ディオールの2021 クルーズ コレションが7月22日、ショー形式で発表された。この時期ゆえに無観客であり、関係者にはあらゆる安全策を講じてのショーという例外的なものながら、アーティスティック ディレクターのマリア・グラツィア・キウリはいつもながらの力強いショーを作り上げ、それはスクリーン越しでも観る人々を感動させるものだった。開催地は彼女の父の故郷で彼女自身も夏休みを過ごしていたイタリアのプーリア州。彼女の心の拠り所なのだそうだ。それだけでなく、彼女がプーリアを選んだのには訳がある。素晴らしい自然と景色に恵まれたこの地には、遠い日本からは想像できないほど貴重なサヴォワール・フェールが保全されている。このショーはそれらにオマージュを捧げ、支援する最高の機会となったのだ。

フィナーレ。会場に選ばれたのはプーリア州、レッチェの街のドゥオーモ広場だ。ショーはYouTubeにて視聴可能。© Alessandro Garofalo
プーリア州の美術工芸とのコラボレーションにあふれたショーは、予定の20時45分に少し遅れて開幕した。打楽器と呼吸が闇に響く。最初に登場したのはモデルではなく、ラ・ノッテ・デラ・タランタ財団のダンサーたちだ。その彼らが突然、点灯されたルミナリエによって明るく照らされ……会場のドゥオーモ広場はカラフルな大量の電球で描かれた夢のような空間にいきなり変身。ルミナリエは日本でもおなじみだが、意外にもプーリア地方が発祥の地なのである。このショーのルミナリエのデザインを任されたのはアーティストのマリネッラ・セナトーレ。彼はモード、伝統工芸、先端的コンテンポラリーアートを意識した会場構成を描き、それをレッチェに1876年に生まれたラ・メゾン・フラテッリ・パリジが12日をかけて施工。3万個のLEDバルブが使用された。

祝祭のシンボル、ルミナリエ。© Alessandro Garofalo

アーティストのフレーズを書くために、合計15kmのLEDフレックスチューブが使用された。© Alessandro Garofalo
目がくらみそうになるほど幻想的で美しいルミナリエの中から、浮かび上がるようにモデルたちがひとり、またひとり……と。どこかヨーロッパの田舎町で見かけたような昔っぽいファブリックを想起させる、スカートやジャケット。このコレクションのためにマリア・グラツィアは多くのルックのテキスタイルを、レ・コスタンティーネ財団とコラボレートした。プーリア地方の伝統的な織物技術、バイオダイナミック農業を通じて、地域の女性たちを育成し、地元の財産を伝承するべく1982年に創立された財団だ。古い機織り機を用いた美しい布。この財団のモットー「Amando et Cantando(愛し、歌うこと)」をスカートの裾に透かし刺繍した一着も。

懐かしさを感じさせる素朴な織物を現代的な装いに。

ストライプやジャカード風モチーフなど、すべてディオールのために織られた布だ。

足と手で動かす昔ながらの機織り機が活躍するレ・コスタンティーネ財団。女性のために創立された団体だ。©Antonio Maria Fantelli

レ・コスタンティーネ財団の会長が語る動画(日本語字幕付き)はYouTubeにて。©Antonio Maria Fantelli

「Amando et Cantando(愛し、歌うこと)」とメッセージが織り込まれたスカート。
テキスタイルに魅了された視線は、プーリア地方の美しい自然がパワフルな色調で再現されたプリントを纏ったモデルたちによって、植物界へと導かれる。マリア・グラツィアとは過去にもコラボレーションをしたことのあるアーティストのピエトロ・ルッフォによるデッサンだ。彼は人類と自然の関わりを見据え、プーリアの手付かずの自然の中に咲く草花や月をはじめとする天文学的なモチーフをこのクルーズコレクションのためにクリエイト。彼がデッサンした植物は、まるでモデルたちの身体に根をはって空に向かっていくような強い生命力を感じさせる。


ケシ、スズラン、アヤメ……プーリアに咲く幾千もの花をピエトロはひとつずつデッサンし、それらを昆虫も交えてひとつにまとめ、色鮮やかな花畑のイメージを再現。

プーリアに昔から伝わる魔法、占星術。星や星座は自然と共生する人々の暮らしに大きな影響を与える。ルッフォは天文学のモチーフもデッサンした。YouTubeにはピエトロ・ルッフォのインタビュー(日本語字幕付き)も。
ショーの終わり近く、職人マリレーナ・スパラシによるトンボロレースのバラと蝶が軽やかに揺れるヌードカラーのドレスが、儚く希少な美に捧げる抒情詩のように登場した。これはイタリアで15世紀に生まれ、16世紀にとりわけ南イタリアで発展したボビン編みレース。機械化が進むこの世の中で、これほど精巧で繊細なレースのための複雑なサヴォワール・フェールを守り続けている人がいるとは! プーリア地方の豊かな職人技に対するマリア・グラツィアの愛は尽きないようだ。

トンボロレースのドレス。

マリレーナ・スパラシのアトリエ。複数の木製糸巻きボビンを駆使してレースを編む。©Antonio Maria Fantelli

彼女が語る動画(日本語字幕付き)は、YouTubeにて。©Antonio Maria Fantelli
ショーの間、踊り続けたラ・ノッテ・デラ・タランタ財団のダンサーたち。振り付けたのは、ダンスをテーマにしたディオールの2019年春夏コレクションにコレオグラファーとして参加したシャロン・エイアルである。今回、彼女はコレオグラファー・イン・レジデンスとなって財団でダンサーたちに創作をした。ダンスによって身体とエスプリを解放するカタルシスを感じさせるパフォーマンス。息苦しさや不安、それを乗り越える自己超越だ。マリア・グラツィアはこのショーの前に、タランティズムなどの呪術的思考が生き続けるプーリアにおける、魔法の儀式などの風習のルーツを探求したという話を思い出させるダンスだった。表現されるプーリアの祭礼の伝統的儀式からインスパイアされた力強いダンスには、どこかギリシャ的な匂いも感じられ……聞けば、この地方は紀元前8世紀、イオニア海をはさんで向かいにあるギリシャの植民地だったという歴史があるのだ。レッチェのいくつかの村にはいまもギリシャ系のグリコ人が暮らしているとか。

エイアル独特の身体表現とプーリア地方の祭礼儀式が結びついた振り付け。

カラフルな照明を背後に踊るモノクロームの装いのダンサーたちの間を、ときにモデルたちは通り抜けて前進。
さてショーには登場しなかったが、プーリア地方の職人によって作られたブランカ・タロット・プレートもこの機会に紹介しておこう。いまのところ商品展開の詳細は未定だが、ディオールのコレクション「ディオール メゾン」とのコラボレーションである。陶芸職人アゴスティーノ・ブランカは1987年にプーリア地方に構えたアトリエで、新技術を開発し、自分のスタイルをより確固たるものとし、手描きの皿を作り続けている。彼はこのクルーズコレクションのためにタロットカード、そしてそのテーマとなる太陽などに南イタリアやソレント地方を代表する香草や麦を組み合わせたモチーフの5種の皿を製作した。

太陽と麦を描いたブランカ・タロット・プレートの一枚。©Antonio Maria Fantelli

農業が盛んなプーリアの麦。ファーストルックにもディオールのアトリエによるゴールドの麦穂が輝いていた。

アゴスティーノ・ブランカ。©Antonio Maria Fantetti

彼は自分のアトリエを手描きを意味する「Dipinto a Mano」と命名した。 ©Antonio Maria Fantelli
ディオール メイクアップ クリエイティブ&イメージディレクターのピーター・フィリップスによるモデルたちのメイクは、自然な美しさが輝いていた。「肌は明るさと透明感を大切に、目元はアイラインで微妙に強調し、彼女たちの若く自然な美しさを際立たせることにしました」と語っている。

ルミナスな肌のモデルたち。今回ヘアはレースのスカーフ、あるいはティアラで全員小さくまとめられた。CROISIÈRE 2021, DIOR SHOW BACKSTAGE MAQUILLAGE DIOR CRÉÉ ET RÉALISÉ PAR PETER PHILIPS PHOTOGRAPHE : VANNI BASSETTI POUR CHRISTIAN DIOR PARFUMS

ショーで使用されたアイテム一式。CROISIÈRE 2021, DIOR SHOW BACKSTAGE MAQUILLAGE DIOR CRÉÉ ET RÉALISÉ PAR PETER PHILIPS PHOTOGRAPHE : VANNI BASSETTI POUR CHRISTIAN DIOR PARFUMS

マスカラ ディオールショウ アイコニック オーバーカール 090を手にするピーター・フィリップス。CROISIÈRE 2021, DIOR SHOW BACKSTAGE MAQUILLAGE DIOR CRÉÉ ET RÉALISÉ PAR PETER PHILIPS PHOTOGRAPHE : VANNI BASSETTI POUR CHRISTIAN DIOR PARFUMS
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出発は女性から。マリア・グラツィア・キウリのディオール。
réalisation : MARIKO OMURA
この記事の元URL: https://madamefigaro.jp/paris/200803-dior-cruise.html