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VAN CLEEF & ARPELS
3つの作品と学問所跡の展示会場との深い共通性。【写真家ジュリエット・アニェルと、感性を磨く京都。】
ヴァン クリーフ&アーペルがサポートするフランス出身のアーティスト、ジュリエット・アニェルが、今年4〜5月に開催されたKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026に参加。自身の展示会場である有斐斎弘道館を出発点に、作品や創作のテーマと繋がる京都の場所を巡り、自然から生まれた日本文化の多様な姿と出合った。

Juliette Agnel
1973年、フランス生まれ。国立高等美術学校とパリ第一大学で美術と民俗学を学ぶ。実験的手法を含む写真表現を通して、現実と想像、自然と人間の境界、世界が発する振動を探求する。
今年も春の京都を舞台に約1カ月の会期で行われたKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026。その展示会場のひとつ、有斐斎弘道館では、フランス出身のアーティスト、ジュリエット・アニェルによる展覧会『光の薫り』が開催された。長年にわたり、彼女は写真をとおして、植物や鉱物、人と自然の境界に宿る目に見えない気配を探ってきた。

『The Scent of Light 光の薫り』
4月18日〜5月17日に開催されたKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2026で3つのシリーズの作品を展示。会場となった有斐斎弘道館の床の間には、皆川淇園の掛け軸とジュリエットがコレクションする石が置かれていた。「開物学を提唱した淇園とジュリエットの創作に、“ものの内部に入り込んでいく”共通性がありました」とは、セノグラフィを手がけた建築家の竹内誠一郎。
庭から差し込む光が障子に緑の陰影を映し出す展示空間には、ふたつのシリーズが展示された。そのひとつは西アフリカ・ベナンの庭園で夜間撮影された『ダホメの精霊』だ。約4500年前、ダホメ・ギャップと呼ばれる急激な気候変動により、熱帯雨林地帯の中に乾燥したサバンナ地帯が形成された。特異な環境に根付いた植生は生き残り、いまも研究されている。

『Dahomey Spirit ダホメの精霊』(2024)
西アフリカ・ベナンの芸術財団の研究用庭園に生息する、本来その風土では育たないサハラ砂漠特有の植物を夜間に撮影。鮮やかな色の光とスモークで、ブードゥー教発祥の地に残る幻想的な気配を表現した。「会場の庭と写真の植物が視覚的に交差する場所に、アンバーのアクリル什器で植物とスモークが下から立ち上る雰囲気を再現しました」(竹内)
「この地域はかつてダホメ王国と呼ばれ、ブードゥー教の発祥地といわれます。自然を聖なるものとするアニミズムのイメージを取り入れ、カラーの照明とスモークを使って植物の立ち上がる気配を表現しました」とジュリエットは語る。
一方、哲学者ロジェ・カイヨワの思想に共鳴した『石の感受性』シリーズでは、小さな石それぞれにアイデンティティが宿ることを感じとり、石の表情を捉えるポートレートを撮影した。
「ヴァン クリーフ&アーペルの主宰するレコール ジュエリーと宝飾芸術の学校で、私の展示と同じ会期で開催されたロジェ・カイヨワの鉱物コレクションにまつわる展覧会にインスパイアされました。小さな石それぞれに宇宙が内包されていることを感じ、スケールの概念を取り払う展示にしたいと思いました」と語る。

『Susceptibility of Rocks 石の感受性』(2025)
フランスの作家・哲学者のロジェ・カイヨワの思想とその鉱物コレクションに共鳴し、鉱物の持つ固有の表情をポートレートのように捉えたシリーズ。ソルボンヌ大学で20点の石を選び、4×5インチの大型カメラで半日かけて撮影。一見意外に思えるビビッドなブルーの背景が石の持つアイデンティティを際立たせている。肖像画が並ぶように展示された。
回廊のような細長い空間にずらりと並ぶ石のポートレートと、幻想的な植物のイメージ。鑑賞者が畳に座った姿勢で目を向けると、それらがみずみずしい庭の景色と視覚的に交錯するように設計されたセノグラフィも見事だ。
もうひとつの部屋では、今回来日してすぐ屋久島に飛んだジュリエットが、豊かな苔に覆われた森を撮影したモノクロームの映像作品『悠久』が上映された。屋久島では人の手の入らない野生の苔のエネルギーとそこに堆積した悠久の時間に惹きつけられ、雨の森を歩き続けたという。

『Eternity 悠久』(2026)
来日して真っ先に、16年間ずっと行ってみたいと思っていた屋久島に飛んだジュリエット。みずみずしい苔に覆われた深い森をスーパー8 という8mmフィルムカメラで撮影した映像作品は、あえてモノクロームに仕上げられ、フランス人音楽家クリフストル・ロドミストが作曲したオリジナルスコアが流れる。彼女自身が現地で体験した瞑想的な境地に誘われる作品だ。
「あるコレクターの助言で、14〜15世紀の日本の哲学者について調べたところ世阿弥の思想に辿り着いたんです。屋久島の苔に導かれて、世阿弥が言語化した“時間の永遠性”を直感的に見いだしたことに驚きました」と語ってくれた。

趣向を極めた主の茶席で、一期一会のもてなしを体験。

竹内誠一郎 Seiichiro Takeuchi
1983年、東京都生まれ。建築家。2006年に東京大学工学部建築学科卒業後、安藤忠雄建築研究所に所属。16年、竹内誠一郎建築研究所を設立。京都を拠点に国内外で活動する。

太田 達(茶名 太田宗達)Toru Ota
1957年、京都市生まれ。立命館大学 食マネジメント学部教授。老松当主・茶人。有斐斎弘道館理事として日本文化を探求し、伝承し続けている。
有斐斎弘道館は、江戸時代の儒者・皆川淇園が開いた学問所跡の文化施設。かつて円山応挙、伊藤若冲、長沢蘆雪ら江戸の人気絵師たちも集ったといい、いまも私塾の精神を継承し、現代の「知」と「美」を再生するサロンとして運営されている。ジュリエットと、セノグラフィを手がけた建築家の竹内誠一郎を迎えたのは、館の保存活動をしている太田宗達の茶席だ。茶の湯を軸に日本文化を総合的に探求する彼は、ジ
ュリエットの作品と対話をもとに道具や設えを考え抜いたという。

「展示と茶会を通して、深く自意識の奥に降りていく内省的な体験ができたことは光栄です。お茶の世界は私たちが生きている人生そのものだと思います。世阿弥の抽象的な言葉には深い含蓄があり、それは具体的な経験や物質世界に基づくのだと思います」とジュリエットは語る。これまでの植物や鉱物など自然との関わりと茶道の体験を通して、西洋と東洋の思想が邂逅し、彼女の感受性が強く揺さぶられたのだった。

有斐斎弘道館
Yuuhisai Koudoukan
京都府京都市上京区上長者町通 新町東入元土御門町524-1
075-441-6662
開)10:00〜16:30最終入館 不定休
https://kodo-kan.com/
KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭
https://www.kyotographie.jp/programs/2026/juliette-agnel/
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植物の鮮やかな色を引き出す、日本古来の植物染めの工房へ。
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- photography: Yoshiki Okamoto
- text: Chie Sumiyoshi
- coordination: Natsuko Konagaya