カラフルでグラフィック。ジャンヌの陽気な日常空間。
PARIS DECO
Jeanne Deroo/ジャンヌ・ドゥロー
ビューティージャーナリスト
このアパルトマンにジャンヌが引越してきたのは、いまから1年半前のこと。子ども部屋がふたつ設けられる、より広いスペースを求めて3区から10区へと北上したのだ。かつてはオフィスだったスペースを居住空間につくりあげて、と彼女が語る。なんだか聞いたことのある話。ジャンヌのアパルトマンは以前紹介したロゼアナのデザイナーのアンヌ=フルール・ブルドゥウーと棟は異なるけれど、偶然にも同じアドレスにある。アンヌ=フルールも二児の出産をきっかけに引越しをし、かつてオフィスだった場所を大改装して暮らしている。彼女の家が白い壁を生かしたミニマルな内装であるのに対し、ジャンヌの家はグラフィック&カラフルなのが面白い。これはパリでもちょっと珍しいアパルトマン。ふんだんな写真で紹介しよう。
驚きのエントランス。棚の中央のC’est la fête(さあ、お祭り騒ぎだ!)は楽しみ上手なジャンヌとパトリッツィオのスローガンのようなもの。
タイルにこだわったバスルーム。アート作品を家中のあちこちに飾っている。
ストライプのエントランス
彼女のご主人は、クリエイティブエージェンシー Al Denteを率いるパトリツィオ・ミチェリ。ふたりの間には4歳の長男がいる。もうじきふたり目の男の子のママになるジャンヌが暮らすのは、扉を開けた瞬間に驚きが待っているアパルトマンだ。エントランススペースは壁のみならず収納家具もラジエーターカバーも、さらに天井もブルーと白のストライプで覆われている。以前のアパルトマンのエントランスもストライプの壁紙だったが、縞の幅も狭く、色も穏やかなものだった。ここでは色も強く、縞の幅も広く、実にグラフィックである。
エントランス内、収納も扉も、さらに天井まで何もかもを壁と同じイヴ・クライン・ブルーのストライプ。
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ベンチのあるバスルーム
「ストライプにこだわっているのではなく、私たちふたりともプリントやグラフィックなエレメントが好きなのね。バスルーム、そしてトイレもぜひ見てほしいわ。Popham(ポップアム)というモロッコのタイルを使っているの。妹がインスタグラムで見つけたのだけど、幸いなことにモロッコから取り寄せなくてもフランスに取り扱い店があって……」
シャワールーム。タイルのフォルムを生かした使い方をしている。
ジャンヌが案内してくれたバスルームはピンク系でまとめられていて、面白いことに一角にベンチが設けられている。彼女がアパルトマンでいちばん気に入っているのがこのバスルーム。息子のオルソが入浴している間、彼女はベンチに座って読書をするそうだ。また彼女が入浴している時には、オルソがここに座って彼女とおしゃべり。素敵な母と子の時間では? シャワールーム、それにトイレにもジャンヌとパトリツィオは遊び心を大いに発揮。なんとも楽しいアパルトマンである。
ピンク系でまとめたバスルームに、ベンチを作った。ジャンヌのお気に入りの時間がここにある。
ヴェルサーチの壁紙のリプロダクションをトイレ全体に。窓枠も同じグリーンにペイント。
バスルーム脇のトイレ内もご覧のようにグラフィックに。床のタイルもポッパム。
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寛ぎのリビングルーム
「越してくる前に暮らしていたのも、ここと同じく20世紀初頭のオスマニアン建築だったから、次はロフトタイプのアパルトマンがいいと思ってるの。いま、物件を探しているところ。工事が必要でしょうから、いま探しても、新しい場所で暮らせるのは2年後くらいでしょうね。ここが気に入らないというのではなく、私たちふたりとも、変化があるのが好きなの。動くことが全然苦じゃない。もっとも、小さなアレコレを荷詰めするのが、ちょっと面倒だけど。だから物が増えないうちに引越しをしてしまうのも、手ね」
バービー人形はイタリアの女性アーティストの作品で、パトリツィオが母親から贈られたもの。ジャンヌの幼い従姉妹が来ると、これで遊ぶそうだ。
前のアパルトマンで使っていた家具が多いが、ここの新顔はリビングルームの銀糸が混じり織りされたカーペットである。
「ジャイプールで見つけて、パリまで持ち帰ったのよ。このサイズでしょ。どれだけ大変だったか!! エア・インディアではこうした旅行者に慣れてるのでしょうね。巨大なトランクに詰めて運んだのだけど、彼ら、全然驚いた様子がなかったわ」
ピエール・ポランなどのデザイン家具と旅先からの品が混じり合うリビングルーム。村上隆の花クッションをテーブルに仕立て、暖炉の上には杉本博司の劇場シリーズの写真を。
壁一面の書棚の中央にもベンチをこしらえた。少々モロッコ風で、壁紙はグッチ。ザンジバルの刺繍のクッションがよく似合っている。旅先からの品がうまい具合にコーディネートされ、パリ的インテリアを作りあげている。この家の内装はパトリツィオが多忙だったため、ジャンヌが主に手がけたそうだ。
「ふたりとも色が好きで、インテリアを巡って衝突することはないわ。部屋づくりで私が求めているのは、陽気でカラフルな雰囲気。でも、同時にコクーニング空間であることね。いろいろな品があるけど、上手にミックスすることが大切よ」
書棚を作り、その中にベンチを置いた。グッチの壁紙とザンジバルのクッション、そして太陽のようなランプがモロッコ的雰囲気を醸し出している。
右の陶器はシシリアで購入したもの。左の釣鐘ガラスは南仏で活動するアーティスト、シャルロット・ブーリュによる作品。ジャンヌとパトリツィオの思い出の写真をベースにクリエイトされている。
リビングルームは140平米あるアパルトマンの中で、ジャンヌが1日の中でもっとも多く時間を過ごす場所である。海外や地方に出かけないパリで過ごす週末や、アペリティフタイム、そしてこれからの季節は、燃える暖炉の周辺に家族や仲間と集まって……。
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明るいダイニング・キッチン
パトリツィオはAl Denteというパスタやソースのブランドの創設者でもある。ジャンヌも彼も大勢一緒に食事を楽しむことが好きなので、毎週、最低一度は8〜10名くらいのディナーを催している。明るい雰囲気を求め、ダイニング・キッチンのストライプは黄色しかありえなかった、とジャンヌが語る。カーテンもスヴェンスク・テンのジョゼフ・フランクの陽気でカラフルなテキスタイルを選んだ。
このスペースのために、新しくKnollのサアリネンのテーブルを購入した。椅子は北欧のアンティーク。ジャンヌは食卓の周囲の人の顔が見えるように、小ぶりの花器を使って花を飾る。
ジョゼフ・フランクのテキスタイルが黄色のストライプにマッチしている。
叔母の結婚パーティでたまたま一緒に料理を担当したのが縁で、現在に至っているふたり。食事の時間を大切にする彼らは料理を作るにも、人を招くにも極めて快適なダイニング・キッチンを作り上げた。キッチンの後方に冷蔵庫も含め、さほど目に美しくないものを収める小さなスペースを設けたのはよいアイデアだ。これによって、ダイニング・キッチンの棚にはきれいな食器類だけを並べられるので、ジャンヌは大満足。。
ダイニング・キッチンの棚。アパルトマン内、あちこちに奈良美智の作品が見つけられる。
白い扉の奥が、さまざまな品を収納するユーティリティだ。
ダイニング・キッチンの食器棚の上で、アート作品と果物がハーモニーをなしている。
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子ども部屋
キッチンもゼロから作り上げたが、子ども部屋についても同様。だだっ広いスペースをプレイルーム、長男オルソの部屋、そしてゲストルームの3つに区切った。このゲストルームはもうじき生まれてくる次男の部屋へとこれから内装をやり直すところだ。天蓋ベッドにして、壁は淡いグリーンに塗ろうとジャンヌは考えている。長男オルソの部屋はブルー。彼は自分の部屋が大好きだという。
オルソの部屋。壁には家族の写真やオルソが描いた抽象画(右下)を飾って。
子ども部屋が面するプレイルームは窓がないことから、ジャンヌは工事の際に一計を案じた。夫妻のベッドルームのガラスをはめ込んだドアが不要になったので、そのドアを子ども部屋との仕切りの壁の上方に再利用。子ども部屋の窓から差す光が、このドアのガラスを通じて、プレイルームまで届くことになった。オルソが汽車遊びをするとき、このプレイルームの床置きのベンチがジャンヌの居場所である。そして、時々ふたりは居場所を交換するそうだ。
プレイルーム。壁にはパトリツィオがコレクションするアート作品がオルソのために飾られている。ここにも奈良美智の作品が。
プレイルームの一角に置かれたソファ。
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白い壁の静かなベッドルーム
以前のアパルトマンでは菱形の壁紙が寝室に貼られていたけれど、こちらは真っ白な壁に囲まれた落ち着きのある空間にまとめられている。ほかのスペースが賑やかなので、この部屋には静けさを求めたという。ミッソーニのレインボーカラーのカーテンと、インドで見つけた白地にプリントされたグリーンのヤシの木が唯一色を添えている。
ジャンヌが家族や友達と過ごす愉しい時間が目に見えるような、陽気な雰囲気のアパルトマン。引越し先にどんなインテリアを作り上げるのか、ちょっと気になる。「次に暮らす家にストライプがあるかどうかはわからないけれど、色があふれる家になることだけは確かね」
エントランススペースの左手に夫妻のドレッシングと寝室がある。そのスペースの入り口ではモロッコのスークで見つけた白いランプシェードから漏れる灯りが、オスマニアン建築の特徴である装飾に美しい模様を描いている。
静謐な夫妻の寝室。
マラケシュで掘り出したランプとテーブル。
ミッソーニの虹色のカーテンに合わせたのは、ジャイプールで見つけたヤシの木のモチーフのカーテン。photos:Mariko OMURA
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。