純粋で凶暴な少年たちが辿り着いた、いま生きる希望。
インタビュー
苛烈で鮮烈。これほど純粋で過激な少年の内面を描いた作品があっただろうか。映画監督、大森立嗣のオリジナル脚本を映画化した『タロウのバカ』は、公開と同時に日本映画界に大きなインパクトをもたらすだろう。
物語の主人公はタロウ(YOSHI)というらしい。”らしい”というのは、彼には名前も戸籍もなく、一度も学校に通ったことがない現代にあぶれた少年だからだ。
そんな“何者でもない”彼は、エージ(菅田将暉)とスギオ(仲野太賀)という高校生の仲間と、なんとなく愉快な毎日を送っている。エージとスギオもまた、それぞれ学校や家族に対してやるせない悩みを持ちながらも、タロウといる時だけは心が解き放たれた。
いつものように3人で奔放に過ごしていたある日、偶然にも一丁の拳銃を手に入れる。それをきっかけに、3人はこれまで目を背けていた過酷な現実に向き合うことになっていく。
社会の枠組みからはみ出した3人の少年が見せる、一瞬の火花のような青春。生と死の間に横たわるきらめきを前に、我々観る者は感動と動揺を隠せない──。そんな異色の青春映画の主人公を演じたYOSHI、菅田将暉、仲野太賀にインタビュー。
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はみ出すことで完成するエネルギッシュな青春物語
大森監督が20代前半に初めて書き、それ以来温めてきたオリジナルの脚本が、今秋ついに世に放たれる。これまで『ゲルマニウムの夜』(2005年)、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(10年)、『さよなら渓谷』(13年)などで社会のアウトサイダーを描いてきた熱量で煮詰めた、まるで監督が描きたかった現代社会の原液のような作品。
物語の中心となるタロウ役には、完全新人のYOSHIが抜擢され、その演技とともにセンセーショナルなデビューを飾った。エージを演じる菅田とスギオを演じる太賀は、さらに新しい扉を開けたような、いままでにない表情を見せている。
左から菅田将暉、YOSHI、仲野太賀。菅田:ジャケット¥756,000、中に着たTシャツ¥46,440、パンツ¥129,600、ブーツ¥124,200/以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ(イヴ・サンローラン) YOSHI:ジャケット、パンツ/ともにフェンディ 中に着たTシャツ/ヴィンテージ シューズ/サカイ×ナイキ 仲野:ニット¥68,040、パンツ¥25,380、ブーツ¥89,640/以上アクネ ステゥディオズ(アクネ ステゥディオズ 青山)
菅田 まず、脚本を読んだ時に感じた、物語に宿る少年たちのエネルギーが印象的でした。カッコよさそう、気持ちよさそうだなって。現実でできないことをやれること、見せられることが映画の魅力のひとつですし、この物語も僕らが行ったことのない場所のように見える。だけど同時に、知っている気がする場所にも感じて。
仲野 『タロウのバカ』は、大森さんが20年くらい前に書いた最初の脚本が基になっていて、自身の11作目の作品として映画化したもの。それを聞いて僕は、大森さん自身が原点回帰をしたり、1回立ち止まって振り返ったりするタイミングなのかと勝手に考えて。
それから今回の台本を読ませてもらったら、とてつもなくエネルギッシュな内容で。こんな言い方は失礼かもしれないけれど、映画を10作撮った監督が書いたと思えないような、はみ出しまくりで整ってない感じのパンクな脚本に惹かれました。僕が高校生時代に見て衝撃を受けた『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』のような、“ちゃんとカッコつけて作っているカッコいい映画”だと思いました。
菅田 そうだね。大森さんの撮りたいものや意思をすごく感じました。それはYOSHIに会ってより思いましたね。
YOSHI おお、そうなんだ!
菅田 うん、そうだよ。『タロウのバカ』は人ありきというか、台本にあることをきれいにできることだけを求めているのではなくて、そこからはみ出すことも脚本や演出の一部なんだとちゃんと確認できたんです。
仲野 それで、いざ蓋を開けてみたら菅田将暉が出る。
YOSHIについて、かつての自分を見ているかのようと菅田。可能性に満ちた時期だからこそと、自身の経験や知識を共有しているという。
仲野 正直、台本を読んだ時に、タロウを演じられる役者なんて日本に絶対いないと思ってたんです。大森さんに聞いたらタロウ役はまだ決まっていなくて、新人で行くと。これは楽しみだと期待に胸を膨らませていたら、現れたのがこの奇人の超新星、YOSHI。
菅田 あはは、そうだよね。
YOSHI 火星から来ました! 通称ね!(笑)
仲野 YOSHIに会って「タロウ、いた――!」って(笑)。監督、よく見つけたなって思っちゃいました。
YOSHI ここにいたね〜。
仲野 ドキドキワクワクしてクランクインしたのを覚えてます。
YOSHI 最初、監督が「WWD」で僕を見つけてくれて、それからオーディション、というよりは面談のようなものを2回やりました。たぶん僕のフィーリングを見たかったんだと思います。僕は本来思ったように、クリエイティブに生きたいと思っているんだけど、大森監督はそういう人を求めてたって言ってくれて。ただ、演技も初めてだしストーリーもめちゃくちゃ過激だから、何をどう演じればいいのかわからなかったですね。
台本を読んだ時に、演技ができるできないは置いておいて、僕の活動に紐づくこともあると思いましたし、菅田将暉と仲野太賀と共演できるし、一発目の作品でこんなにいい役をやれるってすごいと思ったんです。いつも感覚で生きてるけど、僕、実は心配性なんです。演技に関しては大丈夫なんだろうか、ちょっと怖いなって。
菅田 感覚的に見えて、意外と考えてるよね。それを見て僕らは安心しましたけどね。通称火星人も、人間として当たり前の感情があるんだって(笑)。
YOSHI ギリギリね!
菅田 見たことないものを怖がるっていうのは、何事においても大事なことですから。
YOSHI そうしたら、監督が「軽くでいいよ」と言ってくれて。ちょっとビビりながら初日をやってみたら……。
仲野 ちょろいなって?
YOSHI 自信はなかったけど、意外とできるなって(笑)。調子に乗っているわけではなくて……。というか、僕的には1カット目が始まって、あまり演技している感覚がなくて、僕の内側にある人間のある部分を出したという感じなんです。もちろん現場ではタロウになりますけど、そこまで深く考えて「タロウにならなきゃ!」っていうのはなかった。
菅田 なるほどね。
YOSHI 逆にいうと、一発目にはやりやすかったのかもしれない。これでもし青春恋愛系だったらどうしようってなりますね(笑)。その点で、このメンバーは居心地がよかったんです。将暉も太賀もすごい俳優で有名だけど、僕にそれは関係なくて、同じ立場でいようと考えていました。対等な関係でみんな一緒に突き進んでいくぞっていう感覚でやっていました。
菅田 それはうれしいよね。
仲野 そうだよね。そして、すごい。
YOSHI それを気にしたら終わりだなっていつも思っていて。何をやるにもそう。それは、今回の映画においても間違いなかったと思ってます。
菅田 うん、間違いなかったよ。
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物語を加速させる完全新人YOSHIの存在
独特の空気感を纏い、突如映画界に登場した超新星のYOSHIと、公私ともに親交が深い菅田と太賀が築いたフラットな関係。学校に通わず社会の規範の外で本能のまま生きるタロウと、やるせない悩みを抱える思春期真っ只中の高校生エージとスギオという、ピュアでいびつな友情関係を構築するうえで、それは大事なことだったようだ。
菅田 物語同様、なるべく3人でいることがお芝居に繋がると思いました。一緒の時間を作ることでYOSHIも伸び伸びするし、僕らも同じ。太賀とは知り合ってから長いし、プライベートでもふたりでいることが多いから新鮮だった。僕らふたりの間に誰か加わるだけで全然空気が違くて、YOSHIがいる関係性がすごく心地よかったんです。タロウとエージは感情を表に出す性格ではないけれど、そこは僕もYOSHI同様に、その時のありのままの自分を使おうと考えていました。きっとそれがこの映画が向かいたい方向のような気がしていたから。
仲野 僕はYOSHIのタロウを前にして、すごくやりやすかったです。
YOSHI まじで? ありがとう。
自由奔放でエネルギーに満ち、好奇心が旺盛なYOSHI。年齢やキャリアにかかわらず、対等に他者へ接する姿は誠実さと敬意を感じる。
仲野 3人の関係性を自分なりに考えた時、まずとにかく本当に突き抜けた存在のタロウがいる。そして、その背中を追いかけながら、まだ軸足がついたままなんとか突き抜けようとするエージがいる。その後を、両足を地につけたまま追いかけようとしているスギオがいる。それぞれが進む矢印が決まっている気がしていて、とにかくタロウが行き切ってくれないとエージも先に行けないし、スギオもついていけない状況の中で、YOSHIは常にアクセル全開で突っ走ってくれたんです。それは本当にやりやすかった。
菅田 わかる。大森さんが主演に決まった子に会わせたいって僕らをごはんに誘ってくださったんですが、その場が完全にYOSHIの空気に(笑)。YOSHI自身が誰よりも自由でやんちゃで、それでみんな彼が大好きになっていて(笑)。
YOSHI えへへ。
菅田 これが今回のチームなんだなと思って、僕は入っていくだけでした。もちろん、エージ役を演じるうえで学校や兄貴、銃のこととか、細かい部分でいつもどおりお芝居に向き合っていたけれど、それ以上にこの映画にとって、そして僕にとって大事にしていたのは、力強いYOSHIを中心とした3人の関係性なんです。
仲野 鉄砲玉のように飛ばしすぎるタロウとエージに対して、スギオはこのふたりと観る人の間に立たなきゃいけないなって思っていました。普通の感覚は絶対忘れちゃいけないなって。スギオは観客との橋渡し役でもありますし、何事にもいちばんブレーキを踏んでいたやつが、ふたりの背中を追いかける中でコントロールを失い、行き切っちゃった男なんです。
YOSHI そうだね。ラストは言えないけどね(笑)。
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演じながら気付いた理屈じゃないカッコよさと絆
人間ドラマや群像劇を観る時、生きる意味や価値を勝手に求めてしまう。しかし、今作は理性の枠の外にあり、人の衝動や本能、感覚をメインに描く。タロウという“何者でもない存在”を、自分を飾ることなくスリリングに、そして魅力たっぷりに演じ切ったYOSHI。そんな彼を主人公のひとりに据えた本作『タロウのバカ』で、若手実力派俳優の菅田、太賀はひとりの役者として新たに感じたものがあったと語る。物語をふり返ってみて、それぞれが思うこととは──。
仲野 この作品で監督からは、若者の青春や疾走感を描く時にはもっと感覚的に、衝動的に動いてほしいと常々言われていました。いままで僕は理屈を積み上げて役作りをしていく感覚があったのですが、自分の小さな頭で本番の撮影前日に考えたようなことではなく、その場にいるYOSHIと将暉に対してどう動くかということに目を向けていて、初めはそれが怖かったんですよね。自分はどこかで理性が働くけど、ふたりを見ているととても自由だから、僕もそこに乗っかってみたり。そういうお芝居はすごく新しくて楽しかったですね。
菅田 それがスギオに繋がっているんだと思う。
たしかな経験を糧に、迷いのない言葉で話す太賀。本作で見せた、衝動的で感覚的な表現に振り幅の広さを痛感する。
仲野 そうだよね。完成した本編を観て、僕が思っていたカッコいい映画になっていてすごくうれしかったです。昔の日本映画にあったような、ムードのある映画になったかなって。カッコいいって、理屈じゃなくて観終わった後に、胸に何か刺さってるという感覚。最近は、観る人自身がわからないことに対してのアレルギーが強いと思うんです。そういう意味で、感情を揺さぶるパンクな作品に仕上がっています。
YOSHI 相当パンクだよね。僕は初めて本編を観た時、スッキリする映画ではないなと。だから、ここから先どうなるんだろうと思ったり、こういう現実世界もあるんだなと想像したり、リアルな展開にとても考えさせられました。
菅田 うん。シンプルに言うと勇気がもらえる。自分が日々生きていて感じている苛立ちや怒りを肯定してくれている気持ちになります。かといってそのネガティブな部分を持っていることが正しいとは言っても、それでは生きてはいけないこともわからせてくれる。
YOSHI うんうん。
菅田 あと僕が考えたのは、自分がデビューした16歳の時のこと。初めてお芝居をした「仮面ライダーW」はバディもので、相方役は桐山漣くんという素敵な方で。彼に標準語を教わって、古着の世界へ連れていってもらい、ごはんも作ってくれて(笑)。あれから10年くらいが経って、あの時の漣くんのように、僕もYOSHIに何かしてあげられたらなって。
YOSHI いろいろ教えてくれました。ありがとう!
菅田 責任感というと勝手な感覚ですけど、彼を見ていてこの自由さはおもしろいし、世の中にかましてやれって思ったんです。新しい世代のために、いかにやりやすい環境を作ろうかと考えたのが初めてでしたね。不思議なことに、そう思って動いていると、逆にこっちもフレッシュな感覚になるんです。
仲野 ラストシーンは言えないのですが……社会からはみ出した3人が銃を拾い、死を近くに感じる中で、最後タロウはとにかく動き回って叫んで、めちゃくちゃ生に向かっている。僕はそこでタロウがエージとスギオと出会った意味を感じて。僕も将暉もスギオとエージを演じながら、YOSHIに、タロウに何か託せるものがあったらと思ってやっていたので、最後彼が生命力いっぱいにタロウを表現してくれたことは、これからの彼の活動にとっても映画にとっても希望だと思いました。
菅田 締まった!
YOSHI 締まったね!
仲野 ありがとうございました(笑)。
YOSHIの「ジャンプしたい!」のひと言で。
●監督・脚本・編集/大森立嗣
●出演/YOSHI、菅田将暉、仲野太賀、奥野瑛太、豊田エリー、植田紗々、國村隼
●2019年、日本映画
●119分
●配給/東京テアトル
●9月6日より、テアトル新宿ほか全国にて公開
www.taro-baka.jp
©2019映画「タロウのバカ」製作委員会
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photos : YUICHIRO NODA, texte : HISAMOTO CHIKARAISHI, stylisme : SHOGO ITO/SITOR(MASAKI SUDA), KOJI OYAMADA/THE VOICE(TAIGA NAKANO), maquillage:EMIY(MASAKI SUDA), MASAKI TAKAHASHI(NAKANO TAIGA)