「ティム・バートン監督との特別な絆」モニカ・ベルッチがマダムフィガロに赤裸々に語った、最新作への思いとは?

Culture 2024.08.30

名作『ビートルジュース』の続編がヴェネツィア映画祭のオープニング作品に決まった。ティム・バートン監督と交際中のモニカ・ベルッチも出演、ダークヒロインを演じる。

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ウールとポリエステルのジャケット/バレンシアガ タンクトップ/マジェスティックフィラチュール ウールジャージーのパンツ/ゴシェール ネックレス/マイヨン パンテール リング/クラッシュ ドゥ カルティエ タイツ/ファルケ。photography: Gianluca Fontana

ルテシアホテルの豪華なロビーに、モニカ・ベルッチはボディガードもエージェントも連れず、「一般人のように」やってきた。袖がふわっとした白いシャツにメンズベストを羽織り、茶色の髪はアップスタイルですっきりまとめている。地中海的な容姿を持つ国際スターはどんな場所にいても目立つのに、誰も振り返らない。「目立たないようにしようと思えばできるものよ」と言う。「ひとりで行動すれば人混みに紛れる。ボディーガード3人連れてサングラスをかける時とは違う」

気持ちはノマドなモニカはパリ左岸に家を持っている。娘のディーヴァとレオニーにきちんとした教育を受けさせるためだ。「これほどプライバシーを尊重してくれる都市は滅多にないわ」とパリを褒めちぎる。レストランのテーブルに着きながら、モニカ・ベルッチは午前の約束を変更したことをしきりに詫びた。14歳の娘、レオニーの事で急用ができたとのことだった。「どのティーンエイジャーもそうだけれど、反抗期なの。でもとても優しい子なのよ」と眼を細める。もっとも母親鳥が守る巣の中は今や半分空だ。長女ディーヴァはすでに独立し、人気モデルや新進女優として活躍中だ。一方、モニカも16歳のときにウンブリア州の小さな町チッタ・ディ・カステッロでスカウトされ、モデルデビューして以来、まだまだ活躍中だ。

34年前にモデルから女優へ見事に転身して以来、大の映画好きだったモニカは多彩な作品に出演、独自のキャリアを育んできた。世界デビューはフランシス・フォード・コッポラ監督『ドラキュラ』、フランスでは『アパートメント』(ジル・ミモーニ監督)で娘たちの父親であるヴァンサン・カッセルと出会い、『マトリックス』シリーズではパーセフォニー役を演じた。ギャスパー・ノエ監督の『アレックス』などの物議を醸した話題作やアイコニックな役をこなしながら、とらえどころのない魅力を持つ女優はローマ、ロンドン、パリ、ハリウッドを往来し、3ヶ国語を自由に操る。

数年前からは好奇心を原動力に、やったことのないリスキーな役にも挑戦するようになった。とりわけ舞台『マリア・カラスの手紙と回想録』は大成功、女優としての新境地を開いた。マリア・カラス同様、モニカも情熱の人だ。2年前から付き合い始めたのがティム・バートン。尊敬し愛する監督の話題作『ビートルジュース』続編の出演を決めた。彼女が演じるのは『シザーハンズ』の監督お得意の、最高にゴシックなキャラクターだ。

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ーーティム・バートン監督作品初出演ですね。あのカルト作品、ファンタジー・コメディの『ビートルジュース』の続編で、ヴェネツィア国際映画祭オープニング作品に決まったとのことですが、監督からどのように説得されて出演を決めたのでしょう?

モニカ・ベルッチ : 彼に出会ったとき、この映画のキャスティングはもう終わっていました。私のためにキャラクターを作ったわけではありませんが、ある日こんなふうに言われたんです。「この映画で重要な役があるんだけど、君に演じてほしい」と。それが誰なのかも聞きませんでした。ずっと前から彼の作品や、彼が描く夢のような世界が好きでした。驚きと笑いと感動に満ちた映画を作る彼の能力や才能を尊敬しています。だから喜んでドロレス役を引き受け、あとはお任せしました。いま、人生で楽しみたい時期なんです。女優として、あの詩的でファンタスティックな世界に入れてもらえて大変光栄でした。才能ある人たちと仕事をすると、並外れた創造体験ができることに気づきます。個人としてのティムと親しい仲だからこそ、監督バートンとの特別な絆が生まれ、それが創造性の糧となるのです。

ーービートルジュースの元妻、ドロレス役で気に入っているところは?

彼女はとてもとても危険な魔術師です。悪魔の夫と同じくらいダークな、正真正銘の悪女。生物学的にはモンスターではなくクリーチャーですが。傷跡は心の傷のメタファーです。思うに、生きている私たちすべての目に見えない傷跡を象徴する存在ではないでしょうか。ビートルジュース(マイケル・キートン)は祖父の死後、リディア(ウィノナ・ライダー)と母親(キャサリン・オハラ)、娘のアストリッド(ジェナ・オルテガ)の暮らしに舞い戻りますが、元妻ドロレスが彼の後を追います。失礼で乱暴なキャラクターは皆を恐怖に陥れますが、彼女自身、生き地獄を体験しているのです! 『シカゴ』、『アリス・イン・ワンダーランド』等を手掛けた衣装デザイナー、コリーン・アトウッドによる素晴らしい衣装、さらに毎日3時間かけたメイクはセットと相まって、役になりきる上で大変役立ちました。とても楽しい体験でした。

ーー第1作から35年ぶりの続編です。待望の映画についてなにか明かしてもらえませんか?

今回も生と死の境が希薄で脆いさまを描いています。キャラクターたちと別れたのがつい昨日のような気がします! 出演者は再び同じ役を演じることをとても楽しんでいました。ウィレム・デフォーやジャスティン・セロー、そして私のような 「新参者」も、すぐに家族のように溶け込みました。今回の映画のすごいところは、タイトルロールこそ男性ですが、話の中心は3世代の女性である点です。彼女たちが団結しようが、敵対しようが、気持ちは通じ合っていて、強い愛情で結ばれています。第1作から35年経ち、女性史上重要な時期にさしかかったこの時点で『ビートルジュース』の続編が公開されたのは偶然ではないように思います。今日、女性は独自の社会的役割を果たすようになりました。まさに歴史的瞬間です。発言することも、気持ちを表現することも恐れなくなり、女性たちは連帯し始めました。女性を愛し、2人の娘を持つ母親として、この映画は時代と共鳴していると思います。

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ーーお嬢さん2人は高齢出産ですね。これは意識的な選択でしたか?

ええ、ディーヴァは40歳、レオニーは45歳で生みました。リスクは大きかったので見習わないで欲しいです。いずれにせよ、これより早くは産めませんでした。仕事も忙しかったしあちこち旅行していましたし! とにかく時間が足りなかったんです。思い立ったらリュックを背負って、ひとりでふらっと旅に出るのが好きでした。自分のことを知っているので、こうした仕事の経験を積まずに出産したら、自分のなかで不満を溜めただろうし、良い母親になれなかったかもしれません。子どもを授かろうと決めてから授かったことで、子どもにかまける時間は心からの喜びとなりました。自分が犠牲になっているとは決して感じません。フランスの哲学者、エリザベット・バダンテールが最新作『Messieurs, encore un effort ......(殿方、まだ努力が足りません)』(Flammarion刊)でいみじくも語っている通り、女性は進化しましたが母親の地位は向上していません。出生率の低下は家事労働の負担が大きすぎるからです。それ以外、成績優秀で、男子よりも優秀なことも多い女子が、社会に出るとキャリアが望めないことはどう説明するのでしょう。働く母親になるのはとても大変なことです。出産して3ヶ月後に仕事復帰する若いお母さんが大半です。私は高齢出産したことでそれを免れました。可能な限り撮影現場に子どもたちを連れて行きましたし、それができる職業でした。でもそれは恵まれているからです。ディーヴァはしょっちゅう移動をし、転校も頻繁でした。それでも常に子どもといました。離れている時間をできるだけ短くしようと心がけました。子どもの世話をする時間は決して無駄ではありません。絶対に! なぜならいつかは子どもたちは巣立ち、自分の人生を歩み始めるからです。それが健全で、あるべき姿ですが、なかなか難しいですね。まだ子どもたちと一緒の時間があることを神に感謝しています。

ーーディーヴァは映画『山猫』を原作とするNetflixの新シリーズでクラウディア・カルディナーレが演じた役に挑戦しています。ディーヴァの活躍をどう感じていますか?

もちろん、とても誇りに思います。もう20歳なんだと最近実感しています。世界のあちこちで仕事をして、今日はロンドン、明日はニューヨーク......今日は娘に、いつなら一緒にディナーが食べられるか連絡しました! ちょっとした近況報告の場を設けるようにしています。それはとても大切なことです。レオニーはまだ家にいるし、ディーヴァにとってもここが基盤ですから。でも娘の自立を喜んでいます。特に、モデルと女優の両方の仕事をとても楽しそうにこなしているのを見るのは、とても嬉しいです。娘はとても気が強くて、私自身はなかなかする勇気のなかったことをやってのけます。ただ、「親がセレブかどうかがすべて」という言葉には賛同しません。もちろん、セレブの子どもにはみんな興味を持ちます。本人もそれは自覚しています。でもスクリーンテストを受けて役をもらえたり、撮影で再び指名してもらえるのは本人の力です。娘が言うように、「医者の家もあれば、芸術家の家もある」のです。

ーーシリーズ『エージェント物語』であなたが演じたフィクションとしてのモニカ・ベルッチは、「普通の男性」と恋愛したいと嘆いていました。ティム・バートンのどこに惹かれました?

プライベートなことについてはお話しできないので、ふたりの関係についてはそっとしておきます。彼の作品があらゆる世代に響いているのは事実です。それは登場人物が、人生を純粋な目で素朴に捉えているからでしょう。悪人でさえも、なりたくてなったわけではないように見えます! 彼が作り出すストーリーには驚きとミステリー、笑いと感動が詰まっています。

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ウールのボディスーツ、スパイラルスカート/アライア リング/クラッシュ ドゥ カルティエ。photography: Gianluca Fontana

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ーー来月60歳になります。人生の新たな転機をどう感じていますか?

ありがたいと思っています。まだ生きていて多少なりとも健康でいられることに! 多少なりともですね。自分なりに出来る範囲でしか出来ないですから。子どもたちも元気です。朝起きて、おいしいカプチーノを飲むだけで、一日ハッピーでいられる日もあります。それ以外のことはすべておまけです。まだ好奇心は衰えていません。日々やることは増えましたが、まだまだ動き回りたいですね。

ーー女性監督との仕事が増えています。女性監督があなたを見る目は異なりますか?

最近は女性監督も増えているし、女性同士だと確かに話も合います。たとえばマルジャン・サトラピ、レベッカ・ミラー、アリーチェ・ロルヴァケル、カウテール・ベン・ハニアと仕事をしてきました。仕事をしてみて、女優として得る経験も多かったです。シリーズ『Ça c'est Paris !』(TV局フランス2で11月放送予定)では、60歳の女性を演じます。パリのキャバレーでショーのリーダー役を務める女性です。『エージェント物語』に続いてマルク・フィトゥシと仕事ができたことを喜ばしく思っています。

ーーずっと存在を無視されていた60代の女優たちの居場所がようやく出来たのでしょうか?

ええ、何歳になっても演じる場があるのはとてもラッキーです。2023年に公開されたフランス映画で、50歳以上の女優に与えられた役はわずか9%でした(フランス女優男優協会(AAFA)の調査「Tunnel de la comédienne de 50 ans(50歳の女優の苦難の道)」による)。まだ道のりは長いですが、0よりましでしょう。40歳をすぎると、一部の傑出した例外を除き、女優としては終わりでした。いまや例外が増えています。これからは例外が当たり前になっていくのかもしれません。女性の寿命が伸び、社会で働き、母親となり、自分も大切にする。そんな女性が増えています。成熟した女性は美しく、生き生きとした女性らしさも持っています。もっと活用すべきでしょう! それに彼女たちは若い女性たちとの「クッション」役なんです。60歳の私が80歳の友人と話をするのはとても有益なことです。経験豊かな話のおかげで自分の悩みを相対化でき、冷静な態度で落ち着かせてくれます。歳を重ねて適切な言葉を知る女性たちの果たす役割は、社会に不可欠なものです。

ーーあなたはアイコンとみなされていますが、そう呼ばれることを拒否しているのはなぜ?

自分がそう思っていないからです。その言葉が持つ距離感に共感できません。好きなことを思うがままにしていきたい。イメージというものは非常に危険です。誰もが同じように受けとめるわけではなく、常になんらかの投影だからです。大切なのは自分が感じていることであり、日々の真実です。本当の人間関係、コミュニケーション、私たちの人間性を定義するもの。本質的にイメージは真実になりえません。イメージはただうまく操り、出し抜くしかないのです。

『ビートルジュース ビートルジュース』ティム・バートン監督。日本劇場公開日は9月27日。

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【写真】モニカ・ベルッチのこなれスタイル

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ウールとポリエステルのジャケット/バレンシアガ タンクトップ/マジェスティックフィラチュール ウールジャージーのパンツ/ゴシェール ネックレス/マイヨン パンテール リング/クラッシュ ドゥ カルティエ タイツ/ファルケ。

photography: Gianluca Fontana

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ポプリンシャツ/カール ラガーフェルド 混紡コットンのボディスーツ、タイツ/ウォルフォードリング トリニティ/カルティエ パンプス/クリスチャン ルブタン。

photography: Gianluca Fontana

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ウールのボディスーツ、スパイラルスカート/アライア リング/クラッシュ ドゥ カルティエ。

photography: Gianluca Fontana

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ブラジャー/カドル キャディのパンツ/マックスマーラ

photography: Gianluca Fontana

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綿ギャバジンのオーバーサイズコート/ステラ・マッカートニー イヤリング/クラッシュ ドゥ カルティエ パンプス/クリスチャン ルブタン。

photography : Gianluca Fontana

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フェイクレザージャケットとメッシュチュールスカート/アクネストゥディオズ タンクトップ/ルドヴィック デ サンサーナン ブレスレットとリング/クラッシュ ドゥ カルティエ ベルト/ゴシェール タイツ/ファルケ パンプス/クリスチャン ルブタン。

photography: Gianluca Fontana

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レザージャケット/トッズ ピンクゴールドのリング/クラッシュ ドゥ カルティエ。

photography : Gianluca Fontana

Edit: Barbara Baumel / Hair:John Nollet, フルイド ド ボーテ14/ラ メゾン ド ボーテ カリタ / Makeup: Jolana Cedro / Manucure: Elsa Deslandes

text: Christelle Laffin et Barbara Baumel (madame.lefigaro.fr)

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