中間報告!カンヌ国際映画祭で話題の5作品を紹介。
カンヌもいよいよ後半戦に突入したので、中間報告をしておきたい。コンペティション部門に選出された22本中、現在までに14本が上映された。下馬評で比較的高い評価を得ているのが、パヴェウ・パヴリコフスキ監督『Fatherland』、濱口竜介監督『急に具合が悪くなる』、ジェームズ・グレイ監督『Paper Tiger』、クリスティアン・ムンジウ監督の『Fjord』、ナ・ホンジン監督の『Hope』あたりだ。
『Fatherland』は、1949年、亡命から帰国した文豪トーマス・マンと娘エリカが、廃墟のドイツを車で横断するロードムービー。祖国、家族、罪責を凝縮され、モノクロ映像美で問う歴史劇だ。『イーダ』で米アカデミー賞外国語映画賞受賞したポーランド出身のパヴリコフスキは、『COLD WAR あの歌、2つの心』で、2018年のカンヌで監督賞受賞。2019年にはコンペ審査員も務めており、映画祭開催前からパルムドール候補として名前が出ていたひとり。エリカ役のザンドラ・ヒュラーは2023年のカンヌでパルムドールを受賞した『落下の解剖学』とグランプリを受賞した『関心領域』の2本に出演し、ヨーロッパ映画界でも注目の俳優。今回も女優賞候補である。

濱口竜介監督作は日仏俳優の見事な競演。
『寝ても覚めても』が2018年のコンペ、2021年には『ドライブ・マイ・カー』で脚本賞を受賞している濱口竜介監督は、『急に具合が悪くなる』で3度目のコンペ入り。人間らしいケアを理想に掲げながらも、慢性的な人手不足や制度疲労に苦しんでいるフランスの介護施設の運営責任者マリー=ルー(ヴィルジニー・エフィラ)と、末期ガンに侵された舞台演出家・真理(岡本多緒)の偶然の出会いや連帯、魂の交流を描く。演劇、身体の変化、他者との対話といった要素を積み重ねながら、ケアの本質に迫る。セリフ回しによる“濱口節”も健在だ。


ハリウッド不在といわれる今年のカンヌで、アメリカ人監督として期待されているのがジェームズ・グレイ。『Paper Tiger』は、1980年代のニューヨーク・クイーンズを舞台に、ロシアンマフィア絡みの危険な計画に巻き込まれる兄弟を描く濃厚なクライムドラマ。グレイらしい家族の絆と道徳の崩壊を描くが、兄弟を演じるアダム・ドライバー、ジェレミー・ストロングという映画ファンに熱烈な支持を得ている演技派俳優のケミストリーは期待どおり。米国配給はNONE、制作にはPlanBも入っている。

2007年の『4ヶ月、3週と2日』でパルムドール、2012年の『汚れなき祈り』で脚本賞、2016年の『エリザのために』で監督賞を受賞し、審査員経験もあるルーマニアの名匠クリスティアン・ムンジウ。ノルウェーのフィヨルドの村を舞台にした『Fjord』は、ムンジウ初の英語映画としても注目を集める。移住してきた敬虔なクリスチャンの夫婦が、娘の身体に痣が見つかったことから虐待の疑いをかけられ、裁判にまで発展していくさまを描く。家族への介入は国家による暴力と感じる夫に、宗教コミュニティ内部でも疑念と分断が広がっていく。ルーマニア系の父親役セバスチャン・スタン、母親役を2021年の『わたしは最悪。』で女優賞を受賞しているノルウェー出身のレナーテ・レインスヴェが演じている。

刺激的な作風で注目される韓国のナ・ホンジン。
前半で最もインパクトがあった作品が韓国の鬼才ナ・ホンジンの『Hope』だ。舞台は、南北軍事境界線に近い辺境の港町ホープ・ハーバー。町外れで正体不明の存在が発見され、最初は「虎が出た」という通報として、地元警察署長(ファン・ジョンミン)が対応にあたるが、やがてモンスターを仕留めようとする(チョ・インソン)や若手警官(チョン・ホヨン)も事件に巻き込まれていく。マイケル・ファスベンダーやアリシア・ヴィキャンデル、テイラー・ラッセルらも地球外生命体として出演。SF、サバイバルアクション、民族スリラー、西部劇などジャンルミックスが特徴だが、ここまでエンタメ度が高い作品がコンペに入っていることは珍しい。それだけナ・ホンジンの作家性に期待が高まっているということだろう。ナ・ホンジンは、『チェイサー』が2008年アウト・オブ・コンペ、『哀しき獣』が2011年の「ある視点」部門、『哭声/コクソン』が2016年のアウト・オブ・コンペで上映されているが、コンペ選出は初となる。今年の審査員長パク・チャヌクの作風は彼とは大きく異なるが、最終日の受賞結果も大いに気になるところだ。ちなみに、受賞結果は審査員団の協議によって決定されるため、批評家たちの星取りなどでの下馬評とはかけ離れることも多い。

- text: Atsuko Tatsuta
- editing: Momoko Suzuki