attitude クリエイターの言葉
ブラック・ライヴズ・マターを、音楽でリードする時代の旗手。
インタビュー
ジョン・バティステ|ミュージシャン
「子どもの頃から、ニューオリンズで音楽をやってきた。あの街では音楽をジャンルで捉えることなく、曲は人との繋がりの中で生まれるものという意識が根付いているんだ」
この環境が、独自のコンセプト「ソーシャルミュージック」を生んだ。有名な音楽一家に生まれ、ジャズをはじめ、あらゆる音楽に触れて育ち、名門ジュリアード音楽院でピアノを学んだジョン・バティステ。映画『ソウルフル・ワールド』(2020年)の音楽を手がけたことで、彼の名は世界に知られることとなった。
ジャンルは重要ではなく、自由な融合こそ僕の音楽。
「音楽が商品化されてからジャンルという概念が生まれて、ミュージシャンはジャンルに沿った音楽を長年作ってきた。でも以前は、自由に心情や出来事を歌にしていたんだ。その原点に共鳴し、何にも縛られず、自分の経験と社会で起きたことを掛け合わせた音楽を作るようになった。それが僕のソーシャルミュージックのカタチなんだよね」
新作『ウィー・アー』は、その思いを具現化させた作品だ。アルバム前半でいまの社会を、後半でセクシュアリティなど彼自身のことを歌っている。ジャズをベースにR&Bやヒップホップ、ゴスペルなど、さまざまな要素が自然に溶け合い、気持ちよく身体が揺れるサウンドだ。
「ピカソのキュビズムは制約せず、描写したいものをすべて合わせた結果の表現だよね。多くの好きなことに触れて、そこからの影響を吸収し、僕の中で融合されるのは自然なことだと思っている」
この言葉を象徴するのが表題曲だ。故郷の聖歌隊やマーチングバンドが参加し、「ウィー・アー」と繰り返す合唱のパワーと一体感が音のうねりとなり、終盤にかけては公民権運動時代の祖父のスピーチが流れる。
「有名な活動家以外も公民権運動におおいに貢献した。そんな名もなきヒーローのひとりが僕の祖父。この曲で彼らの行動を讃えたいと思った」
1950年代の公民権運動も人種差別に抗議する活動だった。それから半世紀以上を経た昨年、人種差別抗議運動のブラック・ライヴズ・マターが全米で起きた。ジョンも抗議の一環として、奴隷解放記念日にニューヨークでデモ行進を行い、「ウィー・アー」を歌って注目を集めた。
「行進のことを『愛の暴動』と呼んでいるんだけれど、集団の真ん中に音楽があると、一緒に手拍子して歌い、踊り、言語や人種を超えて、愛を分かち合うことができる。そういう場所を僕は作り続けていきたい」
1986年、アメリカ生まれ。幼い頃から父と叔父が結成したバティステ・ブラザーズ・バンドに参加。現在はニューヨークを拠点にし、クオモ州知事からの依頼でコロナ後のアートやエンタメの復興企画に協力している。
*「フィガロジャポン」2021年6月号より抜粋
interview et texte : NORIKO HATTORI