コンペ外で輝きを放った日本映画の未来。
文・立田敦子
メインのコンペティション部門以外でも、昨年に引き続き日本映画が目立っていた今年のカンヌ国際映画祭。「カンヌ・プレミア」部門には黒沢清監督の『黒牢城』、「ある視点」部門には岨手由貴子監督の『すべて真夜中の恋人たち』とコンスタンティナ・コッツァマーニ監督の『Titanic Ocean』。併設部門である「監督週間」の長編部門には門脇康平監督のアニメーション『我々は宇宙人』、短編部門には矢野ほなみ監督『エリ』が上映された。
熱い反応を集めたアニメ映画。
特に、初めて監督を手がけた若い才能がいきなりカンヌという最高峰の国際映画祭でデビューする意味は当人にとっても大きいことだが、日本映画界の可能性も提示していたように思う。中でも熱い反応を集めていたのが、門脇康平監督のアニメーション映画『我々は宇宙人』だ。

小学生時代に出会ったふたりの少年が、人生の長い時間を通してすれ違い続ける物語。特に興味深いのは、本作が友情を描きながら同時に極めて残酷な物語でもあることだ。子どもの頃の小さな裏切りが、人生の長い時間の中で消えない傷になっていく。その感覚は日本映画らしい繊細さを持ちながらも、普遍的な痛みとして共感を得た。是枝裕和監督の『怪物』やルーカス・ドン監督の『CLOSE/クロース』を引き合いに出し、少年期の痛みとその影響を描く作品ととらえる批評家もいた。
門脇監督はもともとミュージックビデオや短編アニメーションで注目されてきた作家だが、本作では時間の流れそのものを描くような繊細な演出が際立っている。人物の表情を説明的に見せるのではなく、空気の揺らぎや沈黙、言葉にならない感情を積み重ねていく。
近年、日本のアニメーションは世界的な人気を誇っているが、その一方でカンヌでは長らくメインストリーム的アニメ以外の作品が紹介されにくい状況も続いていた。しかし『我々は宇宙人』は、いわゆる商業アニメともアートアニメとも異なる独特の感触を持っている。海外の映画関係者からも、これは日本アニメの新しい世代だという声が聞こえてきた。

わずか12分の作品でカンヌを魅了。
短編部門では、矢野ほなみ監督の『エリ』も上映された。わずか12分という短い作品ながらその世界観は鮮烈だった。短編映画は表現を磨き、作家性を確立するという意味でも貴重なアートフォーム。短編部門で頭角を現し、コンペティション部門へ羽ばたいたカンヌ育ち”の監督たちも多くいる。
また「ある視点」部門に選出され、高く評価されたギリシャのコンスタンティナ・コッツァマーニ監督による『Titanic Ocean』も新たなる日本映画界の可能性を感じさせる1本だ。舞台は、日本の人魚養成学校。少女たちはシリコン製の尾ひれを身につけ、大きな水槽で魚たちと泳ぐショーでパフォーマンスをするプロのマーメイドを目指して訓練を受けている。設定だけを聞くとポップでキッチュな青春映画を想像するかもしれないが、本作は、その幻想的なビジュアルの奥に極めて繊細な少女たちの欲望や孤独、競争社会の残酷さを潜ませている。コッツァマーニ監督は、ギリシャ由来の神話性と日本的なアイドル文化や可愛さの美学を混ぜ合わせながら、身体とアイデンティティを巡る現代的な寓話を作り上げていた。
近年のカンヌではジュリア・デュクルノー監督の『Raw』や2021年パルムドール受賞作『Titane』以降、身体変容をテーマにした女性監督たちの作品が強い存在感を放ってきたが、『Titanic Ocean』もまたその流れに連なる一本だろう。『Titanic Ocean』は日本の製作会社も参加しているが、公式上の製作国はギリシャ、ドイツ、ルーマニア、フランス、スペインで、監督もギリシャ出身だ。厳密にいえば、日本映画といえないかもしれない。しかし同時に日本文化を外側から見つめる視線が非常にユニークで、海外共同制作の広がりを大いに期待させる1本といえるだろう。日本映画周辺には、ジャンルや国籍を横断しながら新しい映像言語を探ろうとする動きが確実に存在している。
- text: Atsuko Tatsuta
- editing: Momoko Suzuki