バカラ、モルテーニ、三澤遥――ミラノデザインウィークで存在感を放った注目プロジェクトを追う。
文・猪飼尚司
世界最大のデザインイベント、ミラノデザインウィークは、単なる今年の最新作やトレンドを発表する場ではなく、人の感性を震わせ、刺激的な文化交流が頻繁に行われる大切な機会だ。リポート第2弾では、話題となった意欲的なプロジェクトの数々を紹介する。

01. Baccarat/バカラ

1764年創業の伝統を持つバカラは、幻惑的なインスタレレーション〈クリスタル・クリプト〉を展開。薄暗い空間の中央には、名作の復刻を載せた船のようなかたちの展示台が置かれ、目の前のモニターにはバカラのマニュファクチュール(製造工場)を舞台にしたパフォーマンスが映し出されている。本展をディレクションしたエマニュエル・ルチアーニは、ものづくりの現場を訪れた際に感じたSFの世界にも似たバカラの神秘性と未来感を表現したものだと語る。また、英国人デザイナーのベサン・ローラ・ウッドと協業したモジュール型シャンデリア〈ミル・フルール〉も新作として発表した。



02. Giobagnara/ジョバニャーラ

高品質なレザーによる革製品を代々作りつづけるイタリア・ジェノヴァのブランド「ジョバニャーラ」。卓越した職人技の新たな可能性を見出すべく、ゲイリー・ヒュームとマルティノ・ガンパーとともに、初のアート作品づくりに挑戦した。最も得意とする象嵌とカラーレザーを、2人のアーティストが独自の視点から読解。パーティション、花瓶、トレイ、鏡、キャビネット、ウォールパネルなど、実用性も兼ね備えたバリエーション豊かなコレクションへと発展させた。



03. Molteni&C/モルテーニ

ミラノの北、ジュッサーノに本工場を構えるイタリアの総合インテリアブランド、モルテーニ。システム収納を得意としながらも、世界を代表するデザイナーとコラボレーションを手掛けた家具シリーズも次々に発表。今年はキッチンの新作や初となるバスコレクションまで加わり、いまや一つの家すべてを補えるほどの力を備えたビッグブランドに成長している。今年はその総合力がより明確に現れ、会場となった旗艦店、パラッツォ・モルテーニが荘厳な邸宅のような装いに包まれていた。



04. YVES SALOMON ÉDITIONS/イヴ・サロモン・エディション

フランスの毛皮ブランド、イヴ・サロモンは、インテリアデザイナー、マイケル・バーゴとともに企画展〈Kentucky Paris:An American Private Room〉を開催。ニューヨークとパリに拠点を持つバーゴが、アメリカのキルト文化とフランスのものづくりの技を融合しながら、伝統的なパターンを毛皮で仕立て、スローやベッドカバー、タペストリーなどに展開。さらに、アメリカを代表する3人のデザイナー、フランク・ロイド・ライト、ポール・フランク、エーロ・サーリネンの名作家具と組み合わせていった。



05. 三澤遥

日本デザインセンターの三澤遥は、自身初となるヨーロッパでの個展〈bit by bit〉をADI Design Museumで開催。デザインの意義を自問自答しながら、ひたすら身近な素材の観察、分解、再構築。紙に動きや奥行きが生まれ、鉛筆は丸や三角、らせんなどに変形するなど、幼い子供でも触れたことのあるものに、まったく異なる表情と感覚を与えていく。専門知識や特別な美的感覚がなくとも、デザインの奥行きや可能性を体感できる内容は、年代や国籍を超えて来場者たちの興味をそそっていた。



06. NM3

近年、多くのブランドやデザイナーとタッグを組みプロジェクトを発表。各方面から引っ張りだこのデザインユニット、NM3。今年も多くの共同企画に参加しつつ、ミラノ市内にある自身のアトリエでは〈CASA NM3〉と題した企画展を開催。得意とするステンレス素材のカスタム&モジュールの展開力を最大限に発揮し、寝室、キッチン、ラウンジ、書斎と4つの空間に分けた空間を、オリジナルデザインの家具や設備でフルスタイリングしていった。先鋭的で大胆なイメージがあるNM3だが、このように日常の暮らしを描き出す安定感があることもしっかり認識できた。



07. Muller van Severen/ミュラー・ヴァン・セヴェレン

活動開始から今年で15年目を迎えるベルギーのデザインデュオ、ミュラー・ヴァン・セヴェレン。これまでの軌跡を振り返りながら、書籍〈A Lot of Work〉を上梓するとともに、企画展〈Silhouettes: Celebrating 15 Years〉を開催。会場に展示された抽象的な形をした巨大なキャンドルホルダーは、フィン・ミュラーとハネス・ヴァン・セヴェレンが、各々個人として制作した初期の家具や椅子、照明、花瓶などのシルエットの一部を切り取ったもの。その輪郭が合体することでデュオとしての仕事に昇華した様子をインスタレーションで表していた。



08. Barber Osgerby/バーバー・オズガビー

ミラノトリエンナーレで、大々的な回顧展〈Alphabet〉を行った、イギリスのバーバー・オズガビー。結成から30年にわたるキャリアを振り返りつつ、90年代半ばから最新作までを年代順に構成。作品のみならず、スケッチやアイデア、プロトタイプなども展示し、いかに彼らがディテールにまで意識を及ぼしながら、丁寧なデザインプロセスを踏んでいるかを丁寧に解説した。ミラノデザインウィーク終了直後、ユニットを解散し、個別の活動をスタートするというビッグニュースを発表。新たなフェーズに入るための、金字塔となる展示であったとも言える。



- text: Hisashi Ikai