レオノール・ボラック、30歳のエトワールが思うこと。

パリとバレエとオペラ座と。

フランス国内の劇場は1月末まで閉鎖中です。公演についての最新情報はパリ・オペラ座のサイトにてご確認ください。
www.operadeparis.fr

パリ・オペラ座の仕事。

昨年9月22日に開催されるはずだったパリ・オペラ座の2020〜21シーズン開幕ガラ。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、1月27日に延期された。ガラのプログラムは恒例のデフィレ、『グラン・パ・クラシック』(グゾフスキー)、『The Vertiginous Thrill of Exactitude 』(フォーサイス)、『エチュード』(ランダー)。『グラン・パ・クラシック』を踊るふたりの衣装はシャネルによるものということで、これは楽しみな話題だ。また、2月4日から27日までに公演が予定されていたオハッド・ナハリンの『Sadeh21』の創作が不可能となったため、代わってトリプルビルの『ロビンス/フォーサイス/ランダー』がプログラム入りした。ダンサーたちは12月半ばから年間年始休暇を挟み、これらのリハーサルに励む毎日。彼ら同様、バレエファンもこの公演実現を祈るばかりである。

オペラ・バスティーユで予定されていた年末公演『ラ・バヤデール』は劇場封鎖ゆえ、中止に。その代わり、無観客の劇場で3配役による3幕、というユニークでゴージャスなライブ公演が12月13日に有料配信された。第1幕でガムザッティ役を踊ったのは、エトワールのレオノール・ボラック。昨年のパリ・オペラ座来日公演の際に『ジゼル』の主役、『オネーギン』のオリガ役で、踊りだけでなく演技面でも注目に値する仕事を見せた彼女だが、このガムザッティ役も見事な役作りで作品に深みを与え、エトワール任命からはや4年が経過した彼女の成熟ぶりを感じさせた。公演『ロビンス/フォーサイス/ランダー』では3作品に配役されていることからもわかるように、間違いなくオペラ座の期待を担うエトワールである。昨年30歳を迎えたレオノール。女性として、ダンサーとしての充実した日々を語ってもらおう。

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レオノール・ボラック photo:Julien Benhamou(@julienbenhamouphotographe

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邪魔者は消せ ! 『ラ・バヤデール』、ガムザッティの役作り。

「12月13日のライブ公演は、12月5日の初日に向けて稽古を重ねたダンサーたちの申し分のない仕事を見せる機会となりました。観客のいない舞台で踊るのは、とりわけ拍手がないのが奇妙に感じられたけど、3配役で公演を分かち合い、とても楽しめるものでした。 私は第1幕のガムザッティ役なので演技は見せられても踊りはなく……でも、舞台に立てるということですでに満足だったし、それに、パリ・オペラ座バレエ団のインスタグラムでのアドベントカレンダーで私の第2幕のヴァリアッションのリハーサル映像が公開されたので、まあ、これでちょっと挽回 !という感じでしょうか(笑)」

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オペラ座バレエ団のインスタグラム(@balletoperadeparis)のアドベントカレンダーでは『ラ・バヤデール』のリハーサルが日替りで公開された。12月20日は、第2幕のガムザッティのソロを踊るレオノールのリハーサル映像だった。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

「ガムザッティは私にとって初めての意地悪女でしたけど、この役、とっても気に入りました。彼女には、甘やかされた娘というイメージを描きました。地位も権力も財力もあるラジャ(藩王)の愛娘で、何をしても許され、すべての権利を有していると思っています。自分の思いどおりにゆかないことがあるなんて、彼女の頭の片隅にもないこと。だから競争者(ニキヤ)を消す、というのは彼女にとってごく自然な発想なんです。高い自尊心が傷つけられたかもしれないけど、ニキヤに対してジェラシーなどはまったくなし。たかが貧しい水甕持ちに過ぎないのだから。そのくせ自分の依頼を拒むなどヒエラルキーを無視したとんでもない厚かましい娘だし、自分の道の邪魔をするなんて !  ニキヤを抹殺、といら立つのですね」

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左:『ラ・バヤデール』第1幕より。肖像画を見て、父が決めた婚約者ソロルに満足するガムザッティ。 右:ソロル役のジェルマン・ルーヴェと。photos:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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年末公演の配役において、レオノールのガムザッティに対するニキヤ役はリュドミラ・パリエロだった。ドロテ・ジルベールとジェルマン・ルーヴェの組のガムザッティ役は、ヴァランティーヌ・コラサント。彼女はアマンディーヌ・アルビッソンとユーゴ・マルシャンの組でもガムザッティに配されていた。公演に向けての稽古で、レオノールはしたがってリュドミラとリハーサルを重ねたのだ。

「13日のライブで、ヴァランティーヌが第1幕、第2幕の両方でガムザッティを踊ることはできないので、私がドロテたちと、ということになったのです。リュドミラとドロテでは、私の反応も異なるのは当然だけど、ガムザッティはもともとニキヤに目を向けても、ニキヤを見ているわけではないのです。甘やかされた娘として、ニキヤがどう感じるかなんて無視していますから。ニキヤに視線を投げかけるのは威嚇のためだけ。だから、ニキヤ役がリュドミラからドロテに変わっても、さほど私には問題ではなかった」

「公演の録画ってストレスが生じることなんですよ。いつ観客が私の表情をしっかりと見ることになるクローズアップがなされるのかがわからないので……。この意地悪なガムザッティ役は日頃の役柄とは異なり、また日常の暮らしで意地悪な視線というのは私には無縁。だから年末公演のために全幕の稽古をしている時から、ずっと表情の仕事を続けていました。とりわけ怒りの感情について。というのも、私はむっとするより悲しいと思うことのほうが多く、怒りを覚える状況でも怒りがこみ上げるより前に、気持ちは悲しみへと向かう。だから、周囲で見かけた怒りっぽい人を見本にしたり、別人になったつもりで怒りがこみ上がってくるのに任せる仕事をしたのです。なかなか楽しかったですね。少し苦しめられただけなのに、それが怒りとなってどんどん盛り上がっていく、というのは私にはまったくないことなので……。年末公演で全幕を踊ることを目標に、顔のラインを意識した表情の仕事をしてあったので、13日の録画の際には特に表情を意識することなく舞台で演じました」

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『ラ・バヤデール』第1幕。ソロールをめぐりニキヤ(ドロテ・ジルベール)とガムザッティが熾烈に争う有名なシーン。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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ニキヤを抹殺!とポーズするガムザッティ。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

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春の長い外出制限期間中、パリのアパルトマンに閉じ込められていたレオノールだが、柔軟性、筋力、回復力といった身体能力のレベルを下げない努力をし、満足のいく結果が得られたそうだ。その後、夏のヴァカンスがあり、その間も身体の仕事をしたのだが……。

「8月末にオペラ座でクラスレッスンが再開し、それは問題なかったのだけど、いざ『眠れる森の美女』のパ・ド・ドゥのリハーサルが始まるや、長時間ポワントの仕事から遠ざかっていた期間の後で、これは辛かったですね」

このパ・ド・ドゥは10月のプロセニアム公演『ルドルフ・ヌレエフ』のためで、彼女がこれをオペラ座で踊るのは相手役のジェルマン・ルーヴェ同様、初めてのことだった。あいにくと公演半ば、彼女の私生活のパートナーが感染したことにより、彼女自身は検査結果が陰性だったものの、濃厚接触者として自宅隔離となり、公演の半分は踊れず。これはおおいなる失望とフラストレーションだったと、彼女は振り返る。

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10月、パリ・オペラ座の公演『ルドルフ・ヌレエフ』でジェルマン・ルーヴェと『眠れる森の美女』からのパ・ド・ドゥを華やかに踊ったレオノール。photo:Svetlana Loboff/ Opéra national de Paris

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon

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