野沢温泉村で2泊3日の感動旅。雪の季節だけでは気付けなかった、湯のまちの魅力。

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長野県北部、毛無山の麓に広がる野沢温泉村。極上パウダースノーとして世界中のスキーヤーから絶賛されるエリアだが、実は雪のない季節こそ土地の魅力を味わえることをご存じだろうか。Booking.comの 「Traveller Review Awards 2026」では、「日本で最も居心地の良い都市」10選に7年連続で選出。そんな野沢温泉村の奥深い魅力を探しに、フィガロエディターが実際に巡った2泊3日の行程をご案内。

【DAY1】

13:00 過去の記憶を次世代へとつなぐ、野沢温泉蒸留所。

北陸新幹線で飯山駅へ。そこから車を走らせ温泉街に入ると、空気が一変した。老舗旅館、軒を連ねる商店、その合間を縫うように点在する13の外湯。スノースポーツを楽しみに訪れていた冬場とは違う、どこかのんびりとした湯のまちの日常が広がっていた。

そんな湯のまちの一角に佇む「野沢温泉蒸留所」に、まずは立ち寄る。広い倉庫のような建物に入ると、床から天井まで積み上げられたウイスキー樽の迫力に驚く。その先には、ジンやウイスキーをつくる巨大な蒸留設備が待ち構える。

この建物は、かつて地域の食を支えた缶詰工場を再生して造られたそうだ。近隣の住民たちは、畑で採れた野菜や山菜を持ち込んで缶詰にしてもらい、雪深く買い出しが難しくなる冬を乗り切っていたという。床のレールや鉄柱、壁に残された用途不明の文字には、工場だった頃の痕跡を垣間見る。メカニカルな佇まいのカウンターは、もとは缶詰の蓋を閉じるために使われていた機械だったそうだ。

ここでつくられるクラフトジンやウイスキーには、山に降り積もった雪や雨が地中深くへと染み込み、長い年月をかけて磨かれた湧水が使われている。野沢温泉の自然がたどってきた長い時間まで、一杯の中に閉じ込められているようだ。

角打ちのようなバーでは、杉、クロモジ、カキドオシなどを使った「NOZAWA GIN」や、山椒やレモンを取り入れた「CLASSIC DRY GIN」など、定番4種を飲み比べる「テイスティングフライト」を堪能。さらに、ジンづくりの過程で生まれる果皮を活用したモクテルも、見た目の華やかさだけでなく味わいも秀逸だ。どれも、グラス越しに野沢温泉の森や水を味わうような感覚があり、その土地らしさを映した一杯一杯に、すっかり魅了されてしまった。

野沢温泉蒸留所

住所:長野県下高井郡野沢温泉村豊郷9394
営業時間:月・木・金・土曜 12:00〜19:00、日曜 10:00〜18:00
定休日:火・水曜
https://nozawaonsendistillery.jp

15:00 村の台所、麻釜を訪ねて。

坂道をさらに上ると、勢いよく湯気が立ち上る源泉「麻釜(おがま)」が現れる。ここでは90度近い温泉が毎分約500リットル湧出し、大釜、丸釜、ゆで釜、竹のし釜、下釜と呼ばれる5つの湯だまりをつくっている。観光客は柵の外から眺めるが、源泉区域へ立ち入ることができるのは村民だけ。地元では「村の台所」とも呼ばれ、野菜や卵を茹でながら近所の人同士が情報交換する場にもなってきた。

野沢温泉には、長い時間をかけて形成された共同体の仕組みがある。豊富にあるお湯を自由に取るのではなく、共有物だからこそルールを設けて分け合う。地元の方の話によれば、湯量や温度を毎年調査し、旅館へ引く湯を一定のルールで管理するほか、地下水や温泉の無秩序な掘削を防ぎながら、貴重な資源を守ってきたという。

16:00 13の外湯で“お湯を借りる”。

野沢温泉村が「湯山村」の名で歴史に現れたのは、鎌倉時代中期の1272年。江戸時代初期にはすでに24軒の宿屋があったとされ、明治3~5年には2万4863人もの湯治客が訪れたという。現在のような観光産業が生まれるはるか以前から、人はこの地の湯を求めて山あいの村へやってきたのだ。

そしていま、野沢温泉には13の外湯が残り、入浴の場であるだけでなく、住民同士が言葉を交わすコミュニケーションの場としても大切にされている。また、6つの外湯には温泉を利用した共同の洗濯場が併設され、いまも村民が洗濯や野菜洗いに利用している。晩秋には、収穫した野沢菜を温泉水で一本ずつ洗う「お菜洗い」の風景も見られるそうだ。

こうしていまも村の日常として使われ続けているのは、江戸時代から続く「湯仲間」という仕組みのもと、それぞれの地域の住民が管理し、掃除や建物の維持まで自ら担ってきたから。村人にとって外湯は共有財産であり、共有する生活の場なのだ。

この土地には、「お湯を借りる」という独特の表現がある。そこにあるのは、この場所を日常として使い、守ってきた人たちへの敬意だ。入口の賽銭箱へ寸志を納めれば誰でも利用できるし、外湯巡りはこの土地を訪れる醍醐味のひとつ。だが、旅人である私たちこそ、“お湯を借りる”という感覚をもって訪れたい。

18:00 土地の循環を味わう、ハウス サンアントンのフレンチ。

その日の夜、ディナーに訪れた「ハウス サンアントン」は、野沢温泉という土地を食の側から知ることのできる場所だった。料理を手がける片桐健策さんは、もともとアルペンスキーの選手として活躍し、全日本選手権での優勝経験を持つ。17歳からはオーストリアでスキーに打ち込み、その後、料理の道へ転身。ザ・リッツ・カールトン大阪「ラ・ベ」などで研鑽を積み、現在は生まれ育った野沢温泉で厨房に立つ。

雪の状態や山の表情を身体で感じてきた片桐さん。雪国・奥信濃の土壌が育む旬の食材と、厳しい冬を越すために発達してきた発酵、乾燥、熟成といった食の知恵をふんだんに注ぎ込み、フレンチをベースにしながら現代の一皿へと組み立てている。

この店の哲学を象徴するスペシャリテが、こちらの「循環サラダ」。その日の野菜を約13種類使い、麻釜でゆでたものをはじめ、それぞれの持ち味に合わせて丁寧に火入れした素材がひと皿を彩る。ローストしたパプリカと自家製味噌のペースト、酒粕のマヨネーズとの相性も抜群だ。

片桐さんは、この料理の背景について、このように語る。
「山に降った雪や雨は、地中へ染み込み、長い年月をかけて水となります。その水によって野菜が育ち、山菜が育ち、人は料理をし、温泉にも入る。この大きな水の循環をひと皿に凝縮しています」

コースには、信州の蕎麦粉を使ったガレットに信州サーモン、キンジソウ、有機レモンなどを合わせた料理も登場。さらに、真っ黒に仕上げたおやきにはリエットを詰め、その色には野沢温泉村が誇る道祖神祭りへのリスペクトを込めた。

ちなみにレストラン名の「サンアントン」は、野沢温泉村が姉妹村提携を結ぶ、アルペンスキー発祥の地、オーストリアのサン・アントン村に由来する。“スキーと料理”という二つの視点を持つからこそ、一皿の中に、村の自然や暮らしを立体的に映し出すことができるのだろう。

ハウス サンアントン
Hotel Haus St Anton

住所:長野県下高井郡野沢温泉村豊郷9515
ディナー:18:00 一斉スタート
予約:前日までの事前予約制
0269-85-3597
※ホテル併設
https://st-anton.jp

20:00 自家源泉を守り継ぐ老舗「旅館さかや」。

温泉街の中心、大湯のすぐ隣に建つ「旅館さかや」。落ち着いた趣を湛えたこの館が、この日の宿だ。ここは十八代続く老舗旅館で、源泉と向き合いながら野沢温泉の湯文化を受け継いでいる。宿の庭園内からは自家源泉が自然湧出し、湧き出したばかりの湯をできるだけそのまま浴槽へ導くため、加水をせず、湯量や浴槽の深さ、広さを調整することで温度を整えているという。

大浴場は、男性用の「鷹の湯」と女性用の「月の湯」があり、宮大工による伝統的な湯屋建築で静かな佇まいを残している。浴槽は、あつ湯、ぬる湯、腰湯に分けられ、源泉の個性を温度の違いでゆっくり楽しめるほか、露天風呂「月見の谷」や貸切風呂も備える。

客室は、広縁のある和室を中心に、和洋室や次の間を備えた客室、長期滞在にも向く離れまで揃う。大湯や麻釜をはじめとする外湯や町歩きの拠点にしやすく、宿の自家源泉と村の共同浴場を行き来しながら、異なる湯文化を一度の滞在で味わえるのは魅力的だ。

外湯を守る湯仲間と同じく、野沢温泉の恵みを次世代へと受け継ぐ、旅館さかや。湯上がりの心地よい火照りを残したまま客室の窓から村の景色を眺めていると、「次に来るなら、もう一晩増やして泊まりたい」と思わずにはいられなかった。

旅館さかや

住所:長野県下高井郡野沢温泉村豊郷9329
予約専用:0269-85-3119

【DAY2】

10:00 Shinyu Houseでおやき作り。

信州のソウルフードといえば、おやき。山が多く寒冷で、かつて米の栽培に適さない地域も多かった長野では、身近な粉ものと旬の野菜を組み合わせたおやきが、日常の食として長く親しまれてきた。長きにわたって受け継がれてきたその食文化に触れてみたい、と向かったのは「Shinyu House」。

おやき作りを教えてくれたのは、野沢温泉村で生まれ育ち、村の自然や文化を体験するプログラム「Snow Crystal Wellness」を主宰する松村弘美さん。作り方を教わりながら生地を手でのばし、野沢菜やあんこ、さらにはクリームチーズや自家製のハラペーニョのピクルスなど、変わり種も揃えた具をたっぷりと包んで形を整えていく。

おやきは一見すると素朴な料理だが、実際に作ってみると生地の厚みや具の量、包み方ひとつにも慣れが必要。家庭ごとの味が生まれる理由がよくわかる。

手を動かしながら、弘美さんから土地の話を聞くのも楽しかった。おやきは、畑で採れたものを無駄なく使い、農作業の合間にも食べられるよう工夫されてきたものであること。食材を育む自然への敬意がたっぷりと包まれていること。

はじめて自分で作ったおやきは少し不格好で、焦げ目も少々ついたけれど、それもなんだか愛らしかった。

Shinyu House おやき作り体験

住所:長野県下高井郡野沢温泉村豊郷8783-1
時間:10:00〜13:00(約3時間、ランチを兼ねた体験)
予約:事前予約制(下記サイトより申し込み)
https://nozawayogawellness.com/en/oyaki/

14:00 人と人を結ぶ、道祖神。

お腹いっぱいの身体を少し動かすべく、温泉街をそぞろ歩いてみる。すると、旅館や商店の軒先など、街のあちらこちらで目に入るのが、男女一対の円筒形をした「木造道祖神」だ。野沢温泉の人々にとって身近な神様なのだという。

毎年1月15日に開催される「道祖神祭り」は、300年以上の歴史を持つ。国の重要無形民俗文化財にも指定される火祭りで、巨大な木造の社殿をめぐって火の攻防が繰り広げられる。

祭りの準備は前年の秋、社殿に使うブナの御神木を山から伐り出すところから始まる。前々日には25歳と42歳の厄年の男たちが御神木を人力で曳き、前日には釘やかすがいを使わず、昔ながらの方法で巨大な社殿を組み上げる。祭りが終わった後は、雪解けを待って燃え残った木々を片付け、その場所を再び畑へ戻すまで仕事は続く。祭りは数日間のイベントではなく、季節をまたいで村の暮らしに組み込まれた営みなのだ。

野沢温泉村の人々は、この祭りを「人間づくり、仲間づくり」の場と語る。厄年行事を務めることは、村の「大人」の仲間入りとされ、同じ年齢の仲間を結び、一度村を離れた人が帰ってくるきっかけにもなる。華やかな火祭りの裏側で、毎年、人と人との関係そのものが結び直されているのだ。

17:00 野沢温泉村の玄関口、montへ。

今宵の拠点となる「mont(モン)」へ。2026年1月に開業した全10室のスモールホテルで、約100年の歴史をもつ旅館をフルリノベーションしたのだという。コンセプトになっているのは、野沢温泉という土地を象徴するふたつの要素、「火」と「水」。火は冬の道祖神祭り、水は温泉や雪、湧水を表し、村の自然や文化を現代的な空間へと落とし込んでいる。

客室には、古い建物に残されていた太い梁や土壁の質感を生かしながら、土や水、祈りの記憶などをモチーフにした全室異なるアートを配置。光の入り方や素材の表情、空間の余白を大切にした設えで、古い旅館の記憶と、現代の滞在に求められる快適さが重なっている。

そしてディナーは、1階の「mont restaurant」へ。ここでは、「火」が料理の主役となる。カウンターの背後には薪火グリラーが据えられ、揺らめく炎や薪のはぜる音、立ち上る香りまでが食事の一部になる。

料理を手がけるのは、東京・代々木公園「PATH」で料理長を務めた寺島惇シェフ。信州の山や森が育む旬の食材に、薪火という原始的な調理法を掛け合わせ、素材の持ち味をまっすぐに引き出していく。

コースは、その時季に最もおいしい食材を中心に組み立てられる。野沢プチトマトとタイムを使ったフォカッチャ、信州和牛の薪焼きグリル……、土地の食材や食文化を洗練された手法で表現した品々が続く。

寺島シェフ自身、薪火について「火を操るというより、火に素材をゆだねる調理」と表現しており、自然をコントロールするのではなく、土地の力を受け入れながら料理へと変えていく姿勢が表れている。雪解けの水に育まれた野菜や穀物、この地域に根付く発酵文化を取り入れているのも特徴的だ。

翌朝に用意されるのは、信州の食材を使った和朝食。この日はじっくりと火入れされた鶏肉のグリルがメイン。個別の釜で炊き上げるコシヒカリは、一粒一粒がふっくらと立ち、噛むほどに米本来の甘みが広がる。夜と朝で異なる表情の食を通して土地の恵みに触れられるのも、ここに泊まる楽しみのひとつだ。

世界各地から旅行者が集まる野沢温泉村で、洗練されたデザインと食を通して、土地の記憶を現代の滞在へとつなぐmont。新しい滞在の価値を提示する、いまの野沢温泉村を象徴する一軒だ。

mont -Nozawa Onsen Ski Resort
モン

住所:長野県下高井郡野沢温泉村豊郷9521-1
※レストランは事前予約制

【DAY3】

10:00 五感をととのえ、完全リセット。

旅の最後は、おやき作りを教えてくれた弘美さんが主宰する「森林セラピー」へ。ウォーキングに呼吸法などを組み合わせながら、ゆっくりと自然の中へ身体をほどいていくプログラムだ。歩く速度を落とし、立ち止まり、ときに深く呼吸しながら森の中で時間を過ごしていく。

しばらく歩いていると、日常では意識することの少ない感覚が少しずつ戻ってくる。足裏に伝わる土や落ち葉の感触、木々の間を抜ける風、葉を揺らす音、森の匂い、光の変化。五感をひとつずつ取り戻していくような時間は、頭の中に溜まっていたものを静かにリセットしてくれた。

森林セラピーを終え、旅の締めくくりに村を一望する小高い場所に立ち寄った。山とひと続きになった村を眺めながら思い出したのは、この旅で何度も耳にしてきた「循環」という言葉。水も湯も、野菜も人も、すべては山の存在と人々の手によって受け継がれ、更新されながら続いている。

旅の途中にお会いした野沢温泉村の村長、上野雄大さんはこう語っていた。
「居心地の良さとは、地域の暮らしそのもの」。

じきに美しい雪景色で覆われる野沢温泉村。
日本が誇るべき「ふるさと」の魅力に触れるなら、冬が始まる前の季節もまた、絶好のタイミングだ。

Snow Crystal Wellness 森林セラピー®

所要時間:3時間コース 9:00〜12:00 / 5時間コース 9:00〜14:00
事前予約制
※18歳以下は保護者同伴
※天候や強風により中止となる場合あり。
https://nozawayogawellness.com/forest-therapy

Special thanks : Booking.com

madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
ファッション誌・旅行誌・ライフスタイル誌の編集職に携わったのち、現在はフィガロのエディターに。学生時代、フランス・オスゴールとビアリッツでサーフィンと美食、おしゃれにどっぷり浸った日々が忘れられず、「老後にもう一度!」と甘い夢を抱きながら、今日も都会の荒波に翻弄される。