当日そわそわしながら席に着く。
結果は。
ファーストルックの白いドレスを纏ったのは、ミラノやパリで多くのショーを歩き話題になったモデルの美佳。
圧倒的だった、ダントツに! 今回のRakutenファッションウィークで断トツのベスト、ぶっちぎりに! 背筋が正されるかのような緊張感のあるショーの雰囲気(こういうショーは東京のそれでは本当に稀)、モデル陣はすべて一流どころオンリー(なかでもラストの冨永愛さんの表現は、息を呑むものだった。本当に最高!)、耽美的な音楽、演出、そして服はというと、華やかで甘やかで構築的で……、夢の羽衣としか言いようがない!
オペラ「さようなら、ふるさとの家よ」に合わせて優雅に舞う、フィナーレの冨永愛。
後日、彼に会うことになった(ラッキー!まだニューヨークに帰っていなくてよかった!)。一体どんな人なんだろう。その華々しい経歴――スタイリストのケイティ・グランドに見いだされ、初のショーはニューヨークのマークジェイコブスのショップにて。一流のヘアメイクアーティスト、演出家、モデル陣が参加したショーは数々のセレブも来場して、ファッションウィークの話題をひとりでかっさらった――から想像するに、アレキサンダー・ワンやジョナサン・アンダーソンと同じ系統、つまりファッション業界の重鎮に可愛がられて表舞台にデビューした才能を持った人(ところで「可愛がられる」というのも才能の一部だ)、おそらく顔が広くて社交上手でそつがない人なのだろうな、そういえば日本語は大丈夫かしら……、なんてことを思いながらドアをたたく。
「僕、ニューヨークに住んでないですよ。普通に中目黒界隈を自転車でブラブラしてます」
えっ!?
「ニューヨークなんて、ショーの時に行ったのが初めてくらい。それ以外でほとんど行ったこともないし、実際いまも全然知らないんです。海外経験? ないない!ないです。ずっと日本で生まれて日本で育って。外国の友だちが多いから、英語はなんとな~く話せるようになったけど、勉強とか全然してないから、ニューヨークでインタビューとか受ける時はヒヤヒヤしてました、聞き取れなかったらどうしようーって。それに僕ひきこもりがちだからパーティとか本当苦手で」
ガラガラガラ、と私の中で「トモ コイズミ」像が崩壊していく音がする。中目黒在住の日本ネイティブで引きこもりがちで社交が下手? え、だったらなんでいきなりに世界デビューできたんだろう?
「きっかけはinstgramのDMです。いきなりケイティから連絡が来てショーを一緒にやらないかって。そこからもう、あれよあれよという間に話が進んで。ショーではそれまで衣装として作ってきたもののアーカイブを使うことにして、残り半分はショーまでの3週間で一気に完成させたんです。行く前に情報もそんなになくて、実際グイド・パラオとパット・マクグラスがヘアとメイクをやってくれることも1週間くらい前に聞いて、『え!?』って。とにかく信じられないことがどんどん起きて圧倒されることばっかりで。とはいえ、やることが多すぎて驚いてる場合じゃない、ってとにかく手を動かし続けてました。本当にすべてがぎりぎりで……、どうなるんだろう、と思いながらとりあえずサンプルを作って持って行ったんです。行ったら行ったで、またベラ・ハディッドやエミリー・ラタコウスキーみたいなモデルが歩いてくれるって知って『マジで!?』って。そうそう、ケイティに実際会ったのもショーの3日前とかだったし」
この現代におけるシンデレラストーリー! つながるキッカケも、話の決まるスピードの早さ、世界をまたぐ規模感も、集められたメンバーの豪華さもすべてがすべて桁外れ。この波に呑み込まれる不安はなかったんだろうか。
「本当かな(だまされてるのかな)?って信じられない気持ちもないわけじゃなかったけど、でもまぁ仮にそれでもやらないよりはやった方がいいって思ったし。それに結果的にやっぱり行って良かったことはいろいろあって。一流の人がこんなに自分のために、それこそ手弁当みたいなノリで集まってくれたんだから、僕は見せ方に関しては全部彼らに委ねたんですね。そしたら、自分では想像もつかないような見せ方になってクリエイションが現れて。自分にはない引き出しを開けてくれた。そして一流の人と組む強みというものも、肌で実感することができて」
ん? 手弁当?
「費用は、ほぼ先方が負担してくれたんです。僕が出したのは自分の渡航費と宿泊費くらいで。ケイティはじめ、関わってくれた人も『おもしろそうだからやろう』って気持ちだけで集まってくれて。それは東京でのショーでも同じで。『一流の人と組む強み』をニューヨークで学んだからこそ、演出の若槻さんに『日本のトップモデルと仕事がしたいです』って相談してみたんです。そしたら見事に集めてくれて。みんなすごく協力的なことが、本当にうれしくて」
Kōki,、福士リナなど、世界で活躍するアジア人モデル10人による、全10ルックで構成。
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なんだかトモ君にみんなが協力的になるのは、なんとなくわかる。なんていうかいま求められているのはこういうことなんだなって。とかくいまのファッションはビジネスに寄りがちになっている。「売れる服」がすなわち正義で、どれだけ美しくても、どれだけ感動的な服であっても「売れない服」は意味がないとされる。結果、クリエイションはどんどんリアリティがあるものになり、アーティスティックな感動性がある、つまり「夢のある」服がなくなっている。そしてみんな口を揃えて言うのだ。「最近のファッションって昔に比べてつまらないよね」って(つまらなくしているのは自分たち自身だってことに気がついて言っているのかどうかは、ここでは問わない)。
2020SSのコレクションのテーマは「ギフトボックス」。オーガンジーやラッフルで構成された、美しいオートクチュールのドレスたち。
そんな停滞感があるいまだからこそ、「何かおもしろいことをしたい」ってケイティの純粋なファッションに対する欲求と、トモ君のような圧倒的なファンタジーでドリーミーな世界観を持つクリエイション性が合致して始まったこのプロジェクトに、多くの人たちがジョインしたくなったのだと思う。
「僕もそう思います、僕の服はビジネスになる服じゃないのに、協力してくれたっていうのは、『美しいだけの世界観』に関わることを、みんなが求めてたんじゃないかな」
いま私たちが、ファッションに、潜在的に求め始めていること。そしてファッションの本質的な役割について、あらためて考える。
小泉智貴。1988年生まれ。スタイリストアシスタントやコスチュームデザイナーアシスタントを経て、千葉大学在学中にオリジナルブランド「TOMO KOIZUMI」をスタートし、多くの国内アーティストの衣装デザインを担当。スタイリスト兼「LOVE」編集長のケイティ・グランドの働きかけにより、2019年秋冬シーズンのニューヨークコレクションにて初のショーを開催した。