美術館に泊まるような一夜を。客室そのものが作品な「アートホテル」5選。

Lifestyle

壁も、天井も、家具さえも。アーティストが手がけた客室は、一夜を過ごすための“作品”。眠りにつくその瞬間まで、“鑑賞”は続く。美術館でガラス越しに眺めるのではなく、その世界の中で眠り、目覚める。そんな体験ができるアートホテルが、いま各地で個性を競っている。アートとの距離が変わる、選りすぐりの5軒へ。

BnA_WALL(ビーエヌエー ウォール)|東京・日本橋

作品の中に泊まる、新しいアート体験。

HARDCORE GAME ROOM by magma

2021年に日本橋・大伝馬町で開業した「BnA_WALL」は、客室そのものが“宿泊型アート作品”だ。全14タイプ・26室の客室は、YOSHIROTTEN、SIDE CORE、BIENら23組の気鋭のクリエイターが制作とディレクションを担当した。

Visible Ambiance by Konel/Photography: Tomooki Kengaku

その“作り方”も特徴的だ。完成した部屋に作品を飾るのではなく、床や壁、天井の素材や色を選ぶところから、家具、カーテン、小物に至るまで、作家とともに空間を一から立ち上げた。作品名と作家名が記された扉を開けた瞬間、そこには唯一無二の世界が広がっている。客室には、作品の背景を解説するオーディオガイドも用意されていて、作家の意図をたどりながら滞在できるのも楽しい。

ホテル内ラウンジ。 Photography: Tomooki Kengaku

エントランスを入ると、巨大壁画「WALL」が目に飛び込んでくる。1階から地下1階までを貫く壁面は、定期的に描き替えられ、常に変化し続ける。地下にはアーティストが制作や滞在に使えるスタジオを備え、運がよければ作品が生まれる現場に立ち会えることも。宿泊費の一部が、その部屋を手がけたアーティストに還元される「パトロンシステム」を採用するなど、アートシーンを支える仕組みが根づいているのもユニークだ。

桜色の絨毯の部屋 by コリュ/Photography: Tomooki Kengaku

美術館で作品を「観る」のではなく、作品の中で一夜を「過ごす」。この体験は、アートとの距離を大きく変えてくれるかもしれない。

ニュートピア東京 by Ochoと苦中ツヨシ/Photography: Tomooki Kengaku

BnA_WALL(ビーエヌエー ウォール)
東京都中央区日本橋大伝馬町1-1
03-5962-3958
客室数:26室(14タイプ)
公式サイト:https://bnawall.com/

パークホテル東京|東京・汐留

壁も、天井も。アートの中で目覚める“泊まれる美術館”。

「日本の美意識が体感できる時空間」をコンセプトに掲げるパークホテル東京。汐留メディアタワーの25〜34階を占め、館内に展示される作品は常時400点以上。その多くは日本人アーティストが手がけたもので、展示作品はすべて購入することができる。

地下2階から最上階まで、回廊そのものがギャラリーとなっている。ロビーフロアとなる25階のアトリウムは都内最大級の吹き抜けを誇る空間。ガラス越しに東京タワーを正面に望み、朝夕で異なる表情を見せる。ここでは日本の四季を表現した展示会「アートカラーズ」を通年開催しており、展示されているアートとあいまって、窓の外の景色さえ一枚の絵画のよう。26階から34階の全客室フロアの回廊に設けられた「コリドーギャラリー」は、「Art for all(アートをすべての人に)」がテーマだ。

同ホテルを象徴するのが、「アーティスト・イン・ホテル」プロジェクトから生まれた「アーティストルーム」だ。アーティストが一定期間ホテルに滞在し、壁に直接絵を描き上げた客室で、2012年12月のスタート以来、52室(31階の全31室、34階の一部)が完成。制作中の部屋もある。天女、侘び寂び、桜、十二支、山水、富士山、東海道など、1室ごとにテーマが異なり、なかにはバスルームにまでアートが施された部屋も。それぞれのアートの世界に迷い込んだかのような没入体験に身を委ねたい。なお、この「アーティスト・イン・ホテル」プロジェクトは、2017年のジャパン・ツーリズム・アワードで領域優秀賞を受賞している。

滞在をより深めることができる体験も実施している。25階のアトリウムでは、現代アートに囲まれながら、テーブルスタイルの茶道を楽しめる(宿泊者限定・無料)。ワインを嗜みながら、自分だけのアート作品を完成させるレッスンも人気だ(開催日限定、有料、要事前予約)。

東京タワーを望みながら、日本の美意識に浸る時間を過ごしたい。

パークホテル東京
東京都港区東新橋1-7-1 汐留メディアタワー
03-6252-1111
客室数:268室(うちアーティストルーム52室)
公式サイト:https://parkhoteltokyo.com/ja/

HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel(ホテル グルーヴ シンジュク ア パークロイヤル ホテル)|東京・新宿

街の記憶が宿る、歌舞伎町の高みに広がるアート空間。

Designed by Yoshiaki Kaihatsu

新宿・歌舞伎町にそびえ立つ複合施設「東急歌舞伎町タワー」は、館内そのものが一つの美術館ともいえる。地下から最上階まで、26組の作家による作品が195点。その多くが、この場所のために描き下ろされたコミッションワークだ。監修は愛知県美術館館長の拝戸雅彦と、現代アートギャラリーのANOMALY。低層階では篠原有司男の大胆なボクシング・ペインティングやChim↑Pom from Smappa!Groupの作品が、新宿という街のエネルギーそのままにゲストを迎える。

Designed by Yoshiaki Kaihatsu

2023年に開業した同タワーは高さ約225m。上層部20〜38階には、ライフスタイルホテル「HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel(ホテル グルーヴ シンジュク ア パークロイヤル ホテル)」が、全538室を構える。デザインのテーマは、新宿という地の歴史を映すミッドセンチュリーモダン。なかでも特徴的なのは、「GROOVE ROOM(グルーヴ ルーム)」と名付けられた、計9室のアートルームだ。

Designed by Takuro Tamayama

開発好明、玉山拓郎、鷲尾友公の3作家が、歌舞伎町の街と文化をテーマに、3室ずつを手がけた。開発の部屋は、新宿の音を収めたものを含め、約2000本のカセットテープが壁一面を埋め尽くす。ラジカセから流れる過去の音と、窓の外に広がるいまの街の音が重なり合う特別な時間を過ごしたい。玉山の部屋は壁が床になったかのような不思議な無重力感が唯一無二。鷲尾の部屋は、ベッドの背後にギリシア神話に登場する「三美神」が歌舞伎町らしくノージェンダーで大胆に描かれ、入口には街の過去・現在・未来を映すモザイクタイルアートが広がる。

Designed by Tomoyuki Washio

眠らない街を見下ろしながら、その記憶に包まれて過ごす──。歌舞伎町という土地でしか味わえない一夜を、心ゆくまで堪能したい。

東急歌舞伎町タワー内で楽しめる「JAM17 Bar」。

HOTEL GROOVE SHINJUKU, A PARKROYAL Hotel(ホテル グルーヴ シンジュク ア パークロイヤル ホテル)
東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー 18・20〜38階
03-6233-8888
客室数:538室(うちGROOVE ROOM 9室)
公式サイト:https://www.hotelgroove.jp

SHIROIYA HOTEL(白井屋ホテル)|群馬・前橋

1室ごとが作品。街とともに再生したアートホテル。

©Katsumasa Tanaka

江戸期創業、300年の歴史を刻んだ老舗旅館を前身に、2020年に再生を果たした群馬・前橋の「SHIROIYA HOTEL」(白井屋ホテル)。この再生を手がけたのは、建築家・藤本壮介だ。廃業した建物を6年半かけて大胆に改築し、「ヘリテージタワー」として生まれ変わらせた。さらに、旧利根川の土手を思わせる新棟「グリーンタワー」を新築。2025年には隣接する建物にレジデンスタイプの客室も新設している。

©Katsumasa Tanaka

「ヘリテージタワー」の4層分の床を抜いた吹き抜けに浮かぶのは、レアンドロ・エルリッヒの《ライティング・パイプ》。かつて配管が通っていた痕跡から着想した作品で、21時を過ぎるとLEDの光がゆるやかに移ろい、空間を幻想的に染めていく。その真下に広がるのが、宿泊者以外も利用できるラウンジ&カフェ「the LOUNGE」。光の移ろいを見上げながら過ごす時間は忘れ難いものとなるはず。

©Shinya Kigure

客室は2つのタワー、さらに新たにお目見えした「レジデンスルーム」を合わせると計28室。そのすべてがひとつひとつ異なる表情を見せる。なかでも、4人の作家が内装を一から手がけたスペシャルルームが特徴的だ。ジャスパー・モリソンの部屋は、独自の哲学「スーパーノーマル」を軸に、凛と佇む“木箱”を思わせる静謐な空間。ミケーレ・デ・ルッキの部屋は「板葺き」の技法で2725枚もの木片を用い、山小屋のような温もりと光の陰影に満ちる。レアンドロ・エルリッヒの部屋は、吹き抜け同様、パイプをモチーフに水道管が天井を走り、美術館を独り占めするかのよう。藤本壮介の部屋は、前橋市が掲げるヴィジョン「めぶく。」を体現。一輪挿しに生けられた木々の葉が空間に浮遊する。

©Shinya Kigure

なお、毎日2回、宿泊者に向けた無料のアートツアーを実施。館内に点在する作品を、解説とともにじっくり巡ることができる。

©Katsumasa Tanaka

SHIROIYA HOTEL(白井屋ホテル)
群馬県前橋市本町2-2-15
027-231-4618
客室数:28室(うちスペシャルルーム4室)
公式サイト:https://www.shiroiya.com/

HOTEL ANTEROOM KYOTO(ホテル アンテルーム 京都)|京都・東九条

九条と十条のあいだで京都のアートの“いま”に出会う。

2011年に誕生した「HOTEL ANTEROOM KYOTO(ホテル アンテルーム 京都)」は、かつて学生寮として使われていた建物をコンバージョンしたホテルだ。ギャラリー、レストラン、バーを併設。京都駅の南、九条と十条のあいだで、単なる宿泊施設を超えたアートの拠点として、京都の“アート&カルチャーのいま”を発信し続けている。

エントランスから続く「GALLERY 9.5」は、九条と十条の間という立地にちなんで名づけられた自由度の高い空間。京都を拠点とするクリエイターの企画展を開催するほか、彫刻家・名和晃平が率いるSandwichとの共同プロジェクトも進行する。エントランスで迎えてくれるのも、名和による作品だ。

客室は、2016年のリニューアルで生まれた、5組のアーティストが手掛けた「コンセプトルーム」が白眉。名和晃平、蜷川実花、ヤノベケンジらが、作品だけでなく調度品に至るまでディレクションし、一室まるごとを自らの世界観で満たしている。名和の部屋には、彼が手がけた枯山水の庭が広がる。蜷川実花の部屋は、壁一面が満開の桜の写真作品に覆われ、客室そのものがギャラリーと化す。フックや引き出しの取っ手が巨大化したヤノベケンジの部屋は、思わず笑みがこぼれる遊び心に満ちている。

館内に点在する90を超える作品は、一部購入も可能。眠りにつくまでの時間さえ、鑑賞の続きとなる。

HOTEL ANTEROOM KYOTO(ホテル アンテルーム 京都)
京都府京都市南区東九条明田町7
075-681-5656
客室数:127室(うちコンセプトルーム5室)
公式サイト:https://www.uds-hotels.com/anteroom/kyoto/

  • editor: Aya Hasegawa