最果タヒから見えるパリ、パリの詩。

私のパリ

フォトグラファーやフラワーアーティスト、デザイナーなどクリエイターのパリにまつわる作品とエッセイを紹介していく連載「私のパリ」。今回は詩人の最果タヒに、「私のパリ」をテーマに書下ろしを依頼。

 

パリの詩

猫を追いかけていれば辿りつくのがパリの街。きっと、ほんとうのパリには、そうやってしか辿りつかない。空ではまっしろの飛行機が粉砂糖のように溶けてきえる。白黒のちいさな猫は、塀の向こうがわに行ってしまって、もう帰りかたがわからない。この街には、わたしの部屋はない。この街には、わたしのための花も、わたしのための恋人も、わたしのための親戚もいない。パリ生まれのわたしが、分身としてどこかで生きているのかもしれないけれど。そんな可能性が余計に、ここにいるわたしをにせものにする。

歩いていれば、歩いていくうちに、本当はただ花束に顔をうずめていっているだけのような気もして、立ち止まっていた。あなたが生まれてきてくれて嬉しいと、ずうっとむかしにもらった花束を、まだわたし、抱えていたんだろうか。うつくしい街。わたしのいない街。けれどわたしの、きえない花束。

 

パリに憧れる人の作品や言葉を通じて、わたしはパリを見ていた―

 

詩人/最果タヒ

パリに憧れる人の作品や言葉を通じて、わたしはパリを見ていたし、だから、パリにわたしが抱く感情は自分自身のものなのか、誰かの思いに引きずられたものなのか、もはやわからない。けれど同時に、国際ニュースの中で、パリを見る。デモによって、テロによって、想像のパリとは全く違う姿になった街を見ていた。そんなときこそ、遠く、まるで夢の一部のように語られるその街も、自分が生きる現実の一部であることを、強く、意識する。パリという街をまだ、何も知らない。それでも、私はすでにその街と結びついているのだと思う。生きているから。この時代に。

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1986年生まれ。2004年より詩作を始め、07年、第一詩集で中原中也賞、15年に現代詩花椿賞などを受賞。詩人・小説家・エッセイストとして幅広く活躍する。2018年秋、詩集三部作に続く、最新詩集『天国と、とてつもない暇』(小学館刊)を刊行、最新刊はエッセイ集『百人一首という感情』(リトルモア刊)。

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